第4話  変化の時

「選手が入場します。東、久我 リオン 西、星野 朱莉」


会場から大歓声が響き渡った。彼女らは昔からライバル関係であり、地方にいたときから戦い続けいまやこの二人のファンの数はHigh Westに引きをとらないほどであった。


「今度はオレが勝つぞリオン!」


強気な赤紙ショートヘア、星野 朱莉。黒に赤の混じった服を身にまとった彼女の能力は衝撃インパクト、自分が触れた場所や体にエネルギーをため、結晶化させたのちにそのエネルギーの塊である結晶を爆発させるものだ。


(衝撃、、、見た目は地味だけど利便性、攻撃性は抜群。あの能力ならHigh Westに任命されてもおかしくない、、、でも、、)


試合が始まる前から、緊張しながらもカイリはメモを取っていた。


「どうせまた私が勝つよ」


対して、戦えることがうれしいのか口角を少し上げて話す、茶髪セミロングの上品さが少し漏れ出る久我 リオン。


(朱莉さんが通算23勝なのに対してリオンさんは25勝、直近の試合はリオンさんが五連勝してるからなー、朱莉さんも頑張ってほし)


「朱莉はもうだめだな」


カイリの思考を止めたのは指導者、京極 勇の声だった。国センの大会選出場者を導いている四天王の一角だ。


(そんなこと教え子に言ってもいいのかな、、)


カイリは少し引き気味な顔をしてそう考えた。京極は今年52歳になるベテラン指導者であり、昔ながらの厳しいトレーニングが有名なため周りの教員や指導者も甘んじてその発言を受け止めた。


そうこう考えているうちに気づけばカウントダウンが始まっていた。


3 2 1,,,Fight




結界領域の中にだんだんとモノが作られていく、今回のステージは下半身を覆いつくすほどの草木が生えた田舎のようだ。


バリンッ  結晶が割れた音がした。


(やっぱり最初は朱莉さんから攻めに入るか)


リオンに衝撃で近づいた朱莉はエネルギーを集中させた右手を左ほほに打ち付ける。がそれをリオンは華麗に大きな槍ではじいた。


久我 リオン、彼女は古くから伝統と血を絶えずつないできた結晶人から生まれた子、またその子孫である元素族の人間であり、土と土を模した結晶物、また、槍を扱うことに長けている。


(あの速度の攻撃をはじいた!?リオンさんも成長がすごいな、、、)


槍についた衝撃も軽々と受け流し、再び距離をとった。リオンはさらに草木が茂る場所へ入っていく。


上等だといわんばかりに朱莉も入っていった。


「ほらな、今回もつまらない試合だ。恥をさらすぐらいなら素直に教えてくださいと言えばいいんだ」


京極の声がまたカイリの耳に入ってきた。


(まだ終わってないじゃないか!ちゃんと最後まで見ないと!)


心の中で説教をするが声には一ミリも出さなかった。


(ここら辺の改善点が治っていれば不利な立地でも全然勝てる、、)


祈るように手を握りカイリは観戦を続けた。


どんどん奥へ入っていくリオン。


(クソッ!これじゃいつまでたってもきりがない!オレは・・オレは・・・)


朱莉は足に衝撃を発生させて宙に舞った。


(これで決めきる!)


手をリオンと反対方向に向け、衝撃の力で急接近した。


リオンと朱莉が至近距離で一瞬、見つめあう。互いに分かり合っているように。


ガキンッガキンッ 


互いに攻撃をしのぎあう。両者、結界に傷が入る。


結界は痛覚を感じただけ傷が入る。つまり、精神が強ければ強いほど戦いは有利になる。


観客全員が息をのむ中、一瞬の時とは思えない攻防戦が繰り広げられた。


(押し切れる!やれる!)


当たりあいで一歩先を行った朱莉は右手でリオンの槍をつかんだ。


(このまま衝撃で槍を折る!)


サラッ、、、


右手から砂がこぼれた。右手に力を入れすぎた朱莉は体制を崩す。


(なんで・・土なんだよ!?)


崩れた右手と槍の後ろから本物の右手が出てくる。


(草で見えなくなってたのか・・・クソッ!!負けんのか、オレ。)


体勢を崩した朱莉にはリオンが大きく見えた。


パリンッ




歓声が沸いた。






地面をたたきつける朱莉に近づくリオン


「朱莉  何のために戦ってるのか、忘れたんじゃないんでしょうね? そんなんじゃ私には一生勝てないよ。」


リオンはさげすむような視線を送りながら方向を変え、控え室に歩いていった。


「何がわかんだよ・・・お前なんかに・・・」


ゆっくりと立って控え室に戻っていく朱莉。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


暗闇の中、だれもいない通路を通る。


カツッカツッ


指導者専用通路から足音が聞こえてきた。顔を上げる、そこには少年がたっていた。


「・・・ハア、ここは関係者以外は入れねーぞ。さっさと帰りな」


朱莉は少しだけ声のトーンを上げてそういった。


「少し前からここで指導者をやらせてもらってるカイリって言います」


暗い顔をしたカイリがそう言うと、きょとんとした顔をする朱莉。フッっと笑い、続けた。


「なーんだ、遊里を金で買った指導者か」


目をギョッと見ながら嫌味全開でそうカイリに言った。それに対しカイリは何も言わずしばらく呆然と立っていた。


「用がねえなら帰り」


「なんで途中であきらめたんですか!」


朱莉の言葉を切るように大きな声でそう言った。


「僕は遊里さんと朱莉さんに特にあこがれてました。だから西日本名も二人に倣ってカイリにしました。そんな人が何ですか、、、いつからあんな戦い方になっちゃったんですか!あんなんじゃ誰も慕いませ」


「黙れよ!!」


沈黙が流れる




「てめぇみたいなアマチュアに何がわかんだよ!さっさと失せろ!」


そう言って控え室の扉を開けようとしたとき、カイリは早口でこういった。


「体のバランスが崩れてます それに、左半身が全く使えてません 多分一撃に何もかもを託してるからでしょう 防御も疎かになっているし衝撃も焦りからかエネルギーを均等に流せてないから」


ドンッ


扉が閉まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・・」


ガンッ!


壁を思いっきり殴りつける。


「んなことオレだってわかってんだよ・・・でも観客もあいつも、求めてんのはそうじゃねえんだよ・・私が求めてんのは・・・・」


自分の考えていることが、何が何なのかわからなくなり髪の毛をくしゃくしゃにし、しばらく下を向いていた時、


ガチャ


「あのガキの言う通りだ。お前は何もかもが中途半端なんだよ。」


京極が部屋に入ってはそう言った。


「体のバランスに防御面、一番の弱点はその無駄なプライドだな」


「お前から教わることなんて一つもねえよバカが・・」


京極を睨みつける。


「ああそうか、ならいい そのまま負け続けるんだな。あいつみたいに」


「・・・・殺すぞ」


ガチャ 京極はそのまま出ていった。


(どいつもこいつも・・くそったればっかだ)


また、下を向く。


脳内にカイリと京極の言ったことがフラッシュバックする。


「・・・」


「・・・」


「エネルギーを・・流す・・」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そこから二日間、朱莉はなかなか寝付けなかった。


「はー、ちょっと散歩でもしてくるか。」


施設を出てグラウンド上の階段を少し歩く。


(こんな時間まで練習してる奴いんのかよ・・すごいな)


人がいるところを歩くのは先日の試合の敗北があってか気が引け、裏の少し小さいグラウンドを歩くことにした。石をけりながら校舎裏のグラウンドに移動する。


(こっちならだれもいないだろ・・・)


「僕が吹っ飛ばない程度に調節しつつ全力で打つんだ!」


ダンッ!


顔を上げた瞬間、パンチの威力で数メートル吹っ飛ぶ人間が見えた。


「何やってんだよ・・あれ・・」


少年は再び立ち上がり言う。


「パンチの瞬間エネルギーが拡散しちゃってるよ!最後まで調節するんだ!」


もう一人の少年が首を全力で横に振る。


「大丈夫!うまくいけば僕も吹っ飛ばないから!」


もう一度パンチングミットを構える。


ダンッ




再び吹っ飛んだ


「もういっちょ!!」


唖然とする朱莉。


(またエネルギーについてなんか言ってる。あれは・・・カイリと遊里?・・・ふざけたクラブじゃねえのか?)


申し訳なさそうな顔をする遊里


「ここでためらってたらもう一歩先に行けないよ!、、、君はもっと強くなれるんだ。」


その言葉に遊里はハッとさせられたのか、覚悟を決めた顔をした。


ダンッ!




(・・・強くなれる。か)


朱莉は少し考えたのち、大きく深呼吸をする。


春の夜、少し冷えた暗闇の中、たった一つの言葉に間違いなく二人の心が揺らいだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


練習後。


「ごめん今日は、、言葉が強くなっちゃった」


いいよと言わんばかりに首を縦に振る遊里。


「実は、、、二日前の試合の後に朱莉さんのとこまで行ったんだ。」


きょとんしつつも遊里はカイリの横に座りしっかりと話を聞いた。


「ほら、朱莉さん、負けちゃったじゃん?遊里君ならわかると思うんだけど、なんか途中であきらめてたように感じて、、、って選手でもない僕にわかるわけないか!」


最後の発言を強く否定したいのか首を大きく横に振る。


「ああ、じゃあやっぱり最後、あきらめてたのか、、、」


口を詰まらせるカイリ。もごもごした後に続けた。


「そのことを朱莉さん本人に言いに行ったんだよ。なんであきらめちゃったんだ!って、、、そしたらめちゃくちゃ怒らせちゃって、、、でもさ、不思議と後悔してないんだよね、、」


こくっと頷く。


「ほんとのこと言えたっていうかさ!、、、でも伝えたいことは最後まで言えなくて、、、それが悔しくてこんな練習メニュー考えちゃったんだと思う。」


少しニコッとする。


「本当のことっていうの難しいんだね。   人って、、、どうすれば変えられるんだろ、、、ってこれは傲慢か」


少し笑ってそういった。ゆっくりと首を横に振る遊里。肯定してもらい、安心したのかカイリは少し口角をあげ、思いっきり息を吸った。


「んまっ!過去のことはどうでもいっか!!今はとにかくメンバー集めてクラブを安定させる!遊里君はもっと強くなって大会で圧勝する!それだけ!!頑張るぞー!!!」


おー、と一つ小さな屋根の下、拳を二つ天井に突き上げた。








外で扉にもたれかかって天を仰ぎ、笑いながら言う。


「なんだよそれ」

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