遅念VS火我④

鈴貴すずきが運転する自動車内。助手席に火我ひが、後部座席に遅念ちねんが座る。遅念は前の座席に座る2人に向かって、少年たちが呪われて意識不明の状態に陥った原因を説明し始めた。



遅念「今回の件はマスマス様の呪いではありません。何者かが祠に仕込んだ『降霊』と『憑依』の儀式によって引き起こされたもの。少年たちは儀式で呼び出された悪霊に『憑依』されてしまった」


火我「なぜそう言える?」



遅念は後部座席から助手席へ手を伸ばし、自身のスマートフォンを火我に渡した。画面にはマスマス様の祠が乗っていた石段の写真が表示されている。石段の最上部、祠の底面と接する場所に大量の文字が彫り込まれていた。


運転席から火我が持つスマートフォンの画面をチラリと覗く鈴貴。



鈴貴「こんな文字、見たことありません……少なくともマスマス様に関係するものではないと思います」


遅念「儀式の痕跡でしょうねぇ。罠のように設置して不特定多数を呪う『自動型の儀式』……おそらく祠を損壊させた者に悪霊を『憑依』させるものでしょう」


火我「こんなことが……」


遅念「村の人々は月に一度、祠に祈りを捧げている。その祈りを、悪霊を『降霊』するためのエネルギーとして利用していた……と考えることもできます」


火我「なるほどな。だが変じゃないか?祠は過去にも壊されているが、そのとき壊した少年たちには何も起きなかった。なぜ今回だけ」


遅念 「彫られた文字はまだ新しい。おそらく直近で祠が壊された3年前、修復作業の最中、石段に儀式が施された」


火我「……ならば辻褄は合うか」


遅念「鈴貴さん、過去に祠の修復を依頼したのは同じ建設業者ですか?」


鈴貴「はい、そうです。今回もその業者に依頼しようと思っています」


遅念「祠の修復時に儀式を施したのだとしたら、その建設業者の中に実行犯がいるかもしれません。別の業者に依頼したほうがいいでしょう」


鈴貴「た、たしかに……」



火我は後ろを向き、スマートフォンを遅念に返す。



火我「だが何のために儀式を仕込んだんだ?しかも『祠を壊す』なんて限定的な発動条件の儀式を」


鈴貴「建設業者が、もう二度と祠が壊されないよう対策したとか……?」


火我「ありえなくはないですが、真っ当な業者ならそんなことしないでしょう」



遅念はスマートフォンの画面の写真を見つめながら口を開く。



遅念「この儀式を施した人間に心当たりがあります。断定はできませんが、可能性は高い……鈴貴さん、これまで祠の修復を依頼していた建設業者について後で教えてくれますか?」


鈴貴「わかりました」


火我「実行犯を捕まえる気か?見つけたとしても、ソイツが儀式をやったと素直に認めるとは思えないな」


遅念「でしょうね。捕まえて問いただしても無意味だと思います。それでも僕の思い描いている人物の仕業なのか、確信を得たいんです」



遅念の言葉に確固たる信念を感じ、これ以上の口出しは無用だと考えた火我。話を切り替える。



火我「遅念教授、今回はキミに勝ちを譲ろう。だが、次に依頼が重なったときは必ず私が解決してみせる」


遅念「……はぁ、そうですか」


火我「鈴貴さん、もしまた不審なことが起きましたら、ぜひこの火我にご相談を!」


鈴貴「……いえ、遅念先生にだけ相談しようと思います」


火我「くそが!!」



<遅念VS火我-完->

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