四、瑚己羽先輩の憂鬱

 休み時間。楓梨先輩は約束通り、メッセを送ってきた。どうやらようやく瑚己羽先輩が楓梨先輩に悩みを打ち明けたらしい。その内容は私がどうこうできる内容ではなかったが……ともかく最後まで読んでみる。

 瑚己羽先輩のおじいさんは大きな銀行の頭取だ。小さい頃、瑚己羽先輩は今、東京都内で支店長をしている男の人に世話をしてもらっていたらしい。忙しい祖父や父、母の代わりに面倒を見ていてくれたのが若かりし頃の支店長。そんな彼も瑚己羽先輩が大きくなると、結婚し、家庭を持った。そこまではいい。だが、彼の幼い息子は大きな病気を持っていた。そして、その病気で、先日亡くなってしまったという。

 そこまでだったら心が痛くなる話で終わるかもしれないが、まだ続きがあった。楓梨先輩から送られてきたメッセはこれで最後じゃない。それどころか、この先が本題。

『その支店長は、息子のために一千万会社の金を横領していた』。

こんな事実を知らされて、私はどうすればいいというのだ。瑚己羽先輩はこのことを知っている。自分のお世話をしてくれた恩人の息子が死んだ。しかも会社に損失を与えるようなことをしていたなんて。元気がなくて当たり前だ。これで平然としていたら、人間ではなくロボットじゃないか。

 メッセージがすべて送られてきた後、菖先輩から電話がかかってきた。廊下には何人か生徒がいて、私を遠目で見ているが、近寄ってこようとはしない。前からぼっちだったということもあるが、今は違う。『クール系メガネ』というキャラ付けが受け入れられたのだろう。スマホを見ていた姿も『クールでステキ』とのことだ。一日二日でこんなに私への評価が変わるとは。雪咲会……先輩たちの威光はすごい。

 ともかくスマホをタッチして、通話を始める。

「楓梨からのメッセは見たか?」

「見ましたけど、これはさすがに学生である私たちが何かできるとは……」

 通話口からため息が聞こえる。

「いいか。瑚己羽の世話役だった男は、横領した金を内密に返したいと言っているらしい。そこで相談したのが頭取の孫娘・瑚己羽だ。あいつは悩んでいる。男をどうにかして助けたいと」

 銀行の金を内密に返す……。菖先輩も楓梨先輩も、瑚己羽先輩を助けたいと思っている。私も、あんな元気のない先輩を見るのは胸が少し痛い。

 菖先輩はそれだけいうと電話を切った――私はどうすればいいのか。何も指示はくれなかったが、必要な情報だけを送ってきた。これは菖先輩が、私にある意味期待しているということなのかもしれない。まだ、趣味の域を出ていない小説家だけど、この題材ですべてがうまくいくようなシナリオを求められている。だとしたら私はやるしかない。

 スマホを持ってスカートを翻すと、なぜかほうっと女の子たちがため息をつく。みんなはだまされているのに気づかない。たった一日二日で人は変わらないのに。それに、私は雪咲会の宮間月海じゃない。雪咲会はただの幻想。本当の先輩たちの正体は、私が作った『花鳥風月』なのだから。

 私は授業中ずっと今回のことについて考えていた。おかげでただでさえ悪い成績が、もっと悪くなっていく。それはもう仕方ないこと。こうなったら、シナリオを考えていた時間の分、先輩たちの特訓を受けるしかない。銀行のお金を内密に返す。そんなことは無理だ。いや、だったら『内密』ではなくて、『堂々と』返すのならば――?

「今度は横浜さんの事件とは違って、私たちが退学を覚悟しなきゃいけないのかもね」

 授業のノートではなく、いつものネタ帳を開くと、私は文字を書き連ねる。これが私の考えた『銀行強盗』のシナリオだ。

 授業が終わると、私たちはスノウドロップに集まっていた。瑚己羽先輩は朝と変わらず元気がない。菖先輩と楓梨先輩は、それを無理に励まそうとはしない。それが彼女たちの優しさなのだろう。

「月海。それでいい案は浮かんだのか?」

 いつものコーヒーをゆっくり味わうと、先輩は私にたずねる。私はネタ帳を取り出すと、まず三人に聞いた。

「今回のシナリオは、我ながら危ない橋だと思っています。先輩たちには覚悟を決めていただきたいんです」

「覚悟?」

 楓梨先輩が首をかしげる。それに対して大きな声を上げたのは、瑚己羽先輩だった。

「覚悟ならできてるに決まってるよ! 順おじちゃんが捕まっちゃうかもしれない。おじちゃんの奥さんだって……ユズくんが亡くなったばっかりなのに、こんなのって……!」

 瑚己羽先輩は、大きな涙を流している。いつもの彼女からは想像ができない顔だ。楓梨先輩は瑚己羽先輩を見ると、強くうなずいた。

「……あたしも覚悟する。確かにそのおっさんは横領って悪事を働いた。それは犯罪だし、許される行為じゃない。でも、同情はするし、助けたいって気持ちもある。だから……一肌脱いでやる! 一応、自称・瑚己羽の親友でもあるし」

「ふうちゃん……」

 ふたりは菖先輩のほうを見た。あとはトップの意見を聞くだけだ。私もごくりと唾を飲む。

先輩はもうひとくちコーヒーを飲み、桜色の唇を濡らすとまっすぐと瑚己羽先輩を見つめた。

「で? そのおっさんは、ちゃんと謝罪の意思を持っているのか? 楓梨が言った通り、そいつがやったことは犯罪行為だ」

「もちろんだよ。お金を返すことができたら、辞表を提出するって」

「……ならば異存はない。月海、プランを話してくれ。全員一致で、この件にかませてもらう!」

「菖姉!」

 瑚己羽先輩は、菖先輩に泣きながら抱きつく。ぽんぽんと背中を優しく叩くと、菖先輩は私にシナリオを教えるように促す。

 ネタ帳を広げると、私は背筋を伸ばして千種さんのほうをちらりと見る。千種さんも本当は気になっていると思う。だけど、こういうときはあえてこちらの話を聞いていないフリをする。

それがカフェのマスターとしてあるべき姿なんだ。千種さんは私たちのやることに一切関知しない。

私がこほんと咳払いをすると、書いてあることの説明を始めた。

「今回の花鳥風月の仕事は、『正義の味方』なんかじゃない。『銀行強盗』です」

「……続けろ」

 『正義の味方』になりたいと言っていた先輩たちに、今度は真逆の話をする。だけど『銀行強盗』と言っても、本当にお金を盗むわけじゃない。まず、銀行に強盗として侵入する。できれば瑚己羽先輩の言っていた『順おじさん』の支店がいい。要求金額は一千万。順おじさんにお願いして、一千万を黒いボストンバッグに入れてもらう……が、本当に入れるわけではない。順おじさんには内部データ操作しておいてもらい、一千万が『データ的には』消失したことにしておいてもらえばいい。実質私たちが盗むのは、空のボストンバッグ。あとは横領しておいた一千万をバッグに入れて銀行に返す。楓梨先輩にお願いして、警察の情報も流してもらえばなお都合がいい。これで一千万は問題なく戻るという寸法だ。

「……月海は今回、銀行強盗で、正義の味方ではないと言ったな?」

「は、はい……」

 菖先輩が頬杖をついて私を見る。やっぱり不愉快だったのか? 不安げに瞳を見つめていたが、頬杖をついていた手をゆっくりと移動させ、拍手をする。

「困った人を助ける行為は人助けだ。よくこんな大それたシナリオを書いたな。褒めてやるよ」

 楓梨先輩も笑顔になる。

「銀行強盗って聞いてびっくりしたけど……お金は盗まないんだろ? これこそ順おじさんを助けるいい方法だよ! な、瑚己羽」

「うん! 銀行の情報はボクに任せて! 順伯父さんにも作戦は伝えてもいいかな?」

 瑚己羽先輩の質問に、私は強くうなずいた。今回の作戦は、順おじさんありきの作戦。彼がいないと、銀行内部のことはまったくわからない。内通者がいないと、一千万が入ったと見せかけたバッグを用意することもできないのだ。もちろん、データ操作も。

「月海、実行はいつ頃がいいと思うか?」

「そうですね……銀行を襲うなら平日かと」

「朝がいいよ!」

 そう声を上げたのが、瑚己羽先輩だった。

 なんでも、銀行は朝、八時頃に支店の裏口の鍵を開ける支店長が出社してくる。そのあとに金庫を開けて、金を引き出すらしい。金庫の額は支店にもよるが、一千万から二千万円保存されている。金庫を開けるとき、四人の社員とふたりの警備員が立ち会うとのことだ。四人の社員とは、支店長と次長、そして日によって変わる鍵番の若手社員。支店長と次長は立ち会うだけで、金を手にするのは若手ふたり。それを警備員が見守るということになっている。瑚己羽先輩は、その時間を狙って襲撃するのがいいのではないかと提案した。

「でも、どこから入るんだ? 銀行が開く前だったら、お客の入口は開いてないだろ?」

「うん。だから……」

 瑚己羽先輩は私たちにこそこそと耳打ちする。確かに手はそれしかない。だが、それがベストの案かもしれない。

「よし、決定だ。テスト休みの十二月十日、朝八時決行。集合は七時に月海の家の前だ。しかし、月海にはその前にテスト勉強をさせないとな?」

「あ、そうそう! 前回みたいに情けない結果は残させないよ?」

「ボクも今回のシナリオのお礼に、た~んまりと教えてあげるからね!」

「うう、嬉しくはないですけど……」

「仮面の姿である『雪咲会』のメンバーであるならば、姿だけではなく、頭脳もバッチリじゃないとな」

 楓梨先輩と瑚己羽先輩が、さっそくノートと教科書を取り出す。私も諦めてガサゴソとカバンを漁ると、それを見ながら菖先輩はにっこりとピンク色の唇で弧を描くのだった。


 十二月十日――。

 我が家のインターフォンが鳴る。

「朝早くから誰だ?」

 朝食をとっていた父が出ようとしたところ、私が遮った。

「あ、先輩たちだよ! この間言ってたでしょ? 一緒に出かける用事があるって。だから……」

「でも、いつものリムジンはいないみたいだけど」

 窓に目をやると、黒いバンが一台。さすがに銀行強盗をしにいくのに、リムジンに乗っていくバカはいないだろう。まぁ、本当はこんな銀行強盗なんて仕事は、お嬢様の菖先輩と楓梨先輩はもちろん、頭取の孫娘の瑚己羽先輩に一生関係なかったはずなのだ。

「今日は歩きの予定なんだ。じゃ、行ってきます!」

 お父さんを適当にだますと、私は外のバンにこっそり乗り込む。

「おはよ~、月海ちゃん。今日はヨロシク☆」

「先輩たち三人なら強いですけど、私も一緒に潜入して、平気なんでしょうか?」

「月海にも慣れてもらわねぇとな。こういう仕事。最初はシナリオだけをお願いしようと思っていたんだが……先日の痴漢事件で、案外根性があるってところ、気に入ったんだ」

「は、はぁ」

微妙なところを気に入られてしまったな。私はそもそも一女子学生。単なる想像の世界であるストーリーを考えることが好きだった空想少女だったのに、まさか自分が実践する側になってしまうとは。しかもジャンルはアクションものだ。

「ところでみなさん、その格好は?」

 車を運転している菖先輩も、楓梨先輩、瑚己羽先輩も、いつもの特攻服とは色が違う。黒地に金で刺繍してあるのが見える。

「はい、これは月海の分ね」

 瑚己羽先輩から渡されて、私は広げて見てみる。

『銀晃強統上等 一千万強奪』

「えぇっ! これ、書いてあるじゃないですか! 字は違うけど、『銀行強盗』って」

「これは作戦だよ。『銀行強盗に一千万盗まれた』。このことをみんなにきっちり覚えてもらわねぇとな? 実際は金なんて盗まねぇ。ただ、盗んだフリをするだけだ。そうだろ? 月海」

 車を運転しながら、菖先輩が説明する。そうか、私たちはあくまでもお金を盗むフリしかしない。だから、銀行行内の人間にも怪しまれないように、わざわざ『自分たちが銀行強盗だ』と堂々と宣伝する。

「瑚己羽、順おじさんにこの件は?」

「菖姉、バッチリ伝えてあるよ!」

 瑚己羽先輩もきっちり黒い特攻服にさらしを巻いて、黒いマスクをつけている。いつもは童顔でかわいらしい顔も、どぎついメイクで別人に見えるほどだ。先輩が言うには、銀行の金庫のデータだけは、支店長のような上長が動かせないことになっているらしい。これが銀行の二重チェックというか、厳重なところだ。この内部のデータを動かしているのが事務方。見事に分業されている。だから今回は、順おじさんの息がかかった……というと悪いように聞こえるが、要するに彼に同情した部下が、今回その仕事を請け負ってくれるとのことだった。もちろんバレたら自分のクビが飛ぶ。捕まるかもしれない。それでも支店長のために犠牲になるというのは、相当彼に恩があるのだろう。

「今回、運転免許があるのは私だけだから、車に残るが……三人、特に月海。あんた大丈夫か?」

「大丈夫だって! ボクたちがついてるし、順おじさんは味方だもん」

「最悪、あたしが何とかするよ」

「おい、楓梨。あんた……」

「おっと、到着ですよ!」

 菖先輩、ずっと楓梨先輩に何か言おうとしている。それがなんだかわからないまま、私たちは金属バットを持って銀行の裏へとバンを止める。

「いいか、楓梨が金庫の外で警備員を倒せ。瑚己羽と月海が中に入り、ボストンバッグに金……事前に行内に隠させておいた札束代わりの新聞紙を入れさせる。発煙筒を投げて脱出。車にて逃走だ。この間、十分で行え。いいか、時計を合わせるぞ」

配られたデジタル時計にタイマーをセットする。八時五分。十五分までに仕事を終らせる。「3、2、1、Go!」

 菖先輩の合図で、瑚己羽先輩、私、楓梨先輩の順番でバンから飛び出る。裏口はすでに開いていた。支店長と次長、社員ふたり、警備員はもうすでに中にいるということだ。

「瑚己羽、行けっ!」

「ま~かせて☆ おるぁっ!」

 瑚己羽先輩は素早く金庫にたどり着くと、警備員ふたりを金属バットで殴打し一瞬でのす。

 あとから来た私は、さすがに驚いた。警備員たちは防弾チョッキを着ているし、警棒も持っていたはずだ。それを振りかざす前にチョッキのつなぎ目を見ぬいて打ちつけたのだ。的確に相手の隙をつく瑚己羽先輩に驚く。普通だったら人を殴るなんて躊躇するところだ。それなのに。なんだかんだ言って、瑚己羽先輩も元ヤンだってことか。

「な、なんだ! お前らっ!」

 若い社員は驚きのあまり腰を抜かしている。そこで声をかけたのが、中年の男だった。

「お、お前たち……」

「金庫にある一千万、このバッグに入れな」

「ぎ、銀行強盗か!」

「当たり。だから早くね。そうじゃないとこいつ、殺しちゃうよ」

 金庫の外にいた楓梨先輩が、拳銃を倒れた警備員に突きつける。モデルガンだろうけど、さすがにこの場面だ。中にいた三人は顔をこわばらせる。

「し、仕方ない! ……俺が入れる」

 中年の男がバッグを手にする。――彼が『順おじさん』だ。彼がバッグに手をやっているうち、私たちはふたりの社員の視線を集めなくてはならない。バッグをすり替えるのだから。

「支店長!」

「あ~っと、動いたらダメ! こっちは拳銃と金属バット。バットだからって、甘く見ないでよ? こんなことができるんだからっ!」

 ガキンッ! と金属音が響く。金庫内にある顧客用の小さな金庫をバットで殴りつけ、へこませると丸い跡ができた。それを見た社員ふたりは真っ青になる。私は手袋をして、プラスチックでできた拘束バンドを腕に巻き付け、社員たちを体育座りさせた。

「……一千万だ」

「ありがと!」

 支店長の順おじさんがバッグを渡す。といっても中は新聞紙でできた紙切れだけ。支店長もビクビクした素振りを見せている。これは演技だとわかっているが、かなりうまい。瑚己羽先輩がバッグを受け取り、私が最後にまた腕を縛りあげると任務完了だ。

「行くよ!」

 瑚己羽先輩の合図で、私は金庫から出る。最後に出るのが楓梨先輩だったのだが、一瞬油断した。

「ま、待てっ!」

 拳銃を向けられていた警備員が、飛びかかろうとしたのだ。楓梨先輩は目に野性的な輝きを見せる。本当に一瞬。

パンッ! とまた聞いたことのある乾いた音が、裏口に響いた。立ち上がった警備員の頬をかすめ、壁に穴が開いている。そこからは煙。

「せ……先輩?」

「ふう、これであたしの置き土産もできたってもんだね」

使った拳銃をその場に置くと、私たちとともに今度こそバンに乗り込んだ。

車に乗り込むと、銀行の警報が鳴る。菖先輩は急いで車を出す。

「ふう、これであとはこの車を乗り捨てて、ついでに一千万のバッグも置いて行けば完璧だね!」

 瑚己羽先輩がマスクを取りながら嬉しそうに言うと、前で運転していた菖先輩がバックミラー越しに楓梨先輩にたずねた。

「おい、楓梨。あの拳銃、もしかして……」

「もしかして、じゃないよ。菖先輩。この間痴漢の野山から奪ったやつ。あれを使わせてもらったの」

「で、でも、いくら警備員が襲いかかってきたからって、撃つことはなかったんじゃ?」

 私がおどおどしながら聞くと、ふっと楓梨先輩は笑った。

「まあね。ただ、あたしは警察の拳銃が銀行強盗に使われたってことをニュースにしてもらいたかったの。これでうちのじいさんは失脚する」

「えっ、失脚って……」

 驚いた顔をする私とは反対に、菖先輩は予想通りだったという表情を浮かべる。

「楓梨が何かしでかすとは感じていたよ。だけど、野山の持っていた拳銃を撃つとはね。それほどじいさんが嫌いか」

「まあね。これであたしは警視総監の孫じゃなくなる。だけど、今度は親父が出てくる番だ」

「ふうちゃんのお父さんって、確か国会議員だっけ」

「うん。戦う権力が変わるんだ。だけど、あたしはあたし。お金でどうこうするやつは大嫌いだから、ずっと逆らっていくよ」

「あんたがそれでいいんなら、私は何も言わない」

「えへへ」

 楓梨先輩が頭をかくと、車を裏道に止める。私たちは降りると、着替えて車を放置し、メイクを落とす。そして私服に戻って普通の……いや、私以外はお洒落で素敵な女子高生になる。楓梨先輩はパンツルックに青のダッフルコートだけど、脚が長くてかっこいい。瑚己羽先輩はボンボンのついたケープとふわふわのバルーンスカートに縞々のタイツだ。そして菖先輩は、お嬢様オブお嬢様。白いファーのついたコートに、深紅のスカートを履いている。それに比べて私は、量販店で買ったジャンパーにジーンズ。やっぱり先輩たちはキラキラして見える。

でも、このメンバーが今銀行強盗をしてきたとは、誰も思わないだろう。

「みんな、ありがと!」

 瑚己羽先輩が頭を下げる。

「これで順おじさんも救われると思うよ」

「私たちは私たちの仕事をしたまでさ」

 菖先輩は相変らず見た目に反してクールな物言い。でも目元は優しく微笑んでいるように見える。

「あたしはあたしの目的があったからね。ま、瑚己羽の力にもなれたし? よかった、よかった!」

 楓梨先輩はどことなく楽しそう。

「さ、行くか。あとは楓梨の嫌いな警察(うちわ)の仕事だ」

 菖先輩の合図で、私たちは裏道を出る。冬の明るい太陽が私たちを照らす。これで任務完了。

 胸がドキドキした。先輩たちと比べて、私はお嬢様って柄じゃない。だけど一緒に銀行強盗なんて大それたことをしちゃったんだ。自分で思いついたシナリオ。小説はフィクションだったはずなのに、実現させてしまった。こんなことまでするのは、きっとアマチュア小説家失格

だよね。私はもう小説家じゃない。自分で作りだした正義の味方、花鳥風月の参謀なのかも。

 お父さんが知ったらきっとびっくりするだろう。もちろん秘密だけどね。

 そんなことをのんきに考えていたテスト休み。まさか冬休みにあんな出来事が起こるなんて、想像もしていなかったんだ――。

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