第4話 杏
でも、杏と初めて話したのは…
杏が中2の時で、私の内定が出た後に行った
登山のイベントの時だった。
私は、その日は登山の後に、幼児さん2人の担当になって
一緒に体育館でステージを見ていた。
杏は、幼児の職員に話し掛けていたのだけど…
忙しくしていた職員の人は、それに気が付かなかった…
寂しそうにしている杏に、私は声を掛けた…
「先生、忙しいみたいだね…。教えてくれる?この学校にテニス部ってあるの?
「ないよ。なんで?」
「知り合いの子が、テニス部の話をしてたから…でも、ここの学校じゃないのかも?ありがとう」
「ここの学校じゃないかもね」
そう、言葉を交わした…
その後の、とんど祭りに行った時も杏に会ったから…
手を振ったら笑顔で手を振り返してくれた。
なんでオバサンが…と不審がっていた子の中で
唯一、話してくれた子だった。
杏は、変わった子で…
妖精が見えるとか…人には見えない友達がそばにいるとか…
家では、暴力もしていたようで…
お母さんが手に負えなくなって、この施設に来た。
妹がいるが、施設には来ていない。
母は、母子家庭で夜のお仕事に就いている人だった。
でも、連絡して出なくても後で必ず折り返しの電話をくれる
しっかりしたお母さんだった。
施設に来た頃は、やっぱり可笑しなことを言っていたそうだが…
私が入った頃には、そんなことは無かった。
杏は、周りに左右されない、しっかりした子だった。
1人で、相談に来ることもない子…
正直、何を考えているか分からない子だった。
勉強は、あまり出来なかったから
碧と一緒に、推薦入試で高校に合格した。
高校に入ると、友達もすぐできて…
彼氏もすぐできた。
施設では、高校に入ると携帯を持つことができる。
携帯は、夜の22時になると
職員に渡さなければいけない。
杏は、彼と電話をしていて…
いつもギリギリに返しにきた。
杏は、友達にも彼氏にも
施設にいることを話していた。
彼の話も…
「先生、聞いて」
と話をしてくる。
高校2年生になって、杏の大好きなお婆ちゃんが亡くなった。
杏は、お婆ちゃんが癌になって…
余命が、あとわずかだと知った時に
帰省したかったのに…
児相の許可が下りずに…
お婆ちゃんの死に目に会えなかった…
杏が帰れたのは、お葬式も済んでからだった。
杏は、児相を恨んだ…
杏は、家から学校に通いたいと言った…
それを、児相の担当に相談したけど…
母とも話をして、母は高校卒業して
進路が決まってから帰って来て欲しいと言ったそうだ。
母の想いは、杏がたまに帰ってくる分にはいいけど…
ということだったみたいだ。
杏は、諦めるしかなかった…
それでも、杏は
「仕方ないね…」
とあっさりしていた。
アニメの話とかでは、盛り上がって話をするけど…
あまり本心を言わない子だった。
それでも、上司が杏にホームで話せる先生はいるかと聞いた時に
私の名前を出したそうだ…
杏は、高校卒業して…家に帰ったと聞いた。
杏も、だいぶ大人になった。
人との付き合いも上手で
甘え上手だから、結婚も早いかもしれない…
杏が、幸せに暮らせますように…
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