死者との対話(全4話)

死者との対話①

AM 10:32

真里孔マリアナ大学 遅念ちねんの研究室

オフィスチェアに腰掛け、背もたれに体重をかける遅念。うっすらと笑顔を浮かべている。デスクを挟んで向かい側には、パイプ椅子に座る男子学生・カイト。色白で細身、髪型はストレートのショートウルフ、服装は白いワイシャツの上から黒いジャケットを羽織るという、最近の若者らしい身なりをしている。


カイトは呪詛ゼミに所属する2年生。前日の夜に遅念から連絡を受け、研究室にやって来た。



遅念「ごめんねぇ、日曜日に呼び出しちゃってぇ」


カイト「暇だったんで、問題ないっす。で、要件はなんすか?先生が知ってる一番よく効く『憑依』の儀式、ようやく教えてくれる気になりました?相手を苦しめ、じわじわ殺す儀式が良いんすけど」


遅念「……前にも言ったけど、僕は人を死に至らしめる『憑依』の儀式を生徒に教える気は1ミリもないよぉ。キミにどういう事情があったとしてもね。もし本気で殺したい相手がいるなら、お金を用意して正式に僕に依頼してくれるかな」


カイト「いくらあればやってくれます?」


遅念「相手にもよるけど、最低300万円かなぁ。でもカイトくんが誰かに借りたお金で依頼してきたのなら、いくら積まれても断るよぉ。キミが自力で稼いだお金じゃないと依頼は受け付けない」


カイト「……軽く言いますけど、大学生にとって300万は大金っすよ。しかも『最低』ってことはもっと必要になる可能性もあるってことっすよね?」


遅念「そうだねぇ」


カイト「果てしないなぁ……」


遅念「僕も鬼じゃないから、カイトくんを突き放そうとは思わない。足がかりとなる提案があるんだ。憑依事案を1つキミに対応してほしい。報酬は30万円。最低目標金額の10%を一気に稼げる美味しい話だと思うんだけど、どうかなぁ?やってみない?」


カイト「俺を呼んだのはそれが理由ですか」


遅念「そう。でも単にお金で釣ろうとしてるわけじゃないよぉ。僕が見る限り、カイトくんはゼミ生の中で一番『憑依』への関心が強い。だからぜひ憑依事案を通してフィールドワークをしてほしいと思ってねぇ」


カイト「そう言われると悪い気はしないっすね。わかりました。やりますよ」



カイトの返答を聞きうなずいた遅念は、デスクの上に置いたラップトップPCを開き、画面をカイトのほうに向ける。メールの文面が表示されていた。カイトは画面に顔を近づける。



遅念「依頼人は50代の主婦。彼女のお父様が『死者と対話ができる』という人物に入れ込んでいて、相談料としてこれまでに3000万円以上使っているそうなんだ」


カイト「3000万……」


遅念「詳しくはその人物に会ってみないとわからないけど、おそらく『降霊』と『憑依』の儀式を行い、自分の体を依代よりしろにして死者の魂を呼び出しているんじゃないかと思う」


カイト「でも先生、死者の魂を呼び出すのってたしか」


遅念「簡単にできることじゃない。というよりほぼ不可能。それを何度も成功させているこの人物が、本当に『降霊』と『憑依』の儀式を行っているか調査するのが今回の依頼」


カイト「……つまり詐欺師かどうか見抜けってことっすね。先生、普段こんなことやってるんすか?」


遅念「こういう依頼もたまにあるんだよねぇ。でも正直、詐欺まがいの人間に付き合ってるほど僕は暇じゃないんだ」


カイト「で、暇を持て余してるであろう大学生の出番だと」


遅念「言葉を選ばずに言うとそうなるかなぁ、あははは」



カイトはラップトップPCの画面から顔を離し、背筋を伸ばす。



カイト「OKっす。こんなちゃちな依頼で先生の手を煩わせるわけにはいかないっすね。俺に任せてください」


遅念「ありがとうねぇ。頼んだよぉ。正門を出てすぐのカフェ、あるでしょ?そこで依頼人と12時に待ち合わせだから、行ってくれるかなぁ。依頼人の連絡先も教えておくねぇ」

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