恋敵を討つな(全3話)
恋敵を討つな①
PM 0:25
オフィスチェアに座り、チーズバーガーをむさぼる遅念。デスクを挟んで向かい側にはパイプ椅子に腰掛ける女子学生が1人。長い茶髪をツインの三つ編みにし、顔の3分の1を覆う大きな黒縁メガネをかけている。呪詛ゼミの2年生で、名前はアヤ。
遅念「突然呼び出しちゃって悪いねぇ」
アヤ「いえ!あれですよね?憑依事案の件ですよね?私、憑依事案の対応やりたかったんです!呪詛ゼミでも遅念先生に選ばれた一部の人しか依頼されないってウワサになってますから!とても光栄です!というのも私、昔から怪現象に興味があってテレビの心霊番組とか見まくってて将来は幽霊の専門家になろうと」
機関銃のように喋り続けるアヤ。どこかで止めないと日が暮れるまで話しそうな勢いだったため、遅念は無理やり話題を依頼に移す。
遅念「アヤさんがそんなに熱心だとは思わなかった。もっと早く声をかければ良かったなぁ。で、今回やってほしいことなんだけど」
アヤ「はい何でしょう!?私、全身全霊をかけて成し遂げます!」
遅念「僕に呪殺を依頼してきた女の子がいて、その子を説得してほしんだよねぇ」
アヤ「説得?……依頼をやめさせるってことですか?」
遅念「そのとおり!」
眉を寄せるアヤ。思っていた依頼内容と違い、不満を感じている。同じゼミ生のマドカやコココ、カイトが『降霊』と『憑依』の儀式を直接目にする憑依事案を対応したことはアヤの耳にも入っている。遅念に呼び出されたとき、アヤもその目で実際の儀式を見る機会を得たのだと思った。しかし蓋を開けてみれば「儀式をやめさせるための説得」という、想定していたものと真逆の依頼であり、気分が下がってしまったのだ。
アヤ「う〜ん……やりますけどぉ……」
遅念「あら?不服?」
遅念は食べ終わったチーズバーガーの包み紙をデスクの上で四つに折りたたむ。
アヤ「てっきりゼミで習ったことを踏まえた、より実践的な依頼かと思ってました……」
遅念「そっかぁ、ごめんねぇ。でも僕の教えたことが全く役に立たないわけじゃないと思うよ。アヤさんには『降霊』と『憑依』の専門家としてその子を説得してほしいんだ。専門的な知識を交えて論理的に話せば、聞き入れてくれるはずだよぉ」
「専門家」という言葉を聞き、アヤのテンションが少しだけ上がる。
アヤ「……わかりました!で、その女の子というのは?」
遅念「中学3年生で、僕に『友達を殺してほしい』と依頼してきたんだ。でも報酬金額があまりにも低かったから断った。それに中学生のいざこざで相手を殺して解決ってのは、その子にとって一生引きずる出来事になるかもしれないからねぇ。一時の感情でやることじゃない」
アヤ「断る理由としてお金が真っ先に出てくるあたり、遅念先生のダメ人間っぷりがにじみ出てますね!」
遅念「その子、5回くらい研究室にやって来てねぇ。毎回断ってたんだけど、昨日『依頼を受けてくれないなら自分で儀式をやる』と言ったんだ。やめるように言っても、『オッサンにJCの気持ちなんてわかるわけない』って突っぱねられちゃってねぇ。参っちゃったよぉ」
アヤ「その子の気持ち、少しわかります!JCのほとんどがオッサンのことをATMとしか思ってませんからね!だから年齢の近い私に説得させようと思ったんですか?」
遅念「そう。最初は精神年齢が中学生に近そうなコココさんにお願いしようと思ったんだけど、彼女は良くも悪くも人の気持ちに寄り添えないタイプだから。もっと親身になってくれそうな人が適任だと思ってね」
過去に遅念から憑依事案を複数回依頼されているコココを差し置いて自分が選ばれたと知り、アヤのテンションはさらに上がる。
アヤ「たしかにコココちゃんってどこかサイコパスっぽいですからね!すぐ人のこと投げ飛ばしますし!」
遅念「それと憑依事案の数が増えてきたから、依頼できるゼミ生を増やしておきたかったというのも理由の1つ」
アヤ「別の依頼もお待ちしてますよ!それで、例の女の子はなぜそこまで友達を殺すことにこだわっているのでしょう!?」
遅念「いわゆる恋敵ってやつらしい。同じ男の子を好きになっちゃって、取られてしまったそうなんだ」
アヤ「はぁ……そんなことで殺そうとしてるんですか……その子ヤバそうですね!」
遅念「僕がやめさせようとしてる理由、わかるでしょ?中学生にとって恋愛沙汰は死活問題だろうけど、文字通り生き死にを賭けるようなことじゃない。成長して活動範囲が広がればもっと素敵な人と出会えるだろうし、恋愛以外に打ち込めるものが見つかるかもしれない」
アヤ「おっしゃるストリートですね!私も恋愛よりアニメとマンガとオバケが好きです!」
遅念「でも僕みたいなオッサンがいくら説教しても青春真っ只中の女子には響かない。そこでアヤさんの出番ってわけ。年齢の近い女性という立場で、『降霊』と『憑依』の儀式のリスクを伝えながら説得してほしい」
アヤ「
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