入院患者連続不審死④

2日後 AM 11:20

私立真里孔マリアナ大学 遅念ちねん准教授 研究室

デスクを挟んで向かい合って座る遅念とマドカ、コココ。コココは満足そうな笑顔を浮かべている。その隣でマドカは視線を下に向け、オドオドしている。



遅念「院長から連絡があったよぉ。『憑依』の儀式だけじゃなくて、術者まで特定したんだって?大変喜んでらっしゃった。少し記憶が無い時間があるそうだけど」



オドオドを強めるマドカ。笑顔を強めるコココ。



コココ「はい!とっちめてやりましたよ!」


マドカ「あのぉ……儀式をやっていた看護師さんは……」


遅念「彼女は即日解雇になり、病院を去ったそうだよぉ」



マドカはため息を吐く。コココが「看護師を段ボール箱に入れて密閉した」と言った直後、マドカは急いで箱に何重にも貼られたガムテープを剥がし、看護師を救出。看護師は胎児のようにうずくまり、二酸化炭素中毒になりかけ気を失っていた。救出が遅れていたら、死んでいたかもしれない。



コココ「あの看護師、また『憑依』をやったらアタシが息の根止めちゃる!」


遅念「はははは、そんなこと冗談でも言っちゃダメだよぉ」



コココの発言が冗談だとは思えないマドカ。



コココ「でもとりあえず一件落着っすね!はっはっはっ!」


遅念「キミらに任せて正解だったよぉ!ははははは」



依頼が片付いたことで遅念が笑うのは理解できるマドカだが、もう少しで殺人犯になっていたコココが高らかに笑っているのは心底理解できない。



コココ「マドカっちぃ!!!」



急に大声で自分の名前が呼ばれ、心拍数が跳ね上がるマドカ。



コココ「アタシらが組めば最強やなぁ!また一緒にやろうな、憑依事案の解決!はっはっはっ!」



マドカの背中を冷や汗が伝う。



コココ「はっはっはっはっはっはっ!」



マドカを見つめるコココの瞳は、宝石のように輝いている。



コココ「はっ歯っ派っ波っ葉っ刃っ羽っ覇っ破っ!」


マドカ「よ、よよよよよろしく……ね……」


遅念「約束通りキミたちに報酬を振り込むから、後で口座番号をメールしてちょうだい」


コココ「先生、ボーナスはあらへんの?アタシら、犯人まで見つけたんやで!?」



左手であごひげを触りながら悩む遅念。そして思いついたように、デスクの引き出しを開けると、中からチケットのような紙を2枚取りだし、マドカとコココに1枚ずつ渡した。



遅念「じゃあボーナスとして、おこめ券あげちゃう!それで白米でも買って食べてよぉ!」



受け取ったおこめ券をじっと見つめるコココ。マドカはコココの眼に見覚えがあった。さっきまでの輝きが全て失われ、深海のように真っ黒な眼。看護師を箱詰めにし「殺してへんよ」と言ったときと同じ、怒りと殺意に満ちた眼だ。


マドカは、コココが遅念を殺そうとしているのではないかと思い激しく動揺する。座っていたパイプ椅子から床に崩れ落ち、腰を抜かした。



コココ「先生おーきに!アタシめっちゃ米食べるから!」


遅念「そっかぁ!喜んでくれて良かったよぉ!あれ、マドカさん大丈夫?」



マドカは「座ってたのに立ちくらみがして」とつぶやきながら立ち上がり、パイプ椅子に座り直す。杞憂だった。



遅念「実はもう1件、憑依事案の相談が来ちゃってねぇ。これもキミたちにお願いしたいと思ってるんだ」


コココ「マジっすか!?やるやる!やりますー!やるよなぁ!?マドカっちぃ!?」


マドカ「えっ、いや私はその」


遅念「この相談はかなり厄介そうだから、報酬は1人70万でどうだろう?」


コココ「やるー!やるやるやるー!決定ー!!!アタシとマドカっちならどんな事案でも余裕だぜベイベー!」



マドカと腕を組むコココ。柔道で鍛えられたコココの上腕筋が、マドカの細い腕をがっちりと締め付けた。



<入院患者連続不審死〜憑依事案〜-完->

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