第3話 夢への一歩
扉の前。そこには遊里の姿があった。伝説のHigh Westである彼が。
「へ、、へぇ?」
ドアノブを握り損ねたカイリは前に体勢を崩し、おかしな姿勢で滑稽な声を発した。
(え?なんで遊里さんがこ、ここに?)
数秒しか経っていないがカイリには何十秒にも感じた。その間、遊里はにこにこしながら扉の前にたたずんでいた。
「な、なにかご用件が?」
失礼するよ、と言わんばかりに礼をしてちんけな指導室に入る遊里。
プルプル腕を振るわせ、カイリは不器用に接待をした。
「ど、どうしてこんなクラブに、、あ!この部屋使うんですね!今すぐ出ていきますんで!」
急いでリュックを背負おうとするカイリに遊里はとある書類を見せつけた。
サッ
「、、、クラブ参加希望書?」
さらに増し続ける震えをこらえながら紙を受け取る。
「え??このクラブに?」
コクッとうなづく遊里
「え?え??なんで?なんでですか??あなたは、、なんでですか!?」
混乱するカイリにもう一枚紙を見せる遊里。
「、、、僕が作ったチラシだ」
遊里は少し微笑みながら赤文字で強調されている文字を指さした。
{楽しく強くなりたい方!大歓迎!!}
(このチラシ、だれも受け取ってくれなかったのに、、、落とした時に拾いそびれたやつか!)
奇跡が起こした邂逅に感謝しつつも、さすがに気が引けるカイリ
「、、、本当に ここでいいんですか?前まで所属していたクラブも、、」
最後まで言い切る前に遊里はカイリの手の中にある参加希望書を彼の胸に押し当てた。
カイリは今の現実を受け止められぬまま考え込み、握手の手を差し出しこう言った。
「よろしくお願いします」
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遊里がクラブに参加した二日後の昼、
(とりあえず徹夜で作った練習メニュー渡してみたけど、この程度の練習じゃ朝の数時間で終わる、、、やっぱりエネルギーを調整できると効率がすごいな、、、)
能力者は体内のエネルギーを使ってそれぞれ能力を扱う。東日本でエネルギーに関しての研究が進んでいるようだがその全貌は不明。
(遊里君の能力はエネルギー消費量の調整。能力は小さいときにどんな経験をしたかとか、何が好きだったとかが影響する。遊里君は昔から人の持つエネルギーの流れが見える体質らしいからその影響かな?その体質のおかげかほかの人より数倍エネルギー総量が多い。結晶化が簡単に起こせて努力もできる、そりゃ最強なわけだ)
カイリは改めて遊里のすごさに感激しつつ過去の遊里の試合をみて研究していた。
「、、、どこに欠点があるのかわからないなー」
二日前の記憶がフラッシュバックする。
{楽しく強くなりたい方!大歓迎!!}
(強くなりたい方、かあ、、、、)
ハア、、
「とりあえず過去の試合見まくるか!!」
久しぶりに出たため息はカイリにやる気を出させた。
気づいたこと、分かったことを殴り書きしているうちに、気づけば遊里の地方での戦いすらもすべて閲覧し、夜になっていた。
「疲れ、、、た、、」
気絶するように机に倒れ寝た。しばらくして、
ガチャ
夜遅くまで自主トレをしていた遊里が指導室に帰ってきた。うす暗い部屋の中、明るく光るパソコンの画面が大量の文字が書かれるノートを照らしていた。ゆっくりと照らされていたノートをとる遊里。
ペラッペラッ ペラッペラッ ペラ、、、
それまで流し読みしていた遊里の指が止まった。
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カイリは次の日の朝に目を覚ました。そのころにはもう遊里は練習しに外に出ているようだった。
(うえ~、こんな時間からもうトレーニング始めてるんだ、すごっ!!)
「僕も急がなくちゃ、、」
カイリが焦る理由。それはクラブの維持についてだった。クラブに一人参加しただけでは正式なクラブとは認められず、一人加入後、二週間以内にもう一人クラブに参加しなければならない。その後、同じ条件でもう一人、選手が三人参加していないとクラブとして認められず、大会にも出ることができなくなる。つまり、二週間以内にもう一人、大会までにもう一人、計二人を集める必要があった。
(遊里君がクラブに参加したらめちゃくちゃ参加希望来ると思ったのにー!金でつっただの、土下座して入ってもらっただの、デマが拡散しまくってむしろ最初より好感度落ちてる!もういやだ~)
頭をがむしゃらに掻いて落胆する。
「はあ、どうしよ」
不安が募る将来のことを忘れるためか、カイリは遊里以外の選手の研究をも始めた。
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翌朝。大会まで残り三週間になり、国センは少しバタバタしていた。それは大会が近いこともあるが、もう一つ大きな理由があった。
「ハア、ハア、急げー!もうすぐ始まっちゃうよー!」
昨日の落胆が嘘だったかのように急いで走るカイリ。その横を遊里は余裕そうにペースを合わせて走る。
エントランスホールには多くの観客でにぎわっていた。
「すっごい人気!!僕もこの二人の試合もずっと見たかったんだよねー!」
子供のようにはしゃぐカイリを遊里は母親のような目で見ていた。
「指導者の観客席は向こうだからいったん解散だね。試合後ねー!」
手を互いに振りそれぞれの観客席へと向かった。
長く暗い廊下を抜けると遊里の試合に並ぶほどの歓声がどっとカイリの耳に入ってきた。
(やっぱりライバルっていいよな~あこがれる!!)
観客席に着いた直後、機械音声アナウンスが流れた。
もう一つの理由。
「選手が入場します。東、久我 リオン 西、星野 朱莉」
再び、伝説が始まるからだ。
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