第6話 結婚

古代ローマの朝、ユリウス家の中庭では鳥のさえずりが響き渡り、柔らかな日差しが降り注いでいた。その日、ユリアと総司は食料や家庭用品を買い足すために市場へと出かける予定だった。

運命の告白

市場の通りは活気に満ちていた。屋台には果物や肉、布地が所狭しと並び、人々の笑い声や話し声が飛び交っていた。ユリアは総司と並んで歩いていたが、ふと服屋の前で立ち止まった。

「見て、あのベール。綺麗ね」

総司が目を向けると、店先に白いウェディングベールが飾られていた。繊細な刺繍が施され、日差しを受けて輝いている。

「ユリアもいつか結婚するときに、あれをつけるんだろうな」

軽い冗談のつもりで総司が言うと、ユリアはにっこり笑って答えた。

「じゃあ、総司が私に着せてよ」

その言葉に、総司の胸が熱くなった。長く抑えてきた気持ちが一気にあふれ出し、彼は意を決してユリアに向き直った。

「ユリア、好きだ! ずっと君のことを想っていたんだ」

ユリアの目が驚きに見開かれた。「…本当?」

総司は深呼吸をし、続けた。「その明るさ、優しさ、そして…君そのものに惹かれていた。俺と結婚してくれないか?」

ユリアは少しの間驚いていたが、やがて顔を赤らめ、柔らかい声で答えた。

「嬉しいわ、総司。実は私も…ずっとあなたのことが好きだったの」

家族への報告

二人は家に戻り、カエサルの母アウレリアに二人の婚約を告げた。

「まあ、なんて素敵な話でしょう!」

アウレリアは目を輝かせた。「でも、結婚式を挙げるなら指輪も用意しなければならないわね。これから忙しくなるわよ」

その夜、カエサルが帰宅した。総司は緊張しながらも、養父に結婚の許しを得るため日本式の礼儀を尽くした。

「カエサル様、娘さんを私にください!」

カエサルはしばらく沈黙したが、やがて大きな声で笑い出した。

「ははは、何を改まって言っているんだ、ソウジ。お前はもう家族だろう? それにしても、養子の立場から外れなければならないな。その手続きはこちらでやっておこう」

その反応に総司は拍子抜けし、ユリアも頬を赤らめて笑った。

結婚の準備

翌日、二人は結婚指輪を買いに市場へと向かった。古代ローマでは鉄の指輪が結婚の証とされており、それは女性が男性に忠誠を誓う象徴でもあった。ユリアは心躍らせながらいくつもの指輪を見て回り、ついに二人にとって完璧な指輪を見つけた。

「これよ、ソウジ。これがいいわ!」

総司はその指輪を見て頷いた。「君が気に入ったなら、それにしよう」

カエサルが費用を全額負担したこともあり、二人は無事に指輪を購入した。

結婚式の日

結婚式当日。式は親しい家族だけが集まり、静かに行われた。二人はそれぞれの指に結婚指輪をはめ、古代ローマの神々に夫婦としての誓いを立てた。

「ソウジ、これからもよろしくね」

「もちろんだ、ユリア。ずっと君を守るよ」

その後、二人はローマ式の結婚の象徴として、熱い口づけを交わした。

式が終わった後、カエサルはどこか寂しげな表情を見せた。アウレリアが小声でからかうように言った。

「どうしたんだい? もしかして嫉妬してるのかい?」

「いや、ソウジなら許せると思っている。ただ…家族が減るのは寂しいものだな」

結婚後、総司とユリアは新居を構えることを提案したが、カエサルはそれに大反対した。

「新居だと? そんなことをしたら、我が家が寂しくなってしまうではないか!」

カエサルの本音は、新しい家庭を築く娘夫婦を喜びながらも、一緒に暮らす時間を失いたくないという父親としての愛情だった。

新たなスタート

その夜、結婚式の余韻に浸りながら、家族全員で祝いの宴が続いた。総司は新しい生活の始まりを前に、胸に決意を抱いた。

「ユリア、必ず君を幸せにするよ」

「うん、私も頑張るわ」

総司とユリアの新たな生活が始まった。その愛が、ローマという大きな歴史の中でどのような影響を及ぼすのかは、まだ誰にもわからなかった。

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