第9話 欠けた1ピース
「がんばれ」
そう後ろからカイリの声で聞こえてきた。もう過去を振り返らないことを決めたのかのように、光のほうへ歩きながら手を振った。
(オレの、、カイリの、、雪辱を果たす。待ってろよ、勝利)
前までの薄暗い廊下を、下を向いて歩いていた朱莉とは違う表情をする。笑顔のような、覚悟を決めたような。
聞きなじみのある機械音アナウンスが流れ始める。
「選手が入場します。東、久我 リオン 西、星野 朱莉」
スタジアムに皆、馴染みのある選手二名が並び、大きな歓声が沸いた。
「どうなの?そっちのクラブでは。元気にやれてる?」
前回の試合の最後に見せた表情とは一転、心を切り替えたように明るい顔をして朱莉に話しかけるリオン。
「んだよ、この前は怖え顔してたのによ。最高だよ。最高。一か月前とは打って変わってな。」
緊張をほどくためにいつも通りを演じてそうリオンに話す。
多くの観客が取り囲むスタジアムを一望し、クスッと笑う。
「まさか私たちがこんな大舞台に立てるとはね。彼も緊張したでしょ。カイリ君?だっけ。最高の試合だったよ。」
広がり始める結界領域。腕や足のストレッチをしながら朱莉は答える。
「あぁ、間違いない。最後まで戦い抜けるし、オレの能力をオレ以上に知ってる、自慢の指導者だ。だからこそ、今回は負けねえよ」
伸脚をする朱莉を鋭い目で見る。
「わかってる。私も、、、この試合は大切だから、本気で勝ちにいくよ。」
リオンの珍しい表情に驚き、その理由を聞こうとした瞬間、目の前には巨大な樹木が現れた。
今回のステージは森林が囲む神社。中央は開けていて周りは木で囲まれている前回のステージに少し似ているものであった。
カウントダウンが結界領域に表示される。
「5.4.3.2.1 Fight」
本当の伝説。その引き金が引かれようとした。
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(ステージは、、、パッと見る感じ神社か。前と同じ戦法じゃさすがに倒せない。私の強み、地形の利用。なんとか生かして見せる。)
リオンは朱莉のいる位置を大体予測し、準備のために森の中へ入っていった。
(おそらく朱莉がいるのは神社をまたいで反対側の森。地形が開けてる神社側にうかつに近づけば一瞬で負ける。多分あの強気な感じからして、あっちから攻めてきて新しい技を使ってくる。、、、そうはさせない)
リオンは目を閉じ、地面に片手のひらをつき、エネルギーを込め始めた。
(成長してんのは朱莉だけじゃないんだから。)
地面に土の元素族特有の茶色のエネルギーが流れ始める。
それは周りのあらゆる土を飲み込み。リオン側の森、神社はほとんど埋め尽くされた。
(さあ、来い。朱莉。)
森に木のなびく音が流れる。耳、精神、すべての感覚を研ぎ澄ます。
「ふうぅー、、、
、、、」
一向に音が聞こえてこなかった。試合開始数分、音すらならない試合は珍しい。リオンは不思議がり、二人が見えていた観客は息をのんでいた。
(どうしてこっちに来ないんだ、、、向こうは向こうで何か企んでる?)
そう考えた瞬間、風向きが変わり、リオンの髪が大きく揺れた。
槍を構えるリオン。
「、、、来る。」
ドカンッ
神社の向こう側、鳥居の方向からとてつもない大きさの樹が飛んできた。
「はあぁ!?」
横になって回りながら飛んでくる樹木に驚きつつ、当たらない位置へと躱かわした。
地面から顔を上げたときには目の前に朱莉がいた。
何とか上からくる、とてつもないエネルギーをまとった右手の攻撃を槍で受け流したが、そのまま身をうねらせた後ろ蹴りには反応できなかった。
バリンッ!
大きく森の奥のほうへ吹っ飛ぶリオン。
(落ち着け!私のテリトリーだ!)
流したエネルギーを使い、どこからでも技を使いやすくしていたためか木に当たる寸前でその木を土の塊でなぎ倒し、ぶつからずに済んだ。
(あの威力の後ろ蹴りでこんな吹っ飛ばされるの!?力が最小限だったのか、なめらかすぎてしのぎ切れなかった、、、攻撃の威力は衝撃インパクトの強さに関係しなかったのか、、、知らなかった。私が予想してた伸びしろをはるかに凌駕してる、、、)
受け身をとったリオンは槍を前に突き出し、エネルギーを伝えていた土に攻撃を指示した。
その瞬間、無数の触手のような形をした土が朱莉を突き刺そうと突撃していった。
数発は足を使いはじいたがそれでもさばききれず、土の触手にのしかかられもう姿は見えなくなっていた。
(、、、なんで足を使うんだ?まあいい、このまま終わらせる。)
槍の先端を真下に向けようとした瞬間、
バリンッ
槍が右の方向へ飛んで行った。
それに合わせ土の触手は朱莉から離れ、そのまま姿を消していった。
その中から出てくる朱莉は土を払いながら言った。
「どんだけすごい技を持ってても媒体がないと扱えないもんな。あの風磨でも指を使わないと重力は操れない。一番の武器だが、一番の弱点。 カイリが教えてくれたんだ。」
「、、、なーんか、昔とは一気に変わったね、朱莉。前まではバカみたいに突っ込んで、土を壊しては私を殴ることしか考えてない。そんな感じだったのに」
朱莉を警戒しつつ、槍をゆっくりと拾いに行きながら話すリオン
それに対し、ポケットに手を突っ込んで朱莉は答える。
「なんだ、変わったオレが嫌いか?」
「いいや、手段が違えど勝ちにこだわることは変わってない。むしろ今のほうがずっといい。負けが続いて、何も考えられなくなってた朱莉より何倍も、、、音葉のことは忘れられたの?」
思いもしないことを聞かれ少しあっけにとられる朱莉。少し悲しげな表情をして返す。
「忘れられっかよ。、、、でも、なんか似てるんだよなあ、カイリと。思ったこと素直に言ってくる感じとか、ちょっとドジなとことか。だからこそ、あいつの助言を信じることにしたんだよ。それに、真相もまだなんもわかってないようなこと考えても意味ねえしな。」
互いに少し笑いあう。
少したってから表情を変え、リオンが言う。
「それじゃ、終わらせるよ、、、私気付いてるけど、朱莉、あんたもうエネルギーないんでしょ?」
ごまかすように首を傾げ、答える。
「さあ?何のことかな?」
真剣な表情に戻る二人。
「一応、負けたくないから保険は掛けさせてもらうよ。オーバーキルだなんていわないでよね」
さっきの数とは比にならない量の触手に加え、大量のとげの形をした土を作り出す。
槍を構えた。
「やれ。結界をぶっ壊せ」
そう呟くと一斉に土は朱莉のほうへ飛んでいきリオン自身も畳みかけるために槍を振りかざし、突撃した。
土が朱莉に激突する手前。
ポケットから手を取り出す朱莉。その手のひらにはひどく輝く物体が乗っていた。
ニヤリと口角を上げる朱莉。
その景色を見たリオンは察したのか、体を何とか止めようとしたがもう遅かった。
リオンの目を見て言う。
「こっちの方針でね、自由にやらせてもらうよ、、、オーバーキル?オレのセリフだ。」
パリンッ
手のひらの物体を握り壊し、リオンのほうへ投げ捨てた。
ドカンッ!!
大きな衝撃波が領域結界に広がり、それは観客にも感じさせた。
朱莉が持っていたもの、それはエネルギーの塊、結晶そのものだった。
木がなぎ倒され、神社も跡形もなくなっていた。
そんな中、最後まで立っていたのは
”勝者 朱莉”
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あまりにも衝撃的な技を食らったためか少し笑いがこみ上げ、首を横に振り、すたこらと廊下のほうへ向かっていった。
「はーあ、だめだ、だめ。あーんなの耐えられないわ」
頭を掻きながら歩いていると控え室前には大勢の女子生徒たちが心配そうな顔をして待っていた。その先頭、
「お疲れ様。いい戦いだったよ。」
そう言って飲み物をリオンに渡す美奈春みなはる 柚希ゆずき。
彼女は四天王の一角で、多くの女性選手を生徒として抱えている若手のエリートだ。長い髪が一つにまとめられていて、スタイリッシュでありながら、元気さと艶やかさを感じる顔をしている。国センに初めて来たカイリの背中を押した張本人である。
そんな指導者に続き、後続の女性生徒たちがリオンにお疲れさまでした、と伝える。
彼女たちは柚希の生徒でありつつ、ほとんどがリオンのファンであった。
飲み物を受け取るリオンを皆、少し悲しそうな顔で見ていた。
それを察したのかリオンは元気な声で話す。
「大丈夫だよ、みんな。所詮は夏の大会だ。まだまだ機会はある、、、それに、、楽しかった。 本当に」
そういうと周りの生徒たちは安堵の顔を見せ、表情を緩めた。
(みんな私のメンタルのこと心配してくれてたんだな、、、、、ごめんね、みんな。、、、、、私、裏切ることになる)
リオンは生徒の群れの中心を歩き、控え室へ一人で向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
遊里はあっさりと一回戦目を突破した。
(^_-)-☆
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