第5話 成長への道
朱莉とリオンの勝負の後、相も変わらずカイリは頭を悩ませていた。
(大会まで二週間ちょっと、、、まずい、、ほんとにまずいぞ、、大会申し込みは一週間前だから、それまでには二人選手を呼び込まないと、、)
ガチャ
遊里が返ってきた。
「おかえりなさい。どう?結界領域の練習は。」
首を横にブンブン振る遊里。
「そっかー、遊里君でもむずいんだね。結晶化とは似ても似つかないって言われるのがよくわかるよ」
二人ともにあごの下に手を置き悩んだ。
「そうだ、僕の前でもやって見せてよ」
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桜が散って、もう暖かくなり始めた小さなグラウンドに出る。
遊里が結界領域を手のひらから出そうと目をつむり集中し、カイリはそれを一身に見ていた。
結界領域。それはエネルギーを薄く広げたのち、密度を高め固めることで作ることができるものであり、それには様々なものを映し出すことができる。遊里は今まで攻撃を仕掛ければ勝ってきたため、時間がかかり、防衛の手段としてよく使われるこれがかなり苦手である。ただカイリはそれでも領域作成の訓練をさせた。
「、、、」
10分ほどしてからようやく結界領域が目に見えるほどの大きさに。
「なるほどー」
遊里が目を開けると手のひらのそれは簡単に崩れていった。
「手のひらじゃなくて、指先からのほうがいいかも。普通の人は指先になんかエネルギーを送れないから手のひらでやってるだけなんじゃないかな?遊里君なら難しくてもできるはず。」
そういわれてやって見せる遊里。指先にエネルギーを送るのが難しいのか、顔をゆがませながら作業を行う。
「おー、さっきより断然早いよ」
予想通り手のひらよりもずっと早く結界領域ができ始めた。
「そのまま集中して、エネルギーを送り続けて。指先のほうが一点に集中しやすくて結界領域が作りやすいんだ、、、」
遊里を応援しながらもデータをとり続ける。
「そっからー、集中切らさずー、今のエネルギーの広げ方だと大きくなりすぎちゃうからもうちょっと小さいのを想像してー」
パリンッ 割れた。
驚いたような表情をしてカイリの顔を見る遊里。しばらく見続ける。
「、、、えーっと、顔に何かついてる?」
自分の顔を触るが何もついてなく、それでも遊里は目を見てきた。
「え、えーっと、、、」
「その感じだと大分エネルギーが見えるんだな、、、」
階段から降りてきた少女はそう言った。
「あ、朱莉さん!?」
「よう遊里ッ、オレが言ったことが図星だったか?」
驚いた顔をする遊里にそう聞く。
ゆっくりと首を縦に振った。
「、、、へー、こいつが、、、遊里はずっと前から気づいてたのか?」
こくっこくっ
「だからこいつのとこ来たのか」
ブンブン
「まあ、いろいろあるんだな、、、ってあれがお前らの指導室か?ぼろすぎじゃね?」
「あ、あのー、どういったご用件で」
苦笑いしながら聞いたが、それをスルーして朱莉は指導室に入っていった。
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「んで?エネルギーが見えるのは体質か?」
朱莉は指導室の真ん中にある机の反対側に座り、足を組みつつお茶をすする。
「いや、僕はエネルギーなんて見えやしなくて、、、色が少し見えるくらいで、、、」
申し訳なさそうにそう答える。
「それを見えてるっていうんだよ!普通だったらさっきのも遊里が指立ててるようにしか見えないぞ」
カイリは目を大きく開いて少し黙り込み、しばらくして口を開いた。
「、、、え?あれみんな見えてないんですか?太い線と靄みたいなやつですよね?」
「、、、普通じゃ見えやしねーよ。ましてや能力者でもない人間が。オレも少し見えるくらいだぞ?エネルギーが見える体質じゃなきゃ、まだ出来上がってもいない結界領域が見えるわけもねーだろ」
遊里が横で大げさなほど首を縦に振った。
「んで?生まれつきじゃないならお前はどんな能力持ってんだ?」
「え?能力なんてそんな、、、」
「なら生まれつきか?」
連続で来る質問に焦りながらも、じっくり考えて思い返す。
「もとはあんまり競技に興味がなくて、大会見始めたのも高校の時、同級生に勧められたからなんですよね、、、東日本にいたから能力者の友達がまともにいなかったし、、、生まれつき?なんですかね?」
お茶を飲み切った朱莉は立ち上がり、吹っ切るように言った。
「ま!どうでもいい、エネルギーが見えてんなら十分だ。」
朱莉は持参したバックをいじくり始めた。どうでもいい、といわれ内心傷ついているカイリの前にあるものを差し出す。
ペラッ
「、、、これは、、」
遊里も横からその紙を覗き見る。
「クラブ参加希望書、、、」
カイリは唾をのみ冷や汗を流しながら、遊里と目を合わせた。そのあとは朱莉とも。
「ほ、ほんとにいいんですか?」
その答えとして朱莉は握手の手を出し、上からこういった。
「オレをリオンに勝たせろ」
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そこから二日間、朱莉には基本の練習をやらせ、カイリはデータの分析と練習メニューの制作に取り掛かった。
(うーん、ガツガツ行く戦い方は地方の時から変えてないんだな、、、あっ)
過去の試合一覧に初めてリオンと戦った履歴があった。
(この時期から二人はライバルになり始めたのか、、、)
さらに過去の履歴までさかのぼる
(音葉、、、って人とよく戦ってるな、、、)
何気なく流れ見をし、研究をつづけた。
音葉と朱莉が戦っているのを眠気眼で見ていた時、
ガタッ
寝落ちした。
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翌日、
「おい!カイリ!起きろー!練習の時間だぞー!」
普段、目覚まし時計に起こされることもないほど朝に強いカイリが、今回は朱莉に起こされた。急いで支度し、部屋の外に出る
「指導者の部屋大きくていいな!指導室よりお前の部屋のほうがましなんじゃねえのか?んで、また夜更かしか?不健康だな」
朱莉が朝食のゼリーを食べながら部屋をのぞき込みそう言う。頭をポリポリしながら
「指導室のほうがいいよ、グラウンドにあるからやる気も出るし。はあー、別に夜更かししてないのに朱莉に起こされるとは。」
「てめえ遊里は君呼びでオレはタメかよ」
少し笑いながらそう言った。
「そのほうがいいでしょ?」
しゃーなしな?と言わんばかりの顔で頭をうなずかせた。
「オレの練習メニューはできたか?いつもの練習飽きちまった。」
朱莉に紙束を渡し、グラウンドまで急いだ。
「ほーん、よく考えられてんな、、、いろんなとこまで見すぎじゃね?なんか恥ずかしいわ」
顔をしかめながら紙をペラペラめくる。
「研究のし甲斐があったよ、こんだけ一人の面倒見れるのは僕の特権だと思ってるからね。あれ?遊里君は?」
「お前の考えた練習メニューずっとやってるよ。よっぽど気に入ってんだろな。何やってんだ?」
安心した顔で歩みを止めずに
「まあたぶん、終わらない練習メニューが楽しいんだろね。さ、やろっか」
「、、、え?あいつずっとやってるのにまだ練習メニュー終わってねえの?」
「よーし、準備して」
「は?もしかして一周も終わってなかったりすんのか?」
「今回長くなるからねー。備えなね」
「オレもそんな練習させられるの?」
カイリは無視して準備を進めた。
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「一旦、この前言った反省点を直していこっか」
ミットを付け、準備を進めながらそう言った。
「えーっと、なんか言ってたっけ?」
「エネルギーの流し方についてだね」
「この前言いそびれてたエネルギーが~なんちゃらってやつか?」
「お、覚えてんだね。意外」
「なめんな。それで?なにすりゃいいんだ?」
ミットを構え。まっすぐと朱莉を見つめ一言。
「まあ、とりあえず撃ってみよう」
パンッ!
大きな音がグラウンドに鳴り響く
バリンッ!
大きく後方に吹っ飛ぶ。
「おー、パンチの力は遊里君より強いかも。」
マジ?と顔から言ってるかのよな表情をする朱莉。
「遊里君はパンチと同時に、朱莉はパンチの後にエネルギーの力が来る。この違いは結構大きな気がするんだよね」
「同時に送り出せるなら遊里のほうがどうしても強くね?オレの能力よえーのか?」
ゆっくり首を横に振り
「そんなことないと思う。ただ、特性を生かさないとね」
「なんかオレよりもオレの能力知ってる感じでウゼェな」
しかめっ面でそう言う朱莉。
カイリは資料を見ろと首を使ってジェスチャーする。
「過去の対戦を見た感じ、朱莉の能力の強みはパンチ力に比例しないことと、発動までに遅延をかけられることだと思う」
目をパチクリさせながら棒立ちする朱莉。
「おい、まじかよ。できたらいいなとは思ってたけどまさかできんの?」
「できる!、、、多分!、、、おそらく!」
(あ~、ほかのクラブ行けばよかった、、、)
「指導お願いしやす」
とてつもなく浅い礼をし、そういった。
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もう日も落ち、練習する生徒がいなくなったころ指導室では
「あ~!ガチで疲れた!!なーにが遅延だよ!1秒もできなかったわ!」
イスに深く座りため息をしながら天井に向かってそう言った。
「一秒で来たってことは多分できるよ!大会までまだ時間あるし!!」
「めちゃくちゃちりつもだな。まー、、、できるのか?」
どんどん座りが浅くなり、体を天井に向ける朱莉。かなりトレーニングでつかれたようだ。
「あとはちょっとした攻撃で大きな衝撃を起こすのと、結晶化をもっと大きくする練習だね」
今後の課題をカイリが口に出すと疲れた体を少し起こす朱莉。
「おいおい、結晶化まで練習するなんて聞いてないぞー。さすがに大会まで間に合わん」
少し怒った口調でそう言うと、カイリは立ったまま首をかむけた。
「朱莉の能力ってエネルギーをものに流して爆発ってよりかは結晶が砕けてる感覚と近い気がするんだよね」
朱莉はさらに体を起こし始める。
「結晶化!?オレができてんのか?」
カイリは朱莉の反対に座り、両手をぶんぶんと振りながら話をつづけた。
「あぁ、いや確実にそうとは言えないけど、、、強化型でも具現型でも領域型でもないエネルギーの流れ方してて、一番近いのが結晶化っていうか。こう、爆発の時、エネルギーが破片みたいに散らばるー、的な。それに爆発音の中で少しパリンって音もするし、、、」
開いた口が塞がらない朱莉。
「、、、さすがに初耳だぞそれ。マジで言ってんのか?」
とてつもない形相で顔を除かれ、少しひよりながらも顔を縦に振った。
「マジかよ、おい、マジかよ!テンション上がってきたなー!カイリ!よくやった!その発見はマジでデカい!お前見えるだけじゃなくて聞こえもすんのかよ!うぉー!やるぞー!」
テンションのアップダウンについていけず、カイリはただただ顔をひきつらせていた。
ガチャ
「お!遊里おかえり」
「どう?練習の調子は?」
顔をぶんぶんと盾に振り、調子を取り戻したカイリに対して、笑顔で勢いよくグッドサインをする遊里。
「まあ、遊里が毎日毎日練習し続けてる理由がわかったわー。」
朱莉も浮かれ気分が落ち着いたのか椅子にもう一度座り、吐き出すように言った。
「それじゃ、今日はこれくらいで終わりにしよっか~」
カイリが立ち上がり、遊里とともに帰宅準備をしていると、朱莉がふと小言を挟んだ。
「そういや、もう一人のメンバーは?」
二人の手が止まった。
「、、、忘れてた」
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