入院患者連続不審死③
PM 10:53
消灯し、静まりかえっているヒョウモンダコ大学付属病院の3階廊下を歩く人物が一人。ある病室の前で足を止め、扉をスライドさせて中に入る。薄暗い個室内、ベッドの上で布団を頭まで被っている患者に近づく。右手にはクマのぬいぐるみ。羽織った黒いカーディガンの左ポケットからゴム製のキャップが付いた試験管を取り出し、中の血液をぬいぐるみにかける。
直後、天井の照明が点灯した。トイレに隠れていたマドカが忍び出て、照明のスイッチを入れたのだ。
マドカ「アナタでしたか、『憑依』の術者は」
マドカはスマートフォンを片手に録画しながら、ぬいぐるみを手に持つ女性看護師に向かって言い放つ。日中、マドカとコココが調査していた際に病室を案内した気怠そうな看護師だ。
マドカ「そのぬいぐるみと患者の血が儀式の道具ですね」
看護師「……何を言ってるの?儀式だなんて、そんなことやるわけないでしょ?」
マドカ「ではなぜぬいぐるみに血を染みこませたのですか?まさか医療行為だなんて言いませんよね?どう見ても何らかの儀式としか思えません」
マドカをにらみつけ、沈黙する看護師。
マドカ「ちなみに、今ここで儀式をやっても『憑依』は起きないと思いますよ。その血の持ち主である患者さんには別室に移ってもらいました。ベッドの上にいるのは、私の友人です」
看護師はベッドのほうに視線を向ける。布団の中からコココが顔を出した。
コココ「残念やったねぇー!」
看護師の表情が歪む。
マドカ「患者さんの至近距離、病室内で儀式をやってより確実に『憑依』を引き起こそうとしたんですよね?」
看護師はぬいぐるみを床に投げ捨てると、看護服の胸ポケットからタバコの箱とライターを取り出した。細長いタバコを1本咥えると火をつけて吸い、鼻から勢い良く煙を吐く。
コココ「病室って禁煙やろ!?アタシでも知っとるわ!」
看護師「禁煙は患者の健康を害さないための措置よ。アンタは患者じゃないんだから吸っても構わないでしょ?」
コココ「煙いわオバハン!」
コココの注意を無視してタバコを吸い続ける看護師。
看護師「仮に私のやってることがアンタたちの言う儀式だとして、それが患者の死とどう関係してるの?因果関係を示す証拠はある?」
マドカ「ありません」
看護師「じゃあ私が患者を殺してることにはならないわよね?」
マドカ「ええ。儀式の効果を科学的に証明できないのが『憑依』の厄介なところ。だから患者の殺害方法として選んだんですよね?日中、儀式をやった病室にすんなりと私たちを案内したのも、たとえ痕跡が見つかったとしても殺人の証拠にはならないから」
看護師「……」
マドカ「アナタの考えているとおり、アナタを罪に問うことはできません。が、ここで見た事実は院長先生に伝えます。それが私たちの役割」
コココ「えっ、そうなん?捕まえへんの?」
マドカ「なぜ患者さんを殺そうと思ったんですか?患者さんを救うことが仕事であるはずのアナタが」
看護師「……」
看護師はタバコを思い切り吸い、鼻と口から煙を吐く。
看護師「新しい
マドカ「……そうですか」
看護師「アンタたちも社会に出たら、私の言ってることがよくわかるよ」
マドカ「ご忠告どうも。何を言われても、院長先生には報告します」
ベッドから降り、靴下のままマドカに近づくコココ。
コココ「あの看護師、捕まえへんの?」
マドカ「うん。私たちができるのはここまで。あとは院長先生の判断次第」
看護師「クビがせいぜいでしょうね。いくら院長でも私を罪人として裁くことなんてできない」
コココ「マドカっちはそれで満足なん?チクるだけでコイツを見逃して、明日食うメシがまずくならんの?」
マドカ「コココちゃんの気持ちは痛いほどわかるけど、仕方ないの」
コココ「……ならマドカっちは外に出とって!アタシが何とかしちゃる!」
マドカ「ちょ、ちょっと!」
コココはマドカの背中を押して病室の外の廊下へ出すと、扉を閉めた。病室の中から揉み合う音と怒声が微かに外へ漏れ出る。マドカは最悪の事態を想定し、恐ろしくなり扉から3歩後ずさった。
音が止み、コココが病室の扉を開けて外に出てくる。
マドカ「コココちゃん……まさかあの看護師さん殺して」
コココ「殺してへんよ」
目を細め、歯を剥き出しにして笑うコココ。その笑顔を見てマドカはほっとため息を吐く。マドカのため息とほぼ同時にコココの笑顔が消えた。
コココ「段ボール箱があったから、アイツ絞め上げて折りたたんで中に入れてな、逃げられんよう1ミリの隙間も無くガムテープで密閉したったわ。せやから殺してへんよ」
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