扁桃腺リベレイション デイズ

花森遊梨(はなもりゆうり)

狂気満点扁桃腺

朝が来た。生まれ変わったようないい気分だ。 息は痛みひとつなく、喉を吹き抜け、無意識に唾だって飲み込める。 もう微笑み忘れた顔など晒しはしない。


ちなみに死んではいない。感情移入もさせずに見ろ!お望み通り人が死んだぞ!さあ泣け笑え感動しろそれで星と応援と幸せに満ちてくとか傲慢がすぎる。



私が生まれ変わったのは、もう喉が痛くないからだ。扁桃腺が白くなるレベルの扁桃腺炎と、ついに今日、縁切りしたのである!!


一ヶ月前

我が扁桃腺はかくの炎に包まれた!!


人食いバクテリア(和名・溶連菌)とアデノウイルスがジープに乗って駆け回り、水平2連散弾銃を放って健康な細胞を引き裂き、苗床に変えていく。


そんな世紀末と化した扁桃腺とは虫垂と並んで手術で切除されるのが仕事であると思われがちだが、その正体は喉にある免疫システムぎっしりの要所である。


そんなところで世紀末行為に手を染められた人体も黙っていない、やがて火炎放射器にソードオフショットガンをぶら下げたリンパ球が、ドクロ型酸素マスクを被り、胸に七つの傷を持つナチュラルキラー細胞が、若き日のメル・ギブソン演じるT細胞に率いられて集結。


やがてその全員が拳やキャデラックや火炎放射器でぶつかり合う。人食いバクテリアの肉がT細胞に割かれ、リンパ球が生きながらアデノウイルスに臓物を屠られ、ナチュラルキラー細胞が腕を振るい、すべてが弾け飛んでいく。



人が風邪や扁桃炎などと呼ぶ状態に時、体内ではこんなふうに人体と病原体がお互い拳やキャデラックや本音でぶつかり合っているのだ。


すると、扁桃腺は謎の焼けこげたネジの代わりに真っ白な膿が転がるマッドマックスと化す。


なにより、喉の奥に「激痛」が走るのだ!!


人体がマッドマックスをやっている間、人間は大変である。息を吸い、唾を飲み込み、飯を食う、そんな当たり前一回につき、喉から全身が強張るほどの激痛が走るのである! 激痛一回と引き換えに三大欲求全てが成せるというあまりにも不自由、円高より酷いレートが成立、世界は痛みに包まれた。


しかもこの戦いは負けたら死ぬ。負けるわけにはいかなかった。 冷水を一気飲みして痛覚を和らげ、白米や味噌汁、時にはビタミン剤に焼き魚を体に叩き込み、夜はどんぶり一杯の鎮痛剤を枕元に常備し痛みをねじ伏せ、睡眠欲を実行させる暮らし。 朝は毎日鏡に向かって「ざまあみろ!喉を痛めたくらいで人類は負けない!誰も私の安らぎ壊すことできはしないさ!」とゲッソリした自分を鼓舞する日々はもう終わりだ。



こうしてせっかく喉が自由になったのだ、久しぶりに朝から激辛ラーメンをオカズにあんドーナツを食べる暮らしに戻るとしよう。


食事内容の良し悪しに関わらず必ず喉に激痛が走らず、不摂生を当たり前に送れて、その結果が太るだけで済むこと、それに勝る幸せはないのだから!


次回

流行性感冒険・怒りのマイコプラズマ



公開日未定


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扁桃腺リベレイション デイズ 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224

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