第10話 明かされない秘密

遊里の競技が終わり、第二回戦が始まる前、カイリの控え室に三人が集まっていた。




「カイリ、調子はどうだ?」




壁に沿ってある長椅子に座るカイリの隣に来てそう言った。




疲れ果てた顔をして震える指でグッドサインをする。




「な、ないすふあいと」




呆れた顔をする遊里と朱莉




"(-""-)"




ため息をついて忠告するように言った。




「お前なー、まともに能力使ったことない奴があんな荒業してただですむと思ったのか?オレらの試合もまともに見れてないだろ」




カイリは徐々に椅子から滑り落ち、腰で座る形になった。




「だ、だいじょうぶ。し、試合ちゃんと見たから。ぼ、僕が言ったことぜんぶできてたよ」




少し引きながら朱莉は声を出した。




「腐っても指導者なんだな、お前は」




そのまま手を一度叩き、勢いで長椅子から立った。




「んまぁ、お前の能力については大会後にきっちり問いただすとして、まずは次の戦いをどうするかよ。なんてったって相手は風磨だからなー」




カイリも頑張って姿勢を正そうとするが手が滑り、頭で座る形になった。ほとんど地べたに座っている。




「すごいねー、みんな。僕一回たたかったらこうなるのに、すぐかいふくするなんて。風磨はねー」




カイリがぐったりしながらもアドバイスしようとした瞬間、




「出場選手の変更を行います。第一回戦勝者 鳳 風磨さんが諸事情で第二回戦の競技をリタイアされました。よって、第二回戦一試合目の勝者を星野 朱莉選手とします。」




衝撃的なアナウンスが流れた。




「うえぇえ!?まじ!?」




(;'∀')




「、、、」






控え室とは反対にスタジアム方向はかなり騒がしくなった。




「、、、じゃあオレさっそく準決勝かよ」




「なるほどね、、、」




あごに手を当て何かを悟るように話すカイリ




それを見て




「なんかあったのか?さっきの試合。何か喋ってたっぽいけど」




「、、、いや別に?何もなかったよ」




(ほんとにあれを伝えるためだけにここに来たのか)




朱莉、カイリ、ともに遊里のほうを向く。




「、、、」


「、、、」




「遊里は大丈夫っしょ」


「遊里君は大丈夫か」




同じタイミングでそう言った。




朱莉は急いで方向を変え、カイリのほうを向いた。




「準決勝でオレが当たるやつの予想は?」




衝撃的なアナウンスで少し体が起きたのか真剣に悩むカイリ。




「二人とも地方の競技に出てない人なんだよね。そういう人ほど強いの困っちゃうよ」




それに対して唸るように朱莉も悩む




「確かに。名前は聞いたことあるけど試合を全く見たことない奴ばっかなんだよなー、この大会出てるやつ」




スマホをバックから取り出し、朱莉に見せる。




「特にこの氷室ひむろ 蓮れんさん。氷の元素族。この人まさかの大会出場経験なし。小野昏おのくら 辰爾たつみさんの推薦でつい先日、国センに来たばっかりらしいよ。」




スマホをカイリの手から奪い取りその画面を凝視する。




「まじかよ、元素族!、、、それに初めての出場、、、なんで小野昏は実力もわかんないこいつを出場させようってなったのか、謎だな。」




そうこう悩んでいるうちに朱莉の名前が呼ばれた。




「まー、どのみち作戦を立てるすべはないな。このまま全部ぶつけてくる」




胸の前で拳をぶつけ、やる気を十分に見せ、控え室を後にした。




カイリは遊里のほうを向き、作ったような笑顔で言った。




「多分大丈夫だよね?いけるいける!」






勝負は一瞬だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「出場選手の変更を行います。第三回戦勝者 氷室 蓮さんが諸事情で決勝戦の競技をリタイアされました。よって、本大会の一日目の優勝者を瀬良 遊里選手とします。」




とんでもないアナウンスが国センに響いた。




国センにおける一年に二回。そんな重要な大会で、二人も戦いを放置した。異例の事態であった。


多くの観客、スポンサーは怒りや困惑を見せた。




そして優勝者はそのまま遊里となり、あっけなく夏の大会、一日目は幕を閉じた。




二日目の大会、四競技同時進行でありながら、西日本で起きている”能力のインフレ”のおかげか水準が高く、一日目と同等、もしくはそれ以上の盛り上がりを見せた。




大会二日目後、夜の指導室前のグラウンド、その階段上の通路にて。




「まじわけわかんねぇ!あの元素族強すぎて一瞬で結界割れたし、オレ倒したらそのままとんずらって!冗談だろ?」




カイリと遊里は歩きながらも頭を悩ませていた。




(なんで2人もリタイアを、、、こんな大きな大会に予定はかぶせないだろうし)




特に深い理由はないと割り切り歩く足の速さを元に戻し、指導室に向かおうとした時、




「そういや、、」




「説明してください!」




朱莉がカイリに何か尋ねようとした瞬間、背後から大きな声でそう聞こえた。




振り向くと見覚えのある顔が。ロン毛で眼鏡をかけている少年。




朱莉と遊里は顔を傾けているが、カイリは不安そうな顔でその少年を見つめていた。




「あ、あのー、大会前に僕がぶつかっちゃった方ですよね?もしかしてどこかお怪我が?」




こちらをギラリと睨む少年。




「だから!説明してくださいと言っているんです!」




前会った時とは人格自体が変わったような詰め寄り方をしてきたため、少年が前に来るたびにカイリは一歩引いた。




手を前に出しながら泣きそうな顔で言った。




「な、何のことかさっぱり!」




少年はもうカイリとぶつかってしまいそうな場所まで近づいていた。




睨み続ける少年。




朱莉と遊里には届かないような小さな声でカイリに伝えた。




「あなたの能力と神器についてです。なんであなたが神器を使えるのですか?」




そう言われた瞬間に大きな声で




「えぇ!?神器?」




朱莉と遊里にも聞こえる音量で驚くカイリ。少年は顔に手をつき頭を振っていた。ため息をついた後にまた小さく呟いた。




「はあぁー、、、何も知らずに、、、」




神器というワードを聞き、朱莉も遊里もさすがに会話に入らざるをえなかった。




「神器?何の話してるんだ?」




 (・・?




少年は三人に言った。




「場所を変えましょう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


指導室にて、テーブルを囲って四人が座り、一人はアイスを立ちながら食べ、会議が始まった。




「カイリさん。あなたが使っていた短剣、あれは神器です」




「はあああ!?それマジ?カイリ!お前神器使えんの?」




 (゜o゜)




「白神家以外で神器使ってる人見たことないなー」




「知らない!ほんとに知らなかったの!」




指導室が五人全員が驚きを隠せていなかった。




「そ、それで神器が使えると何かまずいんですか?え、えーと、、、お名前は?」




「神器の器。器うつわと呼んでもらっていいです。」




 (;'∀')




「ん?それ名前って言わねえだろ」




「神器の器は暗殺とかを防ぐために身元を隠してるんだよ。本来なら姿も見れないのにこんなとこで出会うだなんて」




「僕が危惧しているのは神器と器の増殖です。カイリさん、もう一度神器を出してみてください」




「え?ぼ、僕出し方なんて知らないですよ!」




「さっきの試合で出してたじゃねーか。おんなじ感じじゃね?」




 (-"-)




「心の中で唱えて手のひらパってするだけでしょ」




4人全員が同じ方を向く。






「なんでお前がいるんだよ!」


「なんでリオンさんがいるの!?」


「なんでそんなことまで知ってるんですか?」


 ( 一一)




三人同時に指導室にいたリオンに突っ込んだ。






アイスを食べながらリオンは答えた。




「いやー、気になる内容が聞こえてきたからついてきちゃった。」




てへっというポーズを取り、話を続けてとジェスチャーをする。




「リオンさんはクラブのお仲間じゃなかったんですね」




疑心暗鬼のような顔でカイリ達を見る




「ご、ごめんなさい。あまりにもナチュラルに指導室に入ってきたから」




「んまあ、こいつがほかの奴に言いふらすとは思えねえから続けていいぞ」




落胆なのか失望なのか安堵なのかわからないため息を一回つくと器は話をつづけた。




「先ほどリオンさんが説明したように手のひらを広げてみてください」




カイリはリオンが言ったことを思い出し、目を閉じ念じながら手のひらを開いた。




フワンッ




手のひらから在るはずのなかった短剣が出てくる。それはカイリが触れようとしても一定の距離を取り、空中をクルクルと飛行する。




手を組み困った顔をする器




「どこからどう見ても本物。僕は”神楽かぐら”を出せないから神器の増殖を検証できないけど、、、」




「へ~神楽、、、これは本物そうだね~」




リオンがアイスを食べ終わったのか顔を突っ込んできた。




器が続ける。




「カイリさんは大会の時、ほかの能力も使われていましたよね?あなたは能力のコピーができるのですか?」




「そうだよ!そう!オレの能力使ってたよな!ついさっきオレも聞こうと思ってたんだ!」




みんなに凝視され慌てふためくカイリ。




「わ、わかんないよ!競技の時に初めて能力使ったんだから!それに僕が神器を使えると何かまずいんですか?!」




リオンを見る器。何かを察したのか平然とした顔でリオンが答える。




「一旦落ち着こう。まずは能力について。いつから自分は能力が使えるってわかったの?」




「う~ん、トレーニング始めたあたりかな、、、」




はっきりとわからない様子であった。




「オレとこの器の能力しか使えないのか?カイリは」




そう朱莉が聞いてもカイリはまともに答えられず、途方に暮れる一同。




「とりあえず、能力はコピーで朱莉と器の能力を模倣したという前提で話を進めるとして、コピーされた二人に共通点はあるの?カイリ君」




数多の質問攻めに頭を悩ませながらも必死に思い出そうとする。




「器さんとはほんの一瞬しか顔を合わしてないし、朱莉との共通点なんて、、、あっ!握手を、、したこと、くらいかな?」




あまりに簡単な答えにみな唖然とする。




「そんな簡単なことでコピーできんのか!?だとしたらもっと他の奴の能力もコピーされそうだが」




「でも、器とかかわりが薄いならそれくらいしか考えつかないね。遊里君の能力はコピーできてるの?」




「うーん、わかんない。遊里君の能力は目に見えずらいし、、、でも、できてる気はしないよ」




(-"-)




考え込んでいた皆の頭を冷やすためにリオンは結論を出そうとした。




「能力をコピーできてても、それに使う体力やらエネルギー量が足りてないんじゃない?カイリ君のエネルギー量はパッと見た感じそんなに多くないけど、朱莉の能力はコスパが良いし、神器もエネルギーを使わない。だから二人の能力は使える。でも遊里君の能力はそもそもエネルギーがよく見えないといけないし、調整はとてつもなく集中力がいる。大量のエネルギーがないとその能力を使う意味もない。だから使えない」




カイリは色々聞きたいことがあったがその結論に反論するほどの知識はなかった。




「なるほどな。オレらとの特訓でエネルギー量が増えていって、段々と能力が使えるようになったと、、、それなら急に能力が発現した理由も遊里の能力が使えない理由も説明できるな」




一旦はこの解釈で理解することにした。いや、そうするしかなかった。




「この考えが合ってるかは試してみるほかないね」




そう言ってはカイリへと手を差し伸べようとするリオン。




プルプルップルプルッ




突然、器の電話が鳴ったため、四人は動きを止め、音の出所を見た。




扉の方へと動き、電話に出る器。困ったような顔をしては振り返って、言葉を投げ捨てるように喋りだした。




「カイリさんの能力について、まだ詳しくわからなそうですね。何かわかったらご連絡ください。僕は用事があるので」




連絡先が書かれた紙をカイリに渡し、扉から出ていこうとする。




ガチャ




「あ、そうだ。言い忘れてましたが神器は大変危険なものです。今は詳しく話せませんが絶っっっ対に」




強い言葉にカイリ達四人は唾をのんだ。




「死なないでくださいね」




ガチャ






扉が閉まる。




「死なないでって、、、」




「神器には良いこと悪いこと噂があるからね~」




緊迫したカイリに対してリオンはのんきにそう言った。




「神器の危険性とか神器の器の増殖とか!結局あいつ何にも教えてくれなかったじゃねえか!何しに来たんだよ」




リオンが呆れたように答える。




「あのね~、器だって大変なのよ。いろんなこと隠さないといけないし。それに用事があったらしいしね。何回か私に目配せしてたから私がある程度のことを教えろってことなんじゃない?」




扉のほうを向いて溜息を吐く朱莉。




「なーんだよ、お前もいろいろと知ってんのか。んで?なんでお前がここにいるんだ?それと、神器についても教えろ。」




ドヤァとした顔でリオンは答える。




「教えてください?でしょ~?」




「うるせぇ教えろ」




「はいはい、っとその前にさっき言ってたやつやんない?コピーの実験。はいっ」




そう言ってはカイリに右の手のひらを伸ばした。




困惑しながらも少し前リオンが言っていた言葉を思い出し、握手をしようとするカイリ。同じく手を伸ばす。




ペラッ




「え?」




リオンがにこにこで左手から出した紙に困惑したが握手は止められなかった。




「能力の実験してあげたんだから、さすがに契約成立だね♪」




朱莉と遊里が椅子を立ち、覗き見る。




「、、、クラブ参加希望書?」






「よろしくね?みんな!」




実にニッコニコであった。


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