第7話 ガリア属州総督

紀元前59年、ガイウス・ユリウス・カエサルは執政官としての任期を終えようとしていた。この一年間、カエサルはクラッススやポンペイウスへの利益誘導を通じて三頭政治の基盤を固めつつ、自らの次なるステージへ向けた準備を着々と進めていた。その目標は、軍事力を手に入れることであった。

クラッススへの利益誘導

カエサルの書斎で、彼と総司が向かい合って話していた。

「クラッススの要求である予定納税の廃止、これを実現しようと思う」

カエサルは巻物を指で弾きながら続けた。「属州税徴収請負業者、つまりプブリカヌスが国家に予定納税として徴税分の1/3を先払いする義務を負っているが、これを撤廃する修正案を提出する」

総司は眉をひそめた。「しかし、元老院派はこの案に反対してきました。彼らの主張は『経済的負担を軽くするだけで国益にならない』というものでしたね」

「その通りだ。だが、俺には別の説明がある」

カエサルは微笑みを浮かべた。その案内力の巧みさで修正案は元老院で可決され、クラッススは満足を得た。そしてこれにより、彼の経済界での影響力が三頭政治の中でも一層強化された。

ポンペイウスへの利益誘導

次にカエサルが動いたのはポンペイウスへの利益誘導だった。彼のかつての功績――東方の再編成案や兵士たちへの土地給付は既に解決していたが、カエサルは新たな策を考案していた。

「エジプトのプトレマイオス12世が追放されている状況を利用する」と、カエサルは総司に語った。

「彼をローマ軍の支援で復位させ、その見返りとしてエジプトをポンペイウスの保護下に置く。この行動でローマの国益も守られる」

総司はうなずいた。「エジプトはローマの安全保障にとって重要な地域です。それに、ポンペイウスの影響力も一段と強化されますね」

この計画は成功し、エジプト王から多額の謝礼金がポンペイウスとカエサルに支払われた。カエサルはその半分をクラッススへの借金返済に充て、残りを自らの資金に充てることとなった。

基盤の強化:結婚と法案提出

カエサルはさらに自らの基盤を強化するため、有力な元老院議員ピソの娘、カルプルニアとの結婚を決意した。

「ピソのような温厚な性格の持ち主は敵が少ない。彼の支持を得れば、元老院派に対抗するための大きな武器となる」

総司はその判断を支持しながらも、次の一手を尋ねた。「では次にどう動くつもりですか?」

カエサルは即答した。「俺の属州統治権を大幅に強化するヴァティニウス法を提出する。これは元老院派への明確な挑戦状だ」

当時、執政官の任期終了後には元老院によって事前に属州統治地が指定されていた。カエサルに割り当てられた任地は「イタリア中の森林と街道管理」という、軍事力を必要としない地味な任務だった。しかし、カエサルはこれを覆すべく動き出した。

ヴァティニウス法の提案

ヴァティニウス法は、カエサルの属州統治地を北部イタリアと現在のスロヴェニア、クロアチアの2つの属州に変更し、5年間の任期と3個軍団の指揮権を与えるという内容だった。

総司は提案を受けて意見を述べた。「元老院派はこれに猛反発するでしょう。しかし、三頭政治の力を使えば突破口は見つかるはずです」

カエサルは自信に満ちた表情で答えた。「ピソの根回しとポンペイウス、クラッススの賛成で押し切る。市民集会も味方につければ、ホルテンシウス法のもとで元老院を無力化できる」

予想通り、元老院派は断固反対した。しかし、市民集会の招集により、ヴァティニウス法は可決された。さらに1か月後、南ガリア属州総督メテルスの急死により、その地もカエサルの統治地に加える補正案が提出され、軍団数は4つに増強された。

新たな挑戦へ

こうしてカエサルは、ローマの北方に広がるガリアの地を統治する権利を得た。軍事力を手にした彼は、ガリア遠征への道を歩み始める。

総司はカエサルの横で静かに言葉を交わした。「お父様、これで軍事力を手にしました。次はガリアでの成功が、ローマ全土にあなたの名を轟かせることでしょう」

カエサルは鋭い目で北を見つめ、静かに頷いた。「ここからが本当の戦いだ。お前も俺と共に進んでくれるな?」

「もちろんです。お父様の右腕として全力を尽くします」

未来への布石

こうしてカエサルは、政治家から指揮官としての道を進み始めた。ガリアの地で彼を待ち受けるのは、未知の挑戦と新たな勝利の物語である。総司もまた、その旅路の一端を担い、共に歴史を築いていくのだった。

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