殺戮オフィス②
翌日 AM 9:05
株式会社
事務用のデスクが8列に並び、それぞれのデスクの前にスーツを着た社員が立っている。その数およそ100人。朝礼の最中で、全員オフィスの窓のほうを向き、代表・
粉本の左隣には満面の笑みを浮かべて真っ直ぐ立つコココ。
粉本「現在社内で起きている事件の調査のため、優秀な学生さんをお招きした。彼女から皆に話を聞くこともあるだろうから、そのときは快く協力してあげてほしい。ではコココさん、簡単に自己紹介を」
コココ「
コココの突拍子もない質問に対し、無反応の社員たち。
粉本「……どうもありがとうございます。調査のほう、よろしくお願いしますね。これで今日の朝会は終了します。各自業務に取りかかってください」
社員たちは一斉にオフィスチェアに座り、デスク上のパソコンに向かって作業を始めた。
−−−−−−−−−−
AM 10:22
赤いマグカップを手に、給湯室へ向かう20代の女性社員・
女性社員「あらごめんなさい。どんくさくて邪魔だったからつい。先に給湯室使わせてもらうから。私が終わるまで入ってこないで」
女性社員は床に転がる病井のマグカップを蹴り、給湯室へ入っていった。立ち上がり、マグカップを拾う病井。
20分後、給湯室から出てきた女性社員。入口でマグカップを握りしめ、待っていた病井をにらみつける。
女性社員「はぁ!?アンタずっとここで待ってたの!?何してんの!?こうしてる間も給料発生してんだけど!?この給料泥棒!いや給料盗賊!」
女性社員の剣幕に押され、ビクビクと体を震わせて萎縮する病井。女性社員はひとしきり怒りをぶつけると自分のデスクへと戻っていった。
病井は恐る恐る給湯室に入る。誰もいないことを確認し、ジャケットの左ポケットから人の形をした小さな紙を取り出した。そしてシンク周りを確認し、先の女性社員のものと思しき髪の毛を探す。色や長さから、目的の髪の毛を1本発見した。
病井は髪の毛と人型の紙を重ね合わせ、引きちぎる。バラバラにちぎれた紙と髪がシンクの中に落ちた。
病井「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」
コココ「なぁー、何やってるん!?経理部の病井さんよなー!?」
背後からコココに話しかけられ、驚きながら振り向く病井。いつ給湯室に入ってきたのか、全く気付かなかった。
病井「あっ、えっとアナタは……調査に来てる学生のコココさん……でしたよね?」
病井はシンクのほうを向き、コココに中を見られないよう蛇口から水を流す。『降霊』と『憑依』の儀式の痕跡をすべて洗い流すために。
コココ「覚えてくれてありがとー!」
病井「こちらこそ……でも何で私の名前を知ってるんですか?」
コココ「人事労務部の
病井「そ、そうなんですか。100人近くいるのに、すごいですね……」
コココ「で、何しとったんですか!?なんか、紙みたいなのちぎって流してましたけど?」
病井は「見られた」と心の中であせる。何とか誤魔化さなければ、オフィス内で起きている事件の犯人が自分であると勘づかれてしまうだろう。脳みそをフル回転させ、言い訳をひねり出す。
病井「し、『シンク紙流し大会』っていうのがあるんだけど、知ってます?その大会に毎年出るんです、私。なるべく良い成績が残せるよう、今ちょっとだけ練習してて」
コココ「何なんその大会ー?」
病井「シンクに落ちた紙を、いかに少量の水できれいに流しきるかを競う大会で。私、去年は全国ベスト8に入ったんですよ」
コココ「へぇー」
コココはシンクをじっと見つめる。その両目はブラックホールのように真っ黒。強い疑いを向けられていると感じ、病井は背中に大量の汗をかく。
コココ「そうなんや!大会、頑張ってくださいねー!」
真っ黒な目をつむり、笑顔になるコココ。病井は「誤魔化せた。コイツ相当なバカだ」思い、安心する。
コココ「病井さん、不安やろー?」
病井「えっ!?」
核心を突くような質問をされ、病井の心拍数が跳ね上がる。
コココ「社員さんが死にまくってて」
病井「え、ええそうですね……」
コココ「大丈夫!アタシが必ず犯人見つけたるからー!」
内心ビクビクだった病井だが「やっぱりバカだ。気づいていない」と安堵し、平常心に戻った。
コココは右の拳で自分の胸をドンと叩き、給湯室を出ようとする。病井が「待って」とコココを呼び止めた。振り返るコココ。
病井「肩に髪の毛がついてますよ」
病井はコココの右肩に付着した茶色い髪の毛を手で取り、握りしめる。
コココ「おーきに!」
コココは笑顔で給湯室を後にした。コココの姿が見えなくなった後、病井はジャケットの左ポケットから人型の紙をもう1枚取り出した。
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