第11話 幼馴染の偏愛 ☆押隈美冬視点


『おう、みふゆ! こうえんいこうぜ!』

『ふゅーちゃん、いっしょにいこ?』

『う、うん! いく~』


 物心付いたときには、あきくんとはるちゃんと一緒だった。

 そして、その頃からあたしはトロくさい女の子だった。

 一生懸命あきくん達の背中を追いかけていたのを覚えている。


『みふゆはトロいなぁ、ほら、手!』

『えへへ、いつもごめんね?』

『ふゅーちゃん?! おにいちゃん?!』


 あきくんがいて、はるちゃんがいて、あたしは手を引かれて着いて行く。

 いつまでもこんな日が続くと思っていた。





『今日は友達と遊ぶから、女は連れてけないぞ。そういうるーるみたいだからな』

『ま、待って! あたしも~!』

『え、えぇえ~』


 トロくさいあたしは、クラスで浮き気味だった。

 学年も上がるにつれて、男子と女子で分かれるのがアタリマエになりつつあった。

 あたしのようなトロい子は遊びの邪魔だったかもしれない。


 それでも何かと傍に居て手を引いてくれたし、これからもそうだと思い込んでいた。







 中学3年生の頃だったと思う。


『俺、好きな人ができたんだ』


 その言葉で目の前が真っ暗になった。

 どこか遠くに行っちゃうと思った。


 振られたと聞いた時、心底ホッとして、そんな浅ましい自分にゾッとした。

 だけど、この時はっきりと、あたしにとってあきくんが特別だと自覚した。


 鏡に映るのは、ダサくて地味な女の子。

 無駄に大きな胸がトロくささを強調しているみたい。


 こんなの邪魔で、どうにかしたかった。

 ただでさえトロくさいのに、こんな重りがあったら追いかけられないなんて思った。


 物理的にも精神的にもこの胸に締め付けられ雁字搦めになっている。


 そのうちあきくんの隣には知らない女の子が居るかもしれない。

 トロいあたしじゃその傍まで追いつけないかも……


 だから、2番目でもいい。

 2番目でもいいから傍に居たい。


 その為にも変わりたかった。






 疎遠になっちゃってたけど、はるちゃんの噂は聞こえてきていた。

 1つ下の学年に凄く可愛い女の子がいるって嫌でも耳に入ってきた。


 実際はるちゃんはすっごく可愛くなっていた。

 いつも堂々としていて憧れたりもする。

 何よりあきくんと一緒に暮らしているのが羨ましかった。

 あたしの知らないあきくんを知ってると思うと妬ましくさえあった。



 しょせんあたしは幼馴染。

 あきくんのことを何でも知ってるってわけじゃない。

 他の人より多少詳しいとは思ってる。


 お風呂はいつも左手から洗い始めて牛乳石鹸を使ってるのも知ってるし、おじさんの毛根が寂しいのを気にして今からスカルプケアシャンプーとコンディショナーを愛用してるのも知ってるし、あたしも同じのを調べて使ってる。あたしとは髪の量が違うから消費量までは一緒じゃないけれど。

 毎日寝るのは大体日付が変わって30分ほど経った頃で、起きるのは決まって6時25分。目覚ましのセットは30分なのでまどろみながら二度寝をするので、あたしもいつも同じ時間に起き出すタイミングを見計らって『おはよう』って呟いたりしてる。

 あきくんが独り上手に励むのは、大体週に4~5回位で時間は平均12.6分。最近参考に使っているのは動画だと家庭教師やナースものが多くて、漫画だとオネショタと逆レものが多いのを確認している。だけど最近ロリもので励んでいたときは5分を切っていたので、自分の胸を見て危機感を持ったりもした。


 せいぜいあたしが知ってるのはそれくらいだ。







 だから、あの日の事は衝撃だった。


「おはよ~、あきく……んぅッ?!」

「み、美冬」


 あきくんとはるちゃんが仲良く手を繋いで登校していたのだ。


 ずるい。

 あたしもあきくんの隣に居たい。


 そしてはるちゃんに何があったのだろう?


 昨日までのツンツン具合から、とてもじゃないけど想像できない。


 はるちゃんがあきくんの部屋で何かしてるのは知ってるけど、具体的に何をしてるかまではわからない。

 もしそれが関係あるなら是非とも教えて欲しい。



 はるちゃんの急激な変化に戸惑っているのはあきくんも一緒だったみたい。



 だから、あたしは一生懸命考えて、何があったか聞き出そうとした。


「ちゃんと説明、してくれるよね?」


 あたしも変わりたい。




  ◇  ◇  ◇  ◇




「美冬、お前は歪んでいる」

「きゃっ!」


 飲む福祉を一気に煽ったあきくんに、強引にベッドへと突き飛ばされた。

 え、なに? 何がどうなってるの?


「力を抜け」

「えっ、やんっ、まって」


 強引にうつ伏せにされ、私の肩に手を置かれたかと思えば……


「ぃやぁああぁああぁああああんっ!!」

「くっ、きついっ」


 強引に指を沈み込まされた。


 肩に。


 言葉では到底表せられない痛みと快感があたしを襲った。


「やぁっ! きゃぁんっ! そこはぁっ! いぃいやぁあぁあぁぁっ!」

「くそっ、硬いというかほぐれるのがトロいというか、普段の美冬そのままだなっ」

「ぃゃん、そんな……あっあっあっあっ」

「んっ、くっ、ふっ!」


 一揉みごとに、身体が軽くなっていくのがわかる。

 まるで生まれ変わっていくかのようだ。

 なんなのこれ、なんなのぉ!?

 あきくん、一体どんな魔法を使ってるのぉ?!


「肩だけじゃないな、腰も背中も足も……美冬、脱げ」

「…………え?」

「聞こえなかったか? いいから脱げ。筋肉が見えにくい」

「やぁっ、心の準備がっ! 待って、あぁやああああんっ!!!」



 ………………………………


 ……………………


 …………



 全身くまなくマッサージされた後、疲れたのか飲む福祉のせいなのか、あきくんは眠ってしまった。


 物理的にも精神的にも雁字搦めだった胸が解放され、生まれ変わったとしか言いようが無いくらい身体が軽い。


 あたしはというとそれに、恍惚としているしかなかった。

 寝ているあきくんを隈なくまさぐれたというのもある。


 目を覚ましたあきくんを、まるで追い詰めるかのように積極的になれたあたし自身にびっくりした。

 逃げられちゃったけど。


 これは天の配剤だ。


 真実、生まれ変わるのは今だと思った。



 今一度鏡を覗く。


 そこに映るのは、ダサくて地味な女の子。

 無駄に大きな胸がトロくささを強調しているみたい。


 これじゃダメだ。

 2番目でもいいからあきくんの隣に居たい。










 もしダメって言われたら、あきくんをどこかに閉じ込めてでも無理やり隣に行く。










 それなら、あきくんが傍にいても迷惑が掛からないような女の子にならなきゃ!


 生まれて初めて美容院なんていった。

 生まれて初めて髪の色も染めた。

 生まれて初めてパーマなんてかけた。

 生まれて初めてコンタクトをつけた。

 慣れるまでちょっと目が痛かった。


 ふと、2年前あきくんが好きになった女の子が脳裏によぎった。

 少しだけ、あの子の事を意識した。


 もう一度鏡を覗く。


 明るくふわふわした髪、垂れ目だけどぱっちり大きな瞳。

 そして人目を引く大きく張りのある胸。


 うん、これならあきくんの隣にいても恥ずかしいって思われないかな?


 大きく深呼吸。


 イメージトレーニングならずっとしてきた。





「あーきくぅん」





 想像以上に身体が軽くて思い通りに動き、あきくんの腕を取ることができた。


 えへへ。


 我ながらちょっと大胆だったかな?


 はるちゃんとひと悶着あったけれど、あきくんの手を握ることには成功した。


 そう、あきくんの手。

 数年振りに繋いだあきくんの手。


 あきくんがゴシゴシ励むようになってからは初めてかな?


 この感触を覚えて帰らなきゃ!

 家に帰ってあたしの方も繋いだ手で独り上手に励んだら、実質これは結ばれてるといっても過言じゃないかな? ふふっ♪


 あたしは真剣だった。



「夏実ちゃん!」

「ッ! あ、あははは、先輩、おはようございます……てわけで自分はこれで!」



 だけど、突如あきくんが他の女の名前を呼んだ。


 え、誰?


 はるちゃんと目が合い頷きあう。


 通じ合うところは一緒。


 巨乳だ。


 とても危険だ。


 思惑は一致したと思う。




 はるちゃんなら妹だからまだいい。


 あきくんを他の女には渡さない。

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