第11話 すれ違いの手紙


ムハマドとラクシュミの関係は、しだいにぎこちないものになりつつあった。以前のように笑い合い、心を通わせる時間は減り、ラクシュミはどこか冷たく距離を取るようになっていた。

ムハマドは彼女の態度の変化に気づいていたが、その理由がわからなかった。授業中も彼女をちらりと見るたびに、どこか切なげな表情を浮かべる彼女の姿に胸が痛むばかりだった。

「なぜ避けるんだ、ラクシュミ……?」

ムハマドの心は次第に焦りを増していった。

近づこうとするムハマド、離れるラクシュミ

ある日の放課後、ムハマドは意を決してラクシュミを校庭で呼び止めた。

「ラクシュミ、少し話せる?」

しかし、ラクシュミは振り返りもせず、小さな声で「ごめんなさい」とだけ言い残して去ってしまった。その姿を見送るムハマドの胸には、言葉にできない不安が広がっていった。

彼が近づこうとすればするほど、彼女はさらに遠ざかっていくように見えた。


そんな日々が続いたある朝、ムハマドがいつものように教室の自分の机に向かうと、一通の手紙が置かれているのを見つけた。それは、彼女と付き合うきっかけになった日を思い出させる、見覚えのある封筒だった。

「ラクシュミから……?」

期待と不安が入り混じる気持ちで手紙を開いたムハマド。そこに記されていた内容は、彼の心を大きく揺さぶった。


手紙の内容

ムハマドへ

あなたとの時間は私にとって何にも代えがたい大切なものでした。

だけど、私たちの関係が父に知られてしまいました。

私には親から決められた婚約者がいます。

それでもあなたとの時間を選びたいと思っていたけれど、父が言いました。

もし私たちがまた会っているのを見つけたら、あなたに危害を加えると。

あなたを傷つけたくありません。だから、しばらく距離を置くことを選びました。

どうかこれ以上近づかないでください。

それが私にできる、最後のお願いです。

ラクシュミ


手紙を握りしめたムハマドは、椅子に腰を下ろし、しばらく動けなかった。ラクシュミの真意がわかった今、その距離の理由に納得はしたものの、彼女が一人で苦しみを抱えていることを思うと胸が締めつけられる。

「ラクシュミ……そんな思いを一人でさせるなんて……。」

彼女を守りたい。それがムハマドの中で強く芽生えた感情だった。だが、どうすればいいのか、今の彼には答えが見つからない。

教室の窓から見える青空をぼんやりと見つめながら、ムハマドは静かに拳を握り締めた。

「俺は諦めない。絶対に……。」

ラクシュミとの距離が広がる一方で、ムハマドの胸には次第に焦燥感が募っていった。彼女が手紙に書いた内容は、危険を避けるための正しい判断かもしれない。しかし、それでもムハマドは彼女を救いたいという思いを捨てきれなかった。

「ラクシュミを助けるには、彼女の家についてもっと知らなくちゃならない。でも、どうやって……?」

学校に通うだけのムハマドには、ラクシュミ家の情報を得る手段などなく、彼は途方に暮れていた。

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