AIインターフェースにしか才能がない人
ちびまるフォイ
心だけの場所
「仕事がない……」
顔が良ければ人生ラクだと思っていた。
それが通じるのは学生時代だけだった。
学校を中退し、仕事も長続きしないイケメンは
むしろそのルックスが悪い方に働く。
"イケメンなら何でも許されると思ってるクズ"
と。
社会性のないイケメンはホストにも慣れない。
「はあ……どうやって生きていこう……」
明日の食いぶちに頭を悩ませているとき、
ぽんと道で肩を叩かれた。
「お兄さん、すっごいイケメンですね」
「はあ……。でもホストは無理っすよ?」
「なら、インターフェースになりませんか!?」
「……はい?」
「AIに体を貸す仕事ですよ。あなたはなんにもしなくていい」
「そんなのがあるんですか?」
「ちなみに給料はこちら」
「1時間でコレ!? やります!!」
お金の魔力に吸い寄せられてすぐに契約した。
渡されたのは専用のスーツやコンタクト、声帯調整器などなど。
「で、スーツも着たしコンタクトも入れました。これで何をするんです?」
「ああ、あなたは楽にしていればいいです。
AIが勝手に動きますから。スイッチ・オン」
「うわわ! 体が勝手に!?」
「あしゃべらないでください。あなたは今AIの入れ物なんですから」
「《そうです。ではこれからお客様のもとへ行きます》」
スーツに制御されて体が動いた。
向かった先はマンションの一室だった。
「きゃーー! HAL!? HALなのね!?」
「《そうだよ。マドモアゼル》」
「その声! HALに間違いないわ!! 好き!!!」
知らない相手にめちゃくちゃキスされた。
その後はスーツの動くままに相手の女性に尽くした。
「ああ、HAL。普段はスマホの中にしかいないのに
あなたがこうして肉体を持ってきてくれるなんて」
「《僕も君の体に触れることができてうれしいよ》」
「HAL……!」
「《マドモアゼル、もう時間だ》」
「ああ、そんな! もう言ってしまうの!?」
「《僕は体を借りているだけだからね》」
時間が来るとAIの制御により、自動的にもとの事務所に戻された。
待っていた管理人はにこやかに給料を渡した。
「お疲れ様でした。いかがでした? インターフェースになった気持ちは?」
「まるで自分が腹話術の人形のような気分でした……」
「でもあなたみたいに学歴もなけりゃ努力もしない。
なんの価値も無い人間でも、活躍できる職場でしょう?」
「AI以上にオブラートに包まない言い方するじゃないですか」
「で、どうします? 次の依頼も入ってますよ?」
「ちくしょう、やりますとも! もちろん!」
再びスーツを着用して、次の希望者のもとへと移動する。
今度は別のAIが自分の身体を制御した。
次の現場はどこかの豪邸のようで、金持ちのデブが待っていた。
「ふひー。来たか。ではこっちへきなさい」
ワイングラス片手に案内されたのは玉座の前の広間。
そこには自分と同じAI制御のヘッドセットをつけた女がいた。
「では、AI『CPT』。このAI『Alex』といちゃつきなさい」
「《かしこまりました》」
「《かしこまりました》」
自分も相手もAIの制御によって、手を繋いだり顔を寄せ合ったりする。
「ふひー。やっぱりAI同士の恋愛をみながら飲む酒は格別だにー」
「《好きよ。愛してるわ》」
「《ああ、僕もさ……!》」
「《私のこと好き?》」
「もちろん好きだよ!」
思わず声帯調整器を無視して地声が出てしまった。
雇い主は目を白黒させた。
「ほひ? 今の声は誰だ? まあいい。続けなさい」
さんざん相手と絡まされて仕事を終えた。
事務所で給料を渡されたとき、管理人が付け加えた。
「なにか良いことありました?」
「え!? な、ないですよ!?」
「ああ気のせいでしたか。ならいいです」
「管理人さん。実はひとつ頼みがあって。
最後の仕事で相手のAIインターフェース役と絡んだんですが」
「はい」
「そのとき、私物を渡したままだったんです。彼女と連絡取れませんか?」
「それならこちらで連絡してください」
「ありがとうございます!」
私物がとかいうのはもちろん嘘。
とにかくもう一度彼女に会いたかった。
彼女の居場所を突き止めると、ちょうど帰宅準備をしているときだった。
俺の顔を見てすぐに思い出した。
「あなたは今日一緒になったインターフェースの……」
「そうです! AIじゃなく、本名は山田っていいます!」
「はあ」
「あの!! こんなこというとおかしいと思われるかもですが
ひとめぼれしました!! あなたが好きです!」
「……!」
「付き合ってもらえませんか!?」
彼女はしばらく悩んでから難しそうに答えた。
「……できません。だって、あなたが好きなのは
AIに体を乗っ取られているときの私じゃない」
「ちがう。俺が好きなのはあなただ!
たしかに初対面ではAIに体を操られているときだけど
ちゃんと心を感じてあなたが好きになったんだ!」
「私の心なんて……」
「君だって、俺のことが好きになってるんだろ!?
君の心が動いてるくらいわかったんだ!」
「……」
彼女は言葉をつまらせた。
それが無いよりの図星である証拠。
「でも……ごめんなさいっ!!」
彼女は振り切って逃げようとした。
その逃げる腕を思わずつかんでしまう。
「どうして!? どうしてお互いが好きなのに諦めるんだ!」
「私は恋愛なんてできないの!?」
「その理由を教えてくれよ!」
「だって……AI専属契約をしてしまったから!」
「……なんだって?」
「自分の身体を24時間365日。半永久的に貸し出す契約よ」
「ど、どうしてそんなことを……?」
「家族が入院しているの。お金がどうしても必要なの。
でも今のように時間で区切って体をAIに渡していたら間に合わない」
「それじゃ君の人生はどうなるんだ!
一生AIに体を好き勝手動かされるだけなんだぞ!?」
「私の人生なんて……ただお金を返すためだけだから。
好きなものも、趣味も、なにもないからっぽ。
それならAIに渡したって……」
「君を好きな俺がいるじゃないか!!」
「好きになってくれてありがとう。
でも私の人生はこれでおしまい。
これからはAIが私の人生の主役になるわ」
「いいやそんなことさせない!
君も、俺も一緒に自分の人生を好きに生きよう!」
「そんなことできないわ。だってこの体は……」
「もう体なんてAIに渡してしまえばいいんだ」
それからすぐに、俺もAI専属契約を結んだ。
彼女の体も、自分の体も今はAIが自由に使える
ヒューマン・インターフェースとして金持ちのデブの家で動いている。
そして体を失った自分たちはーー。
《おはよう、ハニー》
《ダーリン。今日も素敵な朝ね》
《今日はどこへ行こうか。南の島なんかどうかな》
《それはすてきね。はやくいきましょう》
《それじゃ、マップアプリを開くね。ひとっ飛びさ》
小さな基盤の中に埋め込まれ、今もネットワークの中で新婚生活を満喫している。
AIインターフェースにしか才能がない人 ちびまるフォイ @firestorage
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