第6話

インターホンに出る気にもなれず、立ち上がることもせず、良く母が座っていた椅子に座ったまま、じっと時が過ぎるのを待った。




3回程インターホンが鳴った後、鳴らなくなった。

代わりに、鍵を開ける音がした。






鍵?何でだろう。お母さんはもう居ないのに。



夢を見ているような感覚に陥る。

恐らく普段なら侵入者だとすぐに理解出来た。

だが、今の私にそんな考えはひとつもなく、ただじっと虚空を見つめ座っていた。





「生きてんのか?」


そう口にしながら入ってきた男は、黒いスーツに身を包んでいた。

左の目には傷のようなものがある。


その後ろから、屈強な男が2人。同じように、スーツに身を包んでいる。


「誰…」

掠れた声で問いかけた。

しばらく話さなかったからだろう、声が思うように出ない。



狼月こげつ組のモンだ。あんたは飛槻 紅葉か?……まぁ、間違いねぇか。おい、連れてけ。」


こちらの問いにははっきりと答えず、入ってきた男は納得すると、後から入ってきた屈強な男たちに声をかけた。


狼月組…ということは、所謂極道。

この周囲の土地は全てこの組が取り仕切っている。

狼月組がいる事でこの街は平和だとも言えた。その理由は、『カタギには手を出さない。また、危害を及ぼさない。』そのルールが何代にも渡り守られているからである。



そんな狼月組の人間が、私に何の用なのか。

身内に極道なんて居なかったし、万が一父親がそうであったとしても、正直なところ私や母は身内という扱いではない。


関わりがあるとすれば、私が極道を嫌いになった原因となる事件はあるが、あれはもう何年も前の話であり、とうに済んだ話だ。




「立て」

屈強な1人の男に命令されたが、とても従う気にはなれず、ぼんやりと虚空を見つめ続ける。



「若、どうしますか」

「……面倒臭ぇなぁ。俺が連れてく。」


そう言って、男は私の目の前にしゃがみ込んだ。

「お前の母親は殺された。お前の父親によってな。復讐するか?それとも今すぐ此処で死ぬか。決めろ。」


「……え?」


確かにお母さんはお父さんに会いに行ってたと最期に言っていた。

だけど、何で。

私が生まれる前に父親は何処かに消えた。

元々籍すら入れていなかった母は、未婚のまま私を産んだ。

父親の名前も顔も、何一つ知らない。そして母も、語ることもなかった。

それをわざわざ聞き出そうと考えたことすらない。


そんな父親が、お母さんを?

何のために?

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