傷つかない世界②
2日後 PM 1:48
とっくに約束の時間を過ぎているため、遅念はあせってキョロキョロと建物を見回す。その様子を、遅念から10mほど離れた前方で2人の女の子が眺めていた。黒くて長い髪にクリーム色のワンピースを着た10歳前後の女の子。瓜二つで、双子だということは一目瞭然である。
左右に並び、遅念じっと見つめる少女たち。遅念は頭の中で映画『シャイニング』のワンシーンを思い浮かべる。少し不気味に感じたが、少女たちがこの団地に住んでいて加賀和家の部屋の場所を知っていることに賭け、道を尋ねてみることにした。
遅念「キミたち、加賀和さんの家がどこにあるかわかるぅ?この団地のどこかなんだけど、迷っちゃってぇ」
右の少女「知ってるよ。ウチの下の階に住んでる人だから」
遅念「本当かい?案内してくれるかなぁ?」
左の少女「良いけど、おじさん何しに来たの?」
見知らぬ人間を他人の家へ案内するなら、事前にその理由を聞くべき。場合によっては案内しないほうが良いケースもある。遅念は「しっかりしてる子たちだ」と感心すると同時に、少女たちが加賀和一家を本当に知っているからこそ出た質問だと推察した。
遅念「加賀和さん
右の少女「その人知ってるよ。悪い人」
左の少女「人を呪い殺した悪い人」
カズヤが儀式を行って団地の住人を呪殺したことはウワサになり、小さな子供にまで知れ渡っている。
右の少女「おじさんも悪い人?」
遅念「難しい質問だねぇ……でもカズヤくんと一緒に悪いことをするためにここへ来たわけじゃないんだ。それだけは確かだよぉ」
少女たちは顔を見合わせ、クスクスと笑い始める。
左の少女「ついてきて」
2人の少女の案内に従い、遅念は6つある棟のうちの1つに入った。エレベーターで7階まで上る。少女たちはエレベーターに乗った直後から7階に到着するまでの間、ずっと顔を見合わせてクスクスと笑っていた。双子なら言葉を交わさずとも意思疎通ができるのかと、不思議に感じた遅念。
7階に到着し、エレベーターの扉が開く。
右の少女「廊下を真っ直ぐ進んだ一番奥の部屋」
遅念「ありがとうねぇ。助かったよぉ」
エレベーターから降りる遅念。振り向くと、エレベーターの中で少女たちが遅念に向かって右手を振っていた。遅念が手を振り返す。数秒後エレベーターの扉が閉まり、上階へと上がっていった。
廊下の一番奥の部屋。表札に「加賀和」と書かれている。少女たちがしっかり案内してくれたことに心の中で改めて感謝し、遅念はインターホンを押した。
タケフミとミホに迎えられ、部屋に入る遅念。遅れたことを謝罪し、早速カズヤの説得に入る。茶色い木製の扉、その向こうにカズヤがいる。ミホの話では鍵がかかっており、ドアノブに触っただけでも中からカズヤに怒鳴られるとのこと。
カズヤの気分を損ねてしまうと、儀式の詳細を聞くことも難しくなる。遅念はタケフミとミホに、カズヤとの会話が終わるまでは別室にいるよう指示。そして自分も余計なことをせず、ただ言葉だけをカズヤに伝えることに決め、扉の前であぐらをかいた。
遅念「カズヤくん、こんにちはぁ。僕は
低くて小さな声が、扉の向こうから遅念の鼓膜を微かに揺らす。
カズヤ「……真里孔大学の遅念……『降霊』と『憑依』の儀式……本物の遅念先生ですか?」
遅念「僕のことを知ってるのぉ?」
カズヤ「……儀式をやるために、ネットで遅念先生の論文を読みあさりましたから」
遅念「うれしいねぇ」
カズヤ「……遅念先生と話ができるなんて光栄です。アナタが本人なら」
遅念「じゃあ部屋から出て僕の顔を見てみるぅ?それくらいしか本人だと証明する方法がないからさぁ」
カズヤ「……それはイヤです」
遅念「だよねぇ。部屋の中にいたままでいい。キミがやってる儀式のことを聞かせてほしいんだ。特に会社の上司と同僚に悪霊を『憑依』させた儀式について」
カズヤ「……わかりました」
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