第2話 努力の結晶
残り一週間、期限内にクラブメンバーが一人でも増えなければ強制的に本校の指導者にはなれなくなる。
カイリは東日本にいたときからこのために準備をしてきた。彼が少し遅れて国セン{西日本国際教育センター}に来たのもクラブメンバーを集めるためだった。
(入学式が始まると同時にここに来た指導者をたくさん知ってる。でもみんな出鼻をくじかれて引退してる。春頃、三年生はみんなあの人たちのもとに行くから、少し時間がたった今。強くなるために指導者を変えようと思う人がいるはず!今しかないんだ。)
一年に二回、夏と冬(六月初めと十二月初め)に大きな大会が開かれる。二か月遅れて国センに入学したカイリにとって春の大会は一か月後であった。
(こんな時期に指導者が入学してくるなんて前代未聞なのはわかってる、、、けどそれくらい新しいことしなくちゃあの人たちの人気には勝てない、、)
あの人たちとは、国センに指導者として長年活躍している四人のことである。中学卒業からの選択肢として五年間、国センに通う約三万もの選りすぐりの学生がいる。もちろん勉学をしに来ている学生もいれば、それを教える教員や指導者もいる。しかし、それを除いても多くいる三年生以上の大会出場者を導いているのはたった四人の彼らだけだった。それゆえか、彼らは四天王と呼ばれている。
(国セン1、2年生は勉学などが義務付けられていて本校の大会には参加できない。それでも多くの大会参加者がいる。その中から一人でも誘えればいいんだ!二年間、入学と指導者免許のために勉強してきたじゃないか!大丈夫!年齢は三年生と同い年だけど大丈夫!まだ誰も友達いないけど大丈夫!先生の知り合いもいなけりゃ能力者でもないけど、、、大丈夫!、、きっと大丈夫!!)
「大丈夫かなー、、、本当に、、、」
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大きな大会前ということもあって、夕方時ですら練習をする生徒や分析をする生徒で国センはにぎわっていた。そんな中、建物と運動場をつなぐ階段の上で一人、
「どなたか新しいクラブ興味ありませんかー!!指導者も若くて接しやすいですよー!楽しく成長したい人におすすめですー」「新しくできたクラブです!ぜひ興味があったらお越しください!」「一緒に全く新しいスタイルを作りませんかー!仲間募集中です!!」「このクラブ興味ありませんか?ぜひよかったらこのビラ」
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「誰か、、だれか入ってくれませんか」
「ずっと何やってるのあの人ー」「一週間ずっとあれやってるよw俺なら恥ずかしくてできないね」
数多の冷たい目線がカイリを包む。
(頑張らなくちゃ、、、今はこれしかないんだ)
もう声がかすかすになっていることも気づかないまま声を上げ続ける。
(今まで準備してきたことは無駄じゃないんだ。)
素人にしてはよく頑張ったと言えるクオリティのビラが大量に手のひらにあった。6日間、いろいろな場所で長時間ビラ配りや宣伝をしたが、それが量を減らすことはなかった。
今までの疲れがどっと襲い、ため息をつきながら下を向く。
「あれー?こんなとこで何やってんのー?」
「うわwビラ配ってんの?古くさw」
顔を上げるとそこには見覚えのある目つきの悪い顔をした人と、後ろにThe 不良の言葉が似あう二人組がいた。
「指導者って誰なの?もしかしてお前?」「風磨もなんか言ってやったらー?この甘ちゃんに」
二人組に図星をつかれ、何も言えなかったカイリに冷たい目線を配りながら”風磨”と呼ばれる彼は何も言わずカイリの前を通り過ぎていった。
「どこ行くんだよー」「ちょっと待ってよー」
彼を追いかけるように不良二人も走り出す。
ドンッ!!
不良がわざとらしくカイリの肩にぶつかり、ビラが空を舞った。カイリは泣きそうになりながらもそれを丁寧に拾っていった。周りからはコソコソとあざ笑う声が聞こえた。
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カイリが国センに来てから7日たった。今晩、この指導室の利用が不可になる。
「ハア、、、、、、、」
(何してんだろう、僕は、、親に頼み込んで二年間も必死に勉強して、、その結果がこれ、、、ようやくとった指導者免許も、頑張ってきた研究も、、今まで追い続けた夢も、、、全部、全部)
「無駄だったんだ」
涙がにじんでも、聞こえてくるのは慰めでも応援でもなく、秒針の音だけだった。
「、、、、、、、」
「帰る準備、するか、」
机に置いてあるノートを拾う。考えなしにそれを開いた。
夢をかなえるんだ 憧れに 近づくんだ
ノートを持つ手が震える。ほほを涙が伝う
「ごめんな、、、無駄にしちゃって 今まで、頑張ってきたのに ごめん ごめんな、、」
荷造りが終わり、夜が更けてきた。
(もうそろそろか、)
手をドアノブに伸ばす
ガチャッ
ドアノブに触れる前に扉があいた。
キー。
息が詰まった。
扉の前には”彼”がいた。 遊里だ。
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