暴れ熊の2番な幼馴染
第5話 幼馴染に相談
朝から教室は、とある話題で騒がしかった。
「おいおい、見たか今朝のアレ」
「みたみた。あれ1年の噂の子だよな?」
「俺は見てねーよ。なんか冴えない彼氏だって?」
「あれなら俺の方がイケてるし、ワンチャンあるんじゃね?」
「「それはねーから!」」
…………
そりゃ、あれだけ馬鹿ップルぽいことしてたら目立つだろう。
どうやら今朝の光景は噂に上るくらいインパクトがあったようだ。
この休み時間も、今朝の話題をしている人は多い。
ていうか、その彼氏って多分俺の事なんだけど、同じクラスにいるのに気付かないんすかね?!
ともかく、俺とバレていないなら都合がいい。
これ以上噂が広がる前に何か対策を――
「ねぇあき君、ちょっといいかなぁ?」
事案発生。
それが俺だと確実に知っている人物がいた。
「み、美冬、あれはだな――」
「すいません、お兄ちゃ……大橋先輩いませんか?」
ッ!!
聞き覚えのある声が聞こえた。
2年の教室に小春が訪れてくるのは不意打ちだった。
未だに混乱しており、心構えが出来ていない俺は、思わず屈んで机の下に隠れてしまう。
「あきくん?」
「しーーっ!」
色々と察してくれ、という思いを込めて美冬を見つめる。
「……後で説明してよ?」
俺の言いたいことをわかってくれたようだ。さすが幼馴染。
しょうがないなぁ、なんて顔をしながら小春のところに向かってくれる。
美冬さんマジイケメン。
今度大好きなきんつば奢っちゃう!
楠園堂の高いやつ!
「あき君ならいないよ~? 何か用があるなら、あたしが伝えとくけど?」
「……あ、そう」
「それにしても、はるちゃんあき君と随分仲良しさんになったね~」
「……あんたには関係ないでしょ」
「で、でもはるちゃん昔は……」
「あーもう、いい。お兄ちゃん居ないなら用は無いし!」
キッ、と射抜くような目で美冬を睨みつけ、去っていく小春。
今朝の話題の美少女と、一部男子に人気(主に隠れ巨乳人気)の女子とのそんなやり取り。
はい、噂に燃料を注ぐことになるのは想像に難くありませんね。
「おいおい、今の1年女子って例の……」
「うわ、マジ可愛くね?」
「え、なに、押隈さんってあの子と知り合い?」
「巨乳の共演でものすごいことになってたよな!」
「彼氏となんかいざこざ?!」
ええっと、なにこれ修羅場?
どうしてそんなことになってんの?
美冬は『うん、近所の子』『えへへ、ちょっとね』などと言って軽やかに話題をかわしながら、ジト目で俺の所にやってくる。
「あき君」
困惑の表情と共に、ちゃんと何があったか説明してよねという、有無を言わさない詰問の目をしていた。
美冬は俺の幼馴染であるとともに、小春の幼馴染でもある。
これでも昔は仲が良かった時期があったのだ。
そりゃあ色々と気になるだろう。
「ちゃんと説明、してくれるよね?」
「はい……」
◇ ◇ ◇ ◇
半日で学校が終わった後、俺達はまるで小春から逃げるかのように美冬の部屋に転がり込んだ。
久しぶりに入った美冬の部屋は、随分様相が変わっていた。
最後に来たのいつだっけ? 高校に上がってからは初めて……いや、2年前のあれからは来ていないな。
自分の部屋とは違う、異性を感じさせる部屋の作り。
香りもどこか甘く、いかにも女の子っぽい感じ。
小さい頃からお気に入りのテディベアと望遠鏡だけが変わっていない。
幼馴染とはいえ年頃の男女、それを強く意識させられるのだが――
「うわ、全く緊張とかしない」
「どうしたの、あきくん?」
「いやさ、女の子の部屋に来たからにはもっとこう、緊張するというかそわそわするかなって思ったんだけど全くなくてさ」
「え、えぇぇえ? どういうことかなぁ?」
「いや、わからん。美冬だからか? むしろ落ち着くまであるな」
「そ、そぉ?」
褒めたわけじゃないけれど、どことなく嬉しそうにする美冬。
小春とはえらい違いだ。
それに落ち着くには訳がある。
だって自分の家だと
以前は顔を合わせただけで悪態舌打ち、今は不気味でわけの分からないデレデレ状態。
例えるなら、一夜明けたら危険な人食い虎が、急に懐いた感じ。
なら、
「そういや、まだ星見てるのか?」
「えっ? あ、うん……ま、まぁね」
「ふぅん?」
どこか誤魔化すような感じの美冬。
ははぁん、こいつ、ただのインテリアにしてるだけだな。
「そ、それであきくん、あたしに話してくれるかな?」
「ああ、ぜひ聞いてくれ」
こうして、俺は昨日の事を話していく。
といっても大した事はあまりない。
要は獅子先輩にもらった飲む福祉を飲んでから意識が飛び、気付けば妹が全裸で朝チュンというだけだ。
…………
全然大したことあったわ!!
え? 何これ? 客観的にみたら俺やベー奴じゃん!
「け、けだもの……っ!」
美冬が自分の胸を抱くようにして後ずさる。
そしてテディベアを盾にして俺をチラ見する。
地味にショックだ。
「ち、違うから! 俺は服を着てたから! 何もしてないから!」
「ほ、本当?」
「俺童貞だから、そんな大それたことできねーって!」
「そ、そうなんだ、あきくんやっぱり童貞なんだ」
「う、うぐっ……」
美冬にやっぱり童貞なんだと確認される。これ何の羞恥プレイ?
恥ずかしいから『そっかそっか、あき君童貞かぁ』なんてつぶやかないで欲しい。
テディベアにも『あき君やっぱり童貞なんだって』とか報告しないでいいから。
それ地味に傷付くから。
「とにかく、あき君は何も覚えていないんだよね?」
「ああ、そうだ。むしろ何が起きたか教えて欲しいくらいだ」
「じゃあ、試してみようよ」
「試す?」
「ちょっと待っててね、あき君」
言うや否や、そそくさと一階に下りていく美冬。
ガチャガチャと食器を鳴らす音がしたかと思うと、すぐに戻ってきた。
「はい、これ」
「これは……?」
氷と一緒にコップに注がれていたのは、シュワシュワと気泡をあげる炭酸飲料。
これってまさか……
「ええっと、お父さん愛飲の飲む福祉?」
「ちょ、美冬、お前なんてもの出してんの!?」
年頃の女の子が昼下がり自分の部屋で、年頃の男の子に飲む福祉を飲んでという。
倫理的にも色々と酷い絵面である。
「何があったか確認しないと、はるちゃんの事もどうにもならないんじゃないかな?」
「それは、そう……だけどさ」
「ほらほら、あきくん。いっき~、いっき~!」
「くぅ、どうなっても知らないからな!」
やけに間延びした美冬の一気コールと共に、飲む福祉を呷る。
そこで俺の意識は暗転したのだった。
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