恋敵を討つな③
不適な笑みを浮かべるユズハ。その表情や、自分たちより年上の女性・アヤが教室にいる状況を見て不審に感じながらも、ヒロトは口を開く。
ヒロト「ユズハさん……だよな?ヒヨリちゃんから5時に教室に来るよう言われて……俺に何か用事があるんだって?」
ユズハ「そう。ヒロトくん、ヒヨリとかなり仲良さそうよね?」
ヒロト「まぁ、最近話すことが多い……かな」
ユズハ「話すことが多い?違うでしょ?付き合ってるんでしょ?」
ヒロト「……はぁ?そんなわけ」
ユズハ「誤魔化さないでよ。放課後一緒に帰ったり、休みの日に会ったりしてるんでしょ?」
ヒロト「そうだけど、付き合ってるわけじゃない。周りのヤツらが勝手に言ってるだけだよ」
ユズハ「アナタの認識に関係なく、周りが付き合ってると思うくらいアナタとヒヨリは親密なの。どうせディープキスはとっくに済ませてて、なんなら性交渉もしてるんでしょ?」
ヒロト「なんでそうなるんだよ!ユズハさんの妄想だ!ヒヨリちゃんはただの友達だよ」
ユズハ「どういう関係だったとしても、アナタは今後ヒヨリと話すことも触れ合うこともできない。だってヒヨリは死ぬんだから」
ユズハはブレザーの裾をまくり上げ、腹部を露出させる。その肌に無数の細い傷がついていた。傷は文章を形成しているように見える。ユズハはアヤのほうに視線を向けた。
ユズハ「……アヤさんならわかりますよね?これにどんな意味があるか」
ユズハの腹部に刻まれた文字列に、アヤは見覚えがあった。以前
ユズハ「鏡を見ながら、お腹にカッターで呪文を刻みました。誤りはないはずです。儀式の代償はそのときの痛み。代償はより強い悪霊を呼び出すのに必須。悪霊を『憑依』させる対象であるヒヨリの髪の毛は飲み込んだ。ほかに必要なものはありますか?ないですよね?どうですかアヤさん?」
アヤ「……何をしたかわかってるの?一度行った儀式を取り消すことはできないんだよ」
ユズハ「言いましたよね?私はヒヨリを殺したいって。この儀式こそが証明です」
言葉を失うアヤとヒロト。2人の様子などお構いなしにユズハは続ける。
ユズハ「さぁ、ヒロトくん。ヒヨリはもうすぐ死ぬ。あの子のことは諦めて、私と一緒になりましょう?私はヒロトくんのことを小学校2年生の頃から想い続けてきた。ヒヨリなんかとは比べものにならないほど私はヒロトくんを愛してる。ヒロトくんを幸せにできるのはヒヨリじゃない。私こそヒロトくんの恋人にふさわしい」
ヒロト「……知ってたよ。ユズハさんが俺のこと好きだって。ヒヨリちゃんから散々聞いてたから」
ユズハ「……えっ?」
ヒロト「ヒヨリちゃんはずっと、俺とユズハさんを2人きりで会わそうとしていた。でも、俺が面倒くさがって……それに俺は、ヒヨリちゃんのことが好きだったから。ヒヨリちゃんが話しかけてくれることのほうがうれしくて……ユズハさんの気持ちを無視してた」
ユズハ「……うそだ」
ヒロト「本当だよ。俺、ヒヨリちゃんに告白したんだ。でも振られてさ。『ヒロトくんにはユズハのほうがお似合い』って。その後もヒヨリちゃん、俺とユズハさんをくっつけようとしてた……」
ユズハ「うそ……うそに決まってる……」
ヒロト「うそじゃない。だから謝ろうと思って俺はここに来た。でもこんなことになるなんて……ごめん……」
ユズハの両目から涙がこぼれる。ヒロトは罪悪感から視線を下に向けた。アヤがユズハとヒロトの間に入る。
アヤ「ユズハちゃん、今すぐ遅念先生に連絡する。先生なら一度実行した儀式を止める方法を知ってるかもしれない」
ユズハは大量の涙を流しながら大声で笑い始めた。
ユズハ「あっはははははは!そうだったんだぁ!私が一人で勘違いしてただけだったんだぁ!私バカじゃん!バカにバカを重ねて親友を殺しちゃったぁ!ははははははははは!」
アヤ「ユズハちゃん落ち着いて!」
ユズハは笑うのをやめると、アヤとヒロトに背中を向けて窓のほうへ走り出した。アヤが追いかけて後ろから手を伸ばす。が、その手は空を切り、ユズハは窓の外に落ちていった。
窓から顔を出し、下を覗くアヤ。四肢があらぬ方向に曲がったユズハが地面にできた血だまりに浸っていた。
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PM 10:24
パイプ椅子に座り、両膝に手を置いてうつむくアヤ。その向かいで遅念がデスクに左肘をつき、手を額に添えている。
遅念「ユズハちゃんは転落死、ヒヨリちゃんは『憑依』により死亡か……ユズハちゃんが身を投げたことで彼女自身の命も儀式の代償となり、ヒヨリちゃんを数分で死に至らしめるほど強力な悪霊を呼び出してしまったようだね……」
アヤ「……」
遅念「警察や
アヤ「……わかりました。ありがとうございます」
消え入りそうな声で答えるアヤ。
遅念「申し訳なかったねぇ。ツライ思いをさせてしまった」
アヤ「いえ、私がやると言ったことですから……でも、ユズハちゃんだけは助けられたかもしれない……私がもっと早く動いていれば……」
遅念「……僕がその場にいても止められなかったと思う。一つ言えることは、アヤさんは何も悪くない。何も気にしなくていい」
数十秒の沈黙の後、アヤは頭を上げ、力強い目つきで遅念の顔を見つめる。
アヤ「先生、別の憑依事案を私に対応させてください。今度こそ『憑依』に狂わされた人を救ってみせます」
<恋敵を討つな-完->
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