入院患者連続不審死(全4話)

入院患者連続不審死①

PM 0:08

私立真里孔マリアナ大学 遅念ちねん准教授 研究室

濃紺のスーツを着た遅念がラップトップPCの画面を、デスクを挟んでパイプ椅子に座る2人の学生に見せる。1人は黒いロングヘアで長身の女子学生・マドカ。もう1人は茶髪のミディアムボブで前髪をゴムで結びちょんまげにした女子学生・コココ。2人とも遅念のゼミ、通称『呪詛じゅそゼミ』に所属する2年生。



遅念「2人には、僕の代わりに憑依事案の対応をお願いしたいんだよねぇ。期末テストの採点と依頼が重なっちゃって。難しいことはないよ、現地に行って『憑依』に使われた儀式の証拠を見つけ、報告するだけでいい」


マドカ「ぜひやらせてください。でも……コココさんと一緒なのはマストでしょうか?」


遅念「そう。2人にお願いしたいんだ」


コココ「バリうれしい!アタシ、解決したかったんすよねぇ、憑依事案!しかもお金いっぱいもらえるんすよねぇ?」


遅念「もちろん。1人50万でどうかな?」


コココ「超最高!すき家で豪遊できるやん!」


マドカ「遅念先生、私一人ではダメでしょうか?コココさんはその……ゼミ中いつも寝てて、発表でも素っ頓狂なことを言うボンクラです。足手まといになる未来しか見えないのですが」


遅念「マドカさんはゼミの2年生で一番優秀だ。だからこそ、コココさんを一緒に連れて行ってほしいんだ。マドカさんなら安心して任せられる」


コココ「よろしくマドカっち!協力してがんばろなぁ!」


マドカ「イヤだなぁ……」


遅念「まぁ、そう言わずに。コココさんもきっと役に立つと思うよぉ」


マドカ「……わかりました。それで、具体的にどういった依頼内容なのでしょうか?」


遅念「いまPCの画面に表示してるヒョウモンダコ大学付属病院からの相談でねぇ。新規の入院患者の死亡が立て続いているそうなんだ。しかも医療処置を無事に終えて回復を待つだけの患者が、入院を始めた初日に」


マドカ「つまり病気や怪我が悪化して死亡したわけではないと」


遅念「そう。遺体を調べても明確な原因がわからないそうでねぇ。全員、突然心肺停止に陥って死んでいるらしい」


コココ「デスノートやん!」



ケラケラと笑うコココ。マドカは「不謹慎なことを言うな」と言いたげに横目でにらみつけた。遅念は話を続ける。



遅念「何者かによって『降霊』と『憑依』の儀式が行われている可能性が高い。ということで、明日2人に現地調査をお願いしたいんだ。僕もできる限りサポートするから、何かあったらいつでも電話してねぇ」


コココ「先生のサポートなしで解決したらボーナスもらえます?」


遅念「それは勘弁してほしいなぁ。50万でも充分な金額だと思うけど」


コココ「冗談ですやん!まぁでも、マドカっちがいれば万事OKっすねー!大船に乗った気分や!」


マドカ「……コココさんの分の報酬も私がもらいたい」



−−−−−−−−−



翌日 AM 11:31

ヒョウモンダコ大学付属病院 院長室

黒い革張りのソファに並んで腰掛けるマドカとコココ。向かいのソファに白衣を着た頭髪の薄い男性院長が座る。年齢は70代前半といったところ。



マドカ「遅念先生は諸事情により来られず、私たちが代理で対応させていただきます。まだ学生ですが、先生から『憑依』に関する専門知識を教え込まれてますので、ご期待に添えるかと」


院長「話は聞いているよ。聡明そうな学生さんで一安心だ」



院長はマドカの顔からつま先にかけて舐めるように視線を動かす。いやらしい視線を感じ若干表情が歪むマドカ。隣のコココはそんなことにも気付かず、呑気に笑顔を浮かべている。



コココ「病院の院長の年収って、マシュマロ何個分?」


院長「……このお猿さんは大学で飼育してる実験用の動物かね?」


マドカ「いえ彼女は猿ではなくギリギリ人間です。私と一緒に調査を行います」


コココ「よろしくベイベー!」



右手でサムズアップをするコココ。院長はわざとらしく咳払いをし、マドカのほうに体を向ける。



院長「相談したいことは、遅念さんからキミたちに伝わっているだろう?当院はただでさえ入院患者が少なく、これ以上患者がいなくなると倒産の可能性があるんだ。だから何としても不審死の原因を突き止めて解決し、患者に長く入院してもらう必要がある」


コココ「なぁ院長、お茶とかって出してくれへんのー?喉渇いてるんやけど」


院長「早急に対応をお願いしたい。調査のために必要なことがあれば何でも協力するから言ってくれ」


コココ「でもアタシお茶よりコーラがええなぁー」


院長「……お茶を出さなかったのは私の落ち度だが、キミはデリカシーというものを知らんのかね?」


マドカ「し、失礼しました!彼女の戯れ言は全て無視してください!」


院長「そのほうが良さそうだ」



院長は立ち上がるとマドカの背後に回り右肩に触れる。



院長「キミのように才色兼備で私のドストライクな学生を手配してくれたのは、遅念さんの配慮だろう。どうだ?もしお金に困っているなら、当院の事務員として働いてみないかね?」



院長の手がマドカの胸元に伸びる。明らかなセクハラだが、相手が依頼人であるという意識から声を上げることが憚られ、硬直するマドカ。両目を力一杯閉じる。


院長の手がマドカの胸に触れる寸前でピタリと止まった。



院長「な、なんだね?」



動揺する院長の声が聞こえ、マドカは目を開け振り返る。院長の目の前に、マドカの隣で座っていたはずのコココが立っていた。



コココ「ジイさん、それはアカンて」



コココは院長の右腕と襟首を掴むと、一本背負いを決めた。背中から床に倒れ、泡を吹く院長。



マドカ「コココちゃん……」


コココ「マドカっち、安心してええよ。アタシ柔道3段やから」


マドカ「……遅念先生が言ってた『役立つ』ってこのこと?」



院長が床に倒れた際に発生した大きな音を聞きつけ、看護師数名が院長室に駆けつける。院長は担架で運ばれていき、マドカとコココは看護師長にこっぴどく叱られた。

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