第5話 遥

はるかは、中学3年生…



遥は、父と母が離婚後

母と姉と一緒に暮らしていた。

母は、姉はすごく可愛がるのに…

遥には冷たく当たった。

遥には、ごはんも与えなかったり無視したり暴力をふるったりした。

姉妹に差をつけて虐待する、そんな親も珍しくはない。



遥は自分から、近所の人に助けを求めて児相に行き

この施設に来ることになった。



中学生になって、いきなり施設に入ることになって

戸惑いもあったようだけど…

遥は、いつも気を遣って周りと仲良くしようと努力していた。



最初は、遥に話しかけても、一言しか返ってこない。

それ以上、話し掛けるなってオーラを出していた。



でも、私の同期の人達には



「先生、可愛い。大好き」



と腕を組んだりする子だったから…

私のこと、相当嫌いなんだなって思っていた。



でも、周りの子が私に話し掛けたりしているのを見て

ある日、突然私の所に来て…

色々話すようになった。



周りの子の愚痴…とか色々相談して来た。



遥の話だと…

最初は、オバサンと思っていたけど…

いい人だなって思ったからと…



土曜日と日曜日と祝日の朝は、職員は忙しい。

いつもなら、食堂で作って貰ったご飯を食べるのだけど…



土日祝だけは、パンとサラダかフルーツやヨーグルトと飲み物になる。

前日に、パンやヨーグルト等が運ばれてくるけど…

サラダ等は、職員が朝取りに行く。



戻ってから、パンを焼いたり、サラダを取り分けたり

お皿を用意してセッティングする。

コップも誰が誰のだか、なかなか覚えられない。

バタバタしていると…

遥は、誰よりも早起きして手伝いに来てくれた。

それは、すごく助かる…



土日の朝は、作業があって…

畑仕事や、掃除がある。

遥は、それも嫌がらずに率先してやってくれた。



真面目な性格だから…

作業の時に、さぼっている子がいるとイライラするみたいで

黙っているけど…

後で愚痴を言ってくる。

それにプラス何か嫌なことをされた時は…

いつも怒らない遥は、泣いて怒った。



児相は、お母さんには何処の施設にいるか

隠していたはずなのに…書類が間違って送られたとかで…

お母さんから、電話や手紙が来たことがあった。



その手紙は、遥のもとに渡しても良いと許可が出た。

遥に、どうするか聞いてみた。



遥は、迷った挙句…

手紙を見ることに決めた。



でも、手紙を見た後で…



「先生、この手紙は自分のボックスにいれておいて。そばに置いておきたくない」



そう、言った。



大事な物は、箱に入れて職員が預かっている。

私は、その箱の中に手紙を入れた…

中身は見ていない。



遥は、高校入試も誰よりも頑張って

公立高校の推薦入試で合格した。



そして高校合格と同時に高校生のホームに移った。



ホームを移る前に、遥は手紙をくれた。

私は、それを見た時に涙が止まらなかった…

遥は、誰よりも私のことを見てくれていた。



私は、遥への返事と一緒にラインのQRコードを渡した。

規則では、ダメだったのだけど…

いつか、施設を出たら一緒にご飯を食べに行こうと約束した。



そして、遥が施設を出てから連絡してくれた。

その時には、私は施設を辞めていたのだけれど…

一緒にご飯を食べに行った。



遥は、短大に合格して

1人暮らしを始めていた。



誰よりも、気を遣い…

自立して生きようとしていた子…



私は、遥とゴミ捨てに行った時に見た、綺麗な朝日を忘れないよ…



どうか、この子に自立した未来がありますように…


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