面会②
遅念「その割には、アナタが話すディエゴと生前のディエゴの特徴には大きな乖離がある。そして乖離があることを誤魔化そうともしている。これは単にアナタの調査が不足していたからだと考えるのが自然です」
侵島の視線が左右にキョロキョロと泳ぐ。
遅念「あの世から特定の人物の魂を呼び出し、生きている人間に『憑依』させる儀式は存在します。しかし、その儀式には代償として大勢の人間の命が必要です。しかも成功確率は非常に低い。そんな儀式を行ってまでアナタにディエゴを『憑依』させる必要性が思い浮かばない」
侵島「……儀式はやってない。でもディエゴの魂が俺に取り憑いたんだ」
遅念「ディエゴの魂、つまり幽霊がこの世に存在していたとしたら、侵島さんの体を使って犯罪を行う必要があるのでしょうか?幽霊のままなら犯罪の痕跡が残らず、好きなだけ悪事を働けるのに」
侵島「……アンタ、俺が『憑依』されていたと証明するために来たんじゃないのか?」
遅念「いいえ。僕は最初に、アナタが『憑依』されていたのかどうか調べるために来たのだと言いました。聴取の結果、『憑依』されていなかったと判断する可能性があるとも言いましたよぉ。隣の刑務官さんがしっかりメモを取ってくれているはずです」
沈黙する侵島。遅念は小さく息を吐き、続ける。
遅念「ここに来たのはアナタの弁護士の依頼ではありますが、僕の役割は客観的な判断を下すこと。アナタが裁判で有利になるよう取り計らう気は全くありません。『アナタは憑依されていない』、それが僕の、専門家としての判断です。それでも『憑依』されていたと言うのであれば、ご自由にどうぞ」
侵島「……俺は取り憑かれていた……ディエゴの魂が俺に強盗殺人をやらせたんだ」
侵島は自分に言い聞かせるようにブツブツと独り言を述べる。その様子を見た遅念は足下に置いていた黒革のビジネスバッグを膝の上に起き、数十秒ほど中をあさると椅子から立ち上がった。
遅念「僕からお伝えすることはもうありません。お時間をいただき、ありがとうございました」
遅念は面会室から出て、拘置所の出口に向かって廊下を歩く。
無事依頼を達成できた。侵島の弁護士ではなく、侵島に殺された被害者たちの親族からの依頼を。
侵島が自分の意思による犯行だと認めず悪霊のせいだと言い続けた場合、『降霊』と『憑依』の儀式を至近距離で行ってほしい。
遅念は面会室で、侵島にも刑務官にも見えないようバッグの中で『降霊』と『憑依』の儀式を行った。親族から渡された、犯行現場にわずかに残っていた侵島の髪の毛を編み込み、怨念を注ぎ込んだ藁人形。その胸に五寸釘を深く突き刺す。この一連の動作を侵島からごく近い場所で行う儀式。
遅念と面会した翌朝、侵島は独房内で心肺が停止した状態で発見され、死亡が確認された。
<面会〜憑依事案〜-完->
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