第8話 勝負の結末

ついに戦いが始まった。




パリパリ




カイリの予想通り、風磨の結界領域が広がり始めた。




(これが完成する前に何とか本人を叩きたいけどそれは無理か、、、)




結界領域はすぐに完成した。その瞬間、




フワッ




カイリの体が浮いた。




「始まる、、、」




そう言った直後、ぐるりと町が傾き、地面がちょうど90度を向いた。




鳳おおとり 風磨ふうま。能力、重力グラビティ。結界領域を広げ、その範囲にある特定の重力を操ることができる。つまり、今傾いているのは町ではなく、カイリと風磨自体である。




カイリの下にあった地面が消え、しばらく下にビルの窓ガラスがあった。




バリンッ!バリンッ!




何度も何度も窓ガラスやその他もろもろの物品が壊れる音が国センに響いた。




その後も落下し続けるカイリ。それに合わせ風磨もゆっくりと降下する。風磨の結界領域は二人の距離が


離れるほど大きくする必要があるため、エネルギーの消費が激しくなる。そのため、距離を保ち続ける必要があった。




バリンッ!バリンッ!バリンッ!バリンッ!




大きな車道を挟み、ビルのコンクリートに激突、それすら破壊し、カイリの姿はビルの中に隠れた。




重力を元に戻し、ビルの上に立つ風磨。競技終了の合図を待つ。




観客も全員、その瞬間を待っていた。




「。。。。。」












バラバラ






観客がどよめいた。




瓦礫を踏み壊し、ゆっくりと。足を引きずりながらカイリは崩れたビルから出てきた。




「、、、、、まだ、、前言撤回してもらってねえぞ、、、」




怒りをあらわにするカイリ。それを風磨は少し驚いたような顔で見ていた。




「なんで壊れてないんだよ。」




相も変わらず声のトーンを変えずにそう聞く。




「だから、、、まだ前言撤回してもらってないって言ってるんだよ!低俗だ?対して強くないだ?ふざけんな!!朱莉は誰よりも努力して成長してんだよ!努力をする人間は人の努力がわかるべきだろ!どうしてそれを否定なんかできる!」




風磨は少し経った後、フッとあざけ笑い、




「なにが努力だ。お前が語るな。なにも結果を出せていないのに口だけ達者なんだな、お前らは。今の攻撃を耐えきったから自分は強いとでも思ってるのか?前言撤回?   断る。」




ビルの上からカイリを見下し、そう言った。




風磨の顔を睨んだ後、自分の手のひらをしばらく眺めた。




「、、、どうしよっか」




小さくそう呟く。




大きなビル風が二人の髪をたなびかせた。




それを受け再びユナからもらったあの言葉を思い出す。




「自分を信じよ、、、魔法の言葉」




また、小さく。




ゆっくりと目をつぶり、風を一身に受けた。




大きく手を広げ、呼吸する。




(あぁ、、、これが風か、、、)




しばらく風を楽しんだ後、下を見ながら地面を片足で踏み、髪をかいた。




「後先は考えなくてもいいか」




今度は、大きく。




「やっぱ、”賭け”なきゃね」




それを不審な目で見ていた風磨。競技を終わらせようと指を動かし、重力を操ろうとした。




その時、




バリンッ!




赤い閃光。




風磨の目の前には大きく振りかぶったカイリがいた。




「ぶっ飛べ」




ガンッ!






鉄を打つような音が国センいっぱいに響き渡った。




気づけば風磨は隣のビルにたたきつけられ、地面に座り込むようにぐったりと倒れている。


観客たちが一斉に騒ぎ出す。それは朱莉も遊里も同じだった。




「はあ!?飛んだ!?それにあれってもしかしなくてもオレの能力だろ!衝撃インパクト!そうだよな遊里!なあ!なあ!!」




勢いよく遊里の肩を揺らす朱莉。遊里は目を大きく開き、カイリを凝視しながら小さく頷いた。




「それに、風磨をぶっ飛ばしたあの武器!なんだよあれ!宙浮いてんぞ!?」




風磨を直接殴ったのは、赤い短剣のような見た目をした武器だった。二本、カイリの周りを自由自在に、しかし、法則性があるように飛んでいる。




観客たちは混乱しては、様々な意見が飛び交っていた。それもそのはず、無能力だと記載されていたただの青年が、一日目に出場、誰も見たことのないような技をHighW Westへと打ち込んだのだから。




ざわざわとどよめく会場。そんな景色を、特別席のさらに上、ガラス越しにスタジアム全体を見渡せるように作られている部屋の中で微笑し観戦をしていたユナ。




「能力が使えること、お気づきになられていたのですか?ではなぜ強化結界を?」




そう付き人であるハルが聞く。




「いや~、能力検査でしっかりと能力なし、って診断されたから渡しただけですけど~」




笑顔を残したまま、不自然な演技声でそう答えた。




「はあ、、、ということはあの能力は、、、」




「そういうこと♪」






カイリは赤と青のエネルギーを身にまといながらビルの上で風磨を見下す。




互いにひびが入りボロボロな結界。勝負がそう長くないことは両者ともわかっていた。




ゆっくりと地面を押し、立ち上がる風磨。




「はぁ、また不正かよつまんねえ」




指を下に振り、重力を変える。カイリと風磨が同じビルの壁に立った。ゆっくりと顔を上げ、カイリを睨みつける。




「さっさと終わらせるぞ卑怯者」




今度はカイリも睨み返して言った。




「そのつもりだよ」




両者、集中しエネルギーを一か所に集め始めた。風磨は手のひらに、カイリは足に。




「、、、」


「。。。」




会場が一気に静まる。 両者ともに、エネルギーをためた場所からパラパラと青色の結晶が漏れ始めていた。




もう一度互いに目を合わせた。その瞬間、








音が追い付かないうちに勝負は始まった。カイリは衝撃インパクトにより一瞬で風磨に近づき、短剣を。風磨はそれに対して、エネルギーをためた拳をぶつけた。






その時、会場は一瞬、静寂に包まれた。










ドカンッ!




青い一直線の光と靄もやが現れる。


二人の武器がぶつかった衝撃で大きなエネルギーの爆発が結界領域に広がり、周りのビルもろとも吹き飛んだ。割れる窓ガラス。吹き飛ぶ看板。地面をも、えぐっていた。




大きな煙が立つ。




それが二人の姿を隠していた。








再び、静寂。






煙が晴れていく。二人が背を向けている姿が鮮明になっていった。




「はあ、はあ、」


「はあ。はあ。」




お互いに体力を消耗したのか深く息をつく。もう、どちらも動かなかった。








パリンッ






割れたのはカイリの結界だった。






結界領域に”勝者 風磨”の文字が浮かび上がる。一気に歓声が沸いた、うるさいほどの。




膝をつくカイリ。今まで吊るしていた糸が切れるようにその場に倒れた。




風磨は何も言わず、ゆっくりと足を引きずるように控え室へと向かう。




その後、救護班の肩を借り、カイリも自分の控え室方向の廊下入り口に歩いて行った。




薄暗い廊下の中、そこには優しい顔をした朱莉と遊里が。




カイリはそこにまっすぐ歩き、救護班に代わり二人の肩を借りて何とか立った。




疲れ果ていたカイリに朱莉が優しく声をかける。




「よくやった。最高にかっこよかったぞ。」




遊里も微笑み大きく腕を振り、グッドサインを作った。




ふいにカイリの頬に涙があふれる。




「ごめん。ごめんね。勝てなくて!二人に悪い印象は残したくなかったんだ!それなのに。それなのに!」




大粒の涙をポロポロと流し、大きな声で二人に謝った。




「評判が悪くなるって知ってたのに、強化結晶使って、、能力も使って、、それで負けるだなんて、、、」




二人の肩から腕を離し、地面にもう一度膝をつくカイリ。




遊里はもう一度カイリに肩を貸し、立たせた。




朱莉はぐずぐずになったカイリの顔を前からしっかりとみて、こういった。




「お前は一生懸命に戦った。それだけで十分だ。  それに、まだ負けてねえ」




カイリがそれを聞き、閉じかけていた目をゆっくりと広げる。




「お前は選手であり、指導者だ、、、まだ、オレらがいるだろう?お前がオレに教えたこと、全部試合でぶつけてくる。ほんの一瞬しかお前とトレーニングできてねえが、それでも勝ってくる。オレと、お前の指導者としての価値を、この会場で思いっきり見せつけてやる。だから、お前はまだ負けてねえ。」




そう言ってカイリの頭を数回撫で、カイリの後ろ、薄暗い廊下の先、光が広がる空間へと歩いて行った。




カイリと遊里は振り返り、朱莉の後姿を見る。




朱莉は背を向けたまま手を振った。




ボロボロのカイリからこぼれた小さな言葉。




「がんばれ」

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