死者との対話③

カイトは電話でサーモン田沼たぬまのことと、ミユキとヒデトシが揉めていることを遅念ちねんに話し、判断を仰ぐ。



遅念「そのサーモン田沼って人がやってる儀式はインチキの可能性が高いねぇ。それを証明してヒデトシさんに諦めてもらうのが最善策かなぁ」


カイト「俺もヒデトシさんが騙されてるんだと思います。でも彼の気持ちも汲んであげたいと言いますか……仮にサーモン田沼が詐欺師だったとしても、ヒデトシさんがフミエさんと会話していると思い込むことで幸せを感じられるなら、そのままで良い気もしてて」


遅念「なるほど。一理あるかもねぇ。現に似たようなサービスはあるし。例えば女性と付き合っている感覚を疑似体験できるキャバクラとかね。サービスの受け手が納得できるなら、幻想にもお金を払う価値は生まれる」


カイト「……そう聞くと、ヒデトシさんが哀れに感じてきました。やっぱりミユキさんの意見を尊重するべきっすかね?」


遅念「ヒデトシさんが正しいか、ミユキさんが正しいか、そこに考えを巡らしても答えは出ないだろうねぇ。そうじゃなく、この一件は全部カイトくんのフィールドワークと考えたら?」


カイト「フィールドワーク……」


遅念「キミがサーモン田沼の『降霊』と『憑依』の儀式を実際に見る。そして仕組みを分析・解明する。その機会にしたら良いんじゃない?ヒデトシさんとミユキさんのしがらみは脇に置いといてさ」


カイト「……」


遅念「キミは単に研究としてサーモン田沼の儀式を解明する。その結果をヒデトシさんとミユキさんがどう受け取るのかは彼ら次第。それで良いと思うんだよねぇ」


カイト「……わかりました。サーモン田沼に儀式を依頼してみようと思います。ちなみにその依頼料って、先生が負担してくれるんすよね?」


遅念「う、う〜ん……うん、もももちろんだよぉ……」



カイトは電話を切り、カフェ店内の席に戻る。そしてヒデトシにサーモン田沼のところへの案内を頼んだ。



−−−−−−−−−−



PM 1:43

うっすらと寒い商業ビルの地下店舗街を歩くヒデトシ。その後ろにカイトとミユキが続く。ヒデトシはとある店舗の前で足を止めた。扉が無く、奥まで見通せる縦長の狭い店。床はフローリングで、壁は紫色。ぼんやりとした光を放つ証明が天井から3つぶら下がっている。いかにも「占いの屋敷」といった雰囲気だ。


店の奥にテーブルと椅子が置かれ、椅子の1つに男性が座っている。年齢は40代後半で髪型はオールバック、黒いスーツを着ている。ヒデトシが店に入り「田沼先生、こんにちは」と挨拶をすると、男性・サーモン田沼は大きな笑顔を浮かべて立ち上がった。



田沼「いらっしゃいませ、ヒデトシ様!今回もフミエさんとの対話をご希望ですか?」


ヒデトシ「いいえ、今日は連れが先生にお願いしたいことがあると……」



ヒデトシが後ろを向いて手招きする。店の入口にいたカイトとミユキが、ヒデトシへと近寄った。



田沼「たしか以前ご相談いただいた、娘さんのミユキ様ですね。お隣の若い方は……」


カイト「真里孔マリアナ大学2年のカイトと申します。俺……僕、ゼミで『降霊』と『憑依』の儀式について研究してるんです。サーモン田沼先生のウワサを聞いて、その技を一目見たいと思って来ました」



サーモン田沼の顔から笑みが消える。



田沼「ほう。つまりキミは『降霊』と『憑依』の専門家ですね」


カイト「まだ学生ですけど」


田沼「学生といえど『降霊』と『憑依』を専門的に学んでいる人が私のところに来るのは初めてでしてね。何か裏があるのではないかと疑ってしまいます」


カイト「……率直に言いますね。アナタのやっている死者の『降霊』と『憑依』はほぼ実現不可能というのが、僕がゼミで学んだ知識です。もし実現できるなら、目の前で実践してほしいなと思いまして」


田沼「ふふふ……まだ率直には言っていないでしょう?キミは私がインチキをしていると証明しに来た。違いますか?おそらくミユキ様の頼みで」


ヒデトシ「さ、さすが先生だ!そこまでお見通しとは!」


カイト「この状況なら誰にでも察しがつきますよ」



小さく微笑み、椅子に腰掛けるサーモン田沼。



田沼「いいでしょう。私の儀式が本物かどうか、その目で確かめてください。ちなみにヒデトシさんとミユキさんは私の儀式を体験し、本物だと理解してくださっています」


ヒデトシ「も、もちろんです!」


ミユキ「……まぁそうですね」



カイトはサーモン田沼と向かい合うように椅子に座る。



カイト「あくまで僕の目的は研究です。アナタの儀式が偽物だったとしても、『商売をやめろ』なんて言いませんから安心してください。むしろ本物であってほしい。田沼さんには僕の常識を覆してくださることを期待します」

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