澯々の闇(さんざんのやみ)
橘 つばさ
第1話 始まりの季節
「ハア、、ハア、、」
桜がふり落ちるなか、白色の春服を着る幼い顔をした少年は呼吸を荒くしつつ門を目指す。
「ハア、、ハア、、ハアーーー」
門を前に手を膝について深く呼吸をしたのち、顔をゆっくりと上げた。
「、、、ここが僕の夢見た場所」
(これは僕の、、、希望に満ちた物語だ)
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一つの施設とは思えないほど大きな運動場を急ぎ足で渡り、ようやく室内へたどり着いた。
(びっくりするくらい広いし、きれいだなー、、、って!急がなくちゃ!)
staff only の文字が書かれたゲートにたどり着く。
「これ、お願いします」
足をじたばたさせながら証明書を窓口の従業員に渡した。
「柊 カイリくんね~、ふ~ん、本校の指導者目指してんだ~。ま、がんばりな」
と、少し嫌味交じりで言われたが、そんなこと気にする時間はなかった。
「ありがとうございます!」
と頭を下げ、急いで施設の奥へ向かった。
(試合まであと5分しかない!急がなくちゃ!)
明るく広いメインルームを抜け、暗く長い廊下に入る。無限かと思えるほどの通路を抜け、徐々に歓声が身を包み始める。一直線の廊下の先に光が見えた。
(あそこだ!!)
人生で一番のダッシュをする。
大きくなり始める歓声。ようやく視界が開き始め、想像を絶する空間がカイリを包み込む。
息をのむ。
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(ここがスタジアム、、、すごい、、、)
あたりを見渡す。
中央にたたずむドーム状の”結界領域”に包まれたステージを多くの観客が取り囲む。カイリの言葉を失わせるには十分な熱量だ。
そして、不愛想な機械音声アナウンスが多くの観客を黙らせた。
「選手が入場します。東、藤原 蛍。西、瀬良 遊里。」
西側選手の名前が呼ばれた瞬間、耳をつんざくような大歓声が沸いた。
(びっくりした!でもやっぱりすごいな遊里さんは!)
顔がよくできたパーマをかけている彼は観客全員を魅了していた。
カイリもほかの観客と同じように期待を胸に、目をかがやせていた。
これほどの大歓声。それもそのはず、遊里は能力者が数多くいる西日本の中で、現学生の中では4人しかその称号を認められていない"High West"の一人なのだ。
簡単に言えば“最強”
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(だ、大丈夫!私ならやれる!なにがハイウェストだ!今まで遊里さんの動きはたくさん見てきたんだ。大丈夫、、、大丈夫、、、)
震える手を自分を鼓舞することで止める蛍。槍をぎゅっと握りしめた。
一方、遊里はウォーミングアップをしている。
二人が身を守るための”結界”に包まれていく。結界領域の表面には5秒のカウントダウンが現れた。
5 4 3 2 1,,,Fight パリンッ
沈黙の中、蛍が気づくころには彼女の結界は割れていた。
勝負はあっという間であった。
あっけにとられた蛍はしばらくしてから床にペタンと崩れ落ち、結界領域に“勝者 遊里”と表示された瞬間、観客は再び大歓声を上げた。
(はっっっっや!!何この人!?)
蛍が顔を引きつらせながら遊里を見る。少し笑顔を出した遊里は蛍を立たせるため手を差し伸べた。
もう一度歓声が沸き立った。
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西側の選手控え室に急ぐカイリ。
(ハア、、ハア、、人がたくさんいるなー。これじゃ遊里さん見れないかも、、、)
多くの女子生徒が薄暗い廊下に集まっていた。
戦いを終えた遊里が廊下に入ってきた途端、
「キャー!!遊里さーーん!!こっちみてーー!!」「本物よ!本物ー!!」
ファンたちがこの機会を逃すまいと声を荒げていた。
(すごいな、、、僕もファンだったけど東日本とは熱意が違うや、、、)
遊里は暗い通路を早々と歩き、姿を消していく。半ば遊里の姿を見るのをあきらめつつ、立ち止まっていた。すると突然、
「はいはい、どくどく~邪魔になってるでしょー」
後ろから大人びた女性の声が聞こえ大衆の中をカイリの背中を押しながら進んでいった。
大衆にもまれつつ進み、二人はようやく抜け出すことができた。通路の奥には“彼”の姿があった。
「それじゃ、また今度、楽しんでね♪」
大人びた声の女性はそう言って後を去った。
カイリは目の前の現実に動けずにいた。
(遊里さんが、、この奥にいる、、急がなくちゃ!)
「何あの男~」「勝手に関係者通路に入るなよー!」
後ろから大衆の批判のような声が鳴り響いていたが、カイリには届かなかった。
(緊張で足が動かない!ここで話せないと多分一生出会えないのに!)
そう思ったカイリは足を震わせながら暗い通路を進んでいった。
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急いで遊里のもとへ急ぐカイリ
(ここにきて走ってばっかだな、、、)
疲れながらも遊里のもとへたどり着くことができた。彼は控え室に入る直前だったらしい。きょとんとこちらを見ている。カイリは顔を上げた。
「は、初めまして!!ひ、柊 海と申します!!あ、あのーずっと遊里さんのファンでしてー、、、と、とにかく!さっきの戦いすごかったです!」
遊里は目をパチクリし、いまだに不思議そうにカイリの顔を見ていた。
カイリは一呼吸置き、話を進めた。
「実は指導員っていうかマネージャーを目指しててー、みんなが楽しく学べるような、、そ、そうだ!こんな感じでいろんな選手の研究をしてるんです!」
見るからに使い古したノートをリュックから取り出し、遊里に見せた。しかし、神のいたずらか、開いたページは遊里の研究ページであった。
急いでカイリはページを変え、慌てて言った。
「と、とりあえずー、あのーそのー」
(あ、あれ?僕何が言いたかったんだっけ?)
「た、互いに頑張っていきましょ!」
遊里は最初から最後までキョトンとしたままで、最後にこくっと頷き控え室に入っていった。
絶望感が高揚感をようやく上回った。
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「こちらがカイリさんの指導部屋です。ご自由にお使いください」
和服姿を着た細目の女性が案内したのは運動場の端にポツンと置かれた小屋だった。
「ありがとうございます!」
カイリは深く頭を下げ小屋に入っていった。女性は扉がしまるまで上品に手を振り、見送った。
バタンッ、扉が閉まったと同時にカイリはその場に深く座り込んだ。
(ハアー、、あこがれの人にわけわかんないこと言っちゃった、、しかも遊里さんの研究も見られた、、しかもしかも、何が互いに頑張りましょう!だ?!向こうの努力も知らないで!)
「終わったー、、」
部屋に充満するほどの大きなため息をついた。
(と、とりあえず!気を取り直して。クラブメンバーを見つけなくちゃ!期限はー、、)
この西日本国際教育センターには特別な指導者制度があり、最初のクラブメンバーは一週間以内に見つけなければならない。その期間以内に勧誘できなければ、指導室の使用禁止、つまり指導者にはなれないということになる。ほとんどの選手がどこかのクラブには参加しているため、かなり厳しいルールだが、そうでもしないと指導者であふれかえることになる。人気がある職業だが、狭き門でもあるのだ。
(期限は一週間、、全力で勧誘する!)
「よーし!頑張るぞ!」
時計の秒針が鳴り響く部屋で一人、拳を天井につき上げた。
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