転生して人生大逆転②
自分を呪い殺してほしいと言う男子学生・
遅念「自殺志願なら、なおさらイエスとは答えられないねぇ。なぜそこまで思い詰めているの?」
皮崎「僕の人生、先が見えなくなってしまいました。大学に入るために借りた奨学金が400万円。でも就活は70社落ちて内定ゼロ。このままでは返済できません。それどころか生きていけるかどうかすら危うい……」
遅念「ご両親に援助してもらうことはできないの?」
皮崎「そもそも僕、両親に無理を言って大学受験したんです。当初、両親は学費を工面できそうにないと言っていました。でも『国公立なら』という条件で受験を許してくれたんです。なのに僕、私立の
遅念「なるほどねぇ」
皮崎「それでも両親は進学させてくれました。一人暮らしするための生活費も一部工面してくれています。おそらく両親もかなりの借金をしているはずです。そんな状況で、就活に失敗した僕の面倒まで見てくれなんて言えませんよ……」
遅念「そうかぁ。だとしても人生を諦めるなんて早計過ぎないかい?僕なんか大学を卒業してしばらくはプータロー同然で、30歳近くになっても大学の非常勤講師しかやってなかったよぉ。だけど今は定職に就けている。人生何とでもなるものさ」
皮崎「先生、僕は自分の人生を諦めてなんかいません。逆転するんです。そのために一度死ぬんです」
皮崎は足下のビジネスバッグから1冊の本を取り出し、遅念のデスクの上に置く。表紙に、札束を扇子のように持った笑顔の青年が、左右に可愛らしい女の子を
皮崎「このライトノベル、『借金苦で死んだ俺が世界有数のイケメン大富豪に転生!顔と金の力で人生何もかも上手くいきまくり!』を読みました。表紙の真ん中にいる主人公は、僕と同じような生活を送っていたんです。ある日トラックにひかれて死んでしまうのですが、目を覚ますと石油王の息子に『憑依』していました。お金には困らないし、ルックスまで良いから女性にモテモテ。まさに人生大逆転」
遅念「……でぇ?」
皮崎「僕もこの主人公と同じように超絶イケメン大富豪に転生したいんです!だから遅念先生、僕を呪い殺してからイケメン大富豪に『憑依』させてください!呪詛ゼミの先生ならできますよねぇ!?」
遅念は大きくため息を吐くと、左手で後頭部をかく。
遅念「ハッキリ言わせてもらうね。無理」
皮崎「やってください!お願いします!」
遅念「やるやらないじゃなくて、無理なの」
皮崎「なぜです!?」
遅念「死者の魂を呼び戻せる確率は数千分の一、あるいは数万分の一かもしれない。その上リスクも大きい。そもそもキミに体を渡しても良いというイケメン大富豪がどこにいるのぉ?」
皮崎「しかし」
遅念「夢を壊すようで申し訳ないけど、この世は小説のようにはいかないんだよぉ。ライトノベルで起きる転生は、あくまでフィクションとして楽しむものだ」
うつむき、膝の上で両の拳を強く握りしめる皮崎。その体は小さく震えている。現実と向き合わねばならない絶望と、自分の理想を否定された怒り。それらの負の感情が皮崎の心を支配しているのは、遅念の目から見ても明らかだった。
皮崎に同情しつつも、自分自身の人生を前向きに生きてほしいと感じる遅念。ふと何かを思い出したようにデスクの引き出しを開く。
遅念「皮崎くん、僕にはキミの人生を一変させることはできない。けど、しばらく生きていけるだけのお金を支払うことはできる。僕に依頼された憑依事案を代わりに対応してもらうことでね」
遅念は引き出しの中から、中年男性の顔写真が貼られた藁人形とカッターナイフを取り出し、デスクの上に置く。
遅念「やることは簡単。はけ口が見つからないであろうキミの負の感情を、この男性に向けてくれ。怒りや悲しみ、絶望を思い浮かべながら、カッターナイフで藁人形を刺してくれればいい。報酬は500万円」
皮崎「……これって」
遅念「『憑依』の儀式だよぉ。儀式を実行した術者の思いが強いほど、より強い悪霊を対象者に『憑依』させられる。キミの置かれた境遇、その感情を考えると、この男性を即死させられるくらい強力な悪霊を『憑依』させられるだろうねぇ」
皮崎「……この男の人、誰なんですか?」
遅念「知らないほうがいい。知ったらやりにくくなるよぉ。やれば人殺しになるけど500万。『憑依』の儀式と殺人の関係性を科学的に証明することはできないから、仮にバレたとしても罪には問われない。リスクはゼロ。その一方、人を殺したという罪悪感はずっと付き纏う。もちろんやらなくてもOK。さぁ、どうする?」
カッターナイフを左手で取り、皮崎に差し出す遅念。皮崎は唇を小刻みに震わせながらカッターナイフを見つめる。その両目にうっすらと涙が浮かんだ。
遅念「……『憑依』の儀式には、これくらいの覚悟とリスクが伴うんだ。気軽にやっていいものじゃない。わかったらもう二度と」
皮崎は遅念の手からカッターナイフをぶん取って逆手に握ると、笑いながら藁人形にに向かって何度も突き立てた。ナイフの刃先は藁人形を貫通し、デスクにまで達している。
31回突き刺したところで、皮崎は手を止めた。
皮崎「やりましたよ。これで500万ですよね?500万、もらえるんですよね?」
数秒沈黙する遅念。そして口を開く。
遅念「……男性の死が確認できたら連絡するよ」
皮崎はカッターナイフをデスクの上に置くと、「こんなことで500万だなんて最高だ。転生しなくてもいいや。またやらせてください」と言い残し、笑いながら研究室から出て行った。
<転生して人生大逆転-完->
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