呪殺競売③
タクマ「そん……な……」
カエデ「やった……先生!」
遅念「タクマさん、アナタに対して呪殺の儀式を行いました。数時間以内に悪霊が『降霊』され、アナタに『憑依』します。悪霊の放つ邪気により、明日の今頃にはお亡くなりになっていることでしょう。具体的には徐々に体調が崩れ、動くことすらできなくなり、やがて心肺の活動が停止します」
タクマ「……ぐっ」
カエデ「先生!ありがとうございます!これでスッキリしました!喜ぶのは私だけじゃありませんよ!コイツに騙されてきた大勢の女性たちの無念も晴れるはずです!」
タクマは右の拳でテーブルを強く叩き、立ち上がる。
タクマ「……遅念先生。これから俺は死ぬ気で働いて、自分で金を用意する。だから悪霊を取り除いてくれないか?」
遅念「除霊の依頼は100万円からお受けしていますが、あと24時間以内に用意できますか?いや、徐々に体が動かなくなることを考えると、その半分ほどの時間で用意しないとですねぇ」
タクマ「……無理だが、後から必ず払う。だから」
遅念「支払い能力が無い方からの後払いは受け付けられませぇん」
カエデ「今さらあがいても無駄。アンタは死ぬんだよ。バーカ」
カエデはカップの中のコーヒーを飲み干した。
タクマ「……このままで済むと思うなよ」
タクマは自分が座っていた椅子を蹴り飛ばし、カフェから出て行った。
カエデ「アイツ、自分が飲んだコーヒーの代金も払わず……ああいうヤツなんです。死んで当然でしょう?」
遅念「タクマさんについて僕は何も言えません。この場においてはカエデさんのプレゼンのほうが魅力的だった。それだけです」
−−−−−−−−−−
3日後 PM 2:29
デスクに向かい、ラップトップPCで作業中の遅念。入口の扉が外から3回ノックされた。遅念は大きな声で「どうぞぉ」と言い、外にいる人物を招き入れる。
小太りで白髪頭、茶色のスーツを着た老爺が入室し、遅念のデスクに歩み寄った。デスクの前に置いてあるパイプ椅子に座るよう促す遅念。老爺は腰掛け、右手に持っていた大きなアタッシェケースを膝の上に置く。
遅念「お電話いただいた方ですね?」
老爺「はい。
遅念「ご依頼内容を聞かせてもらえますか?」
餅月 ゲンジと名乗った老爺はアタッシェケースをデスクの上に置き、中身を遅念に見せつける。札束がぎっしり詰まっていた。
ゲンジ「ここに2億あります。この金で呪殺をしてほしいのです」
遅念「……呪い殺す相手は?」
ゲンジ「餅月 カエデ。旧姓は
遅念「このお金の出所は?」
ゲンジ「全額、私の貯金です」
遅念「誰かの頼みですか?」
ゲンジ「いいえ、私の意思です。どうか、あの女によって死に追いやられた息子の無念を晴らしてください……」
遅念は左手であごひげを触る。
遅念「実に魅力的なご依頼です。引き受けましょう」
<呪殺競売-完->
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