第6話 未知の感覚

「、、、うわぁぁ、メニュー作るのに集中しすぎてメンバー募集忘れてた、、」




カイリは手に持った荷物を震わせ、遊里は視線がキョロキョロと体を右往左往させ、動揺を隠せていなかった。




大会に出場するには選手は最低3人必要。そのため出場選手として一人、名前が足りない。




「い、今から募集するしか、、、」




冷や汗をかきながらそう言うと、朱莉が手を組みながら




「名誉がかかった夏の大会だぞ?大会1週間前に誰が指導者変えんだよ。オレと遊里がイレギュラーすぎるだけだ。」




振り返ると朱莉は細目で睨むような眼をしていた。カイリ、死を覚悟する。




「はあー、さすがにもう一人くらいは勧誘してると思ってたぜ・・・しかたない、おいカイリ!」




後ろから勢いよく名前を呼ばれビビりながらも情けない返事をする。謝る準備はできていた。




「お前も選手として出ろ」




「、、、、、へ?」




予想だにしていない言葉が出てきたため、しばらく考えたが朱莉の意図が読み取れなかった。




「え~と、、それはどういう」




「だーかーら!お前が選手として出るんだよ!そしたら3人だろ?出場できんじゃねえか」




「そ、そんなことしていいの?」




「ルール上なんの問題もない」




即答された。




「いや僕、能力とかなくて」




「強化結界もらえるじゃん」




即答された。




「運動神経そんなよくなくて」




「大丈夫期待してないから」




即答された。




「、、、がんばります」




「恥かく準備はしとけ」








即答された。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうと決まってからは早かった。次の日、朱莉と遊里に無理やり体操服を着せられ、外にほおりだされるカイリ。




(や、やばい!夏の大会だよ!二日目といえど、どれぐらいの観客が来るのか予想もつかない!!そんな中僕が出ちゃったりしたら全員興ざめだ!朱莉だけじゃなくて遊里君も僕が出ることに賛成派だし、、、まあ、募集を忘れてた僕のせいだけど)




少しの期待を込めてゆっくり振り返ったが朱莉はアップを始め、遊里はカイリが逃げ出さないように扉の前に立ち、ガンバ!と言わんばかりに笑顔でグッドサインをしていた。




(終わった、、、)




「よーし、じゃあ少しでも恥かかないようにオレらと同じ基礎練やるか」




カイリは二人の能力練習メニューは組んでいたが、基礎練習は各々がやっていたため内容を一切知らなかった。




「え?二人がやってるやつやるの?」




「じゃあ最初はランなー」




「え?それ何キロ?どんくらいの速さ?やばくない?」




「よーい」




「ねえ教えてよ!ゴールわかんないとやってらんな」




「スタート!!」




いつの間にか昨日とは立場が逆転していた。






数時間後、




「はあはあ、死ぬ!全然死ぬ!」




「おー!よく走り切った。バカ時間かかったけど」




カイリは地面に倒れ、朱莉は水分補給、遊里はストレッチをしていた。




「よーし、じゃあこっからは遊里頼んだわ。オレは自分の練習してくる」




どうやら交代でカイリの面倒を見る予定だったようだ。




「はあはあ、いいよ、はあ、自分たちの練習しな?はあはあ」




そんな言葉が通じるわけもなく当たり前に練習に参加させられる。今回限りは遊里を悪魔だと感じた。




そして基礎練習しているうちに時間がたち、




「はあーーー!!!ほんとに疲れた!」




指導室のど真ん中においてある机に突っ伏し叫ぶ。




「オレらの基礎練するのに丸一日かけるとは・・・すごいんだな、オレらって。」




「僕をほめて?」




遊里は孫を見るような眼をしながらカイリの背中を撫でていた。




「あと二週間だ。まあ、どんな相手が来ても負けるとは思うが、せめて傷くらいはつけれるようにしようか」




机とピッタリだった顔を上げ言う。




「ってことは?」




「猛特訓だ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はあはあ、なんか昨日より道険しくない?!」




「オレのフィーリングで道決めてるからな」




「そんなバカな!」








「筋トレマジ無理!腹筋消えちゃう!」




「、、、」




 ^^








「まって!ミット打ちは元気だからやれたの!今やったら腕が死ぬ!」




ダンッ!




「うわあーーー!!!」








「ねえ!明らか昨日より距離増えてない?!気のせい?!」




「気のせい気のせい。さ、走るの再開するぞー」








「ウェイトやばくない?え?これ持つの?え?上げんの?無理じゃない?」




(^o^)丿








「なんで僕で能力の練習するの?!二人でやってよ!!」




ダンッ!!!






吹っ飛んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


残り大会まで一週間になった。国センの学食ホールにて、




「よ、よーし、大会出場申込書提出完了。」




遊里は小さく拍手を、朱莉は自信ありげに腕を組んで息をついた。




「これでオレらは正式な選手だな。にしても、地方の大会にはたくさん出てるはずなのにこの瞬間はやっぱワクワクするな。色んなところで人は増えるし、出店の準備が始まるし!」




朱莉が言う通り国セン外の人間や親などが多く徘徊していた。朱莉の言葉に遊里がテンション高めに頷く。カイリは緊張からか何も頭に入っていなかった。




「ここら辺のホテルとかはもう満室らしいぜ?外国人旅行客も大量だとか」




(゜o゜)




朱莉と遊里が楽しそうに会話する。




「カイリはどうだ?体調とか。なんか最近はオレらの練習ついてこれてるけど、、、一週間でこんな成長するもんか?無理してねえだろうな。」




急に話しかけられ、ハッと我を取り戻すカイリ。




「は!う、うん!体調はチョベリグ!全然大丈夫だよ。」




グッドサインを胸の前に勢いよくだした。




「んまあ、ならいいが、、、よーし!そろそろ練習行くか!」




席を立ち、エントランスホールから外に出る。




グラウンド前の階段、その横には多くの売店が準備をしていた。もうすでに開かれている店もあり、一大イベントともあって一週間前でも多くの学生で賑わっていた。




「エントランスには大人が多かったけど、ここは学生多いね」




「外部から来た大人たちは国セン自体に興味があるけど、学生は大会で出店に来れねえやつがいたりするからこんだけ賑わってんだろうな。すげーなー、夏の大会は」




頭が真っ白だったカイリも今では雰囲気にのまれ、周りを見渡しながら楽しんでいた。そうやって歩いていると朱莉と遊里に置いていかれ、それにも気づかず国センの入り口を見ながら後ろ歩きをしていると、




ドン!




人とぶつかった。




「うわ!ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!」




地面に倒れた眼鏡をかけたロン毛の彼は後頭部をさすりながら言った。




「大丈夫です。倒れただけですので」




カイリは急いで手のひらを出し、起き上がるのを手伝った。




「ほんとにごめんなさい」




ペコペコしながらそう言うと、彼は首を横に振りながら




「人が多いですもんね、しかたがないことです、、、ここは…楽しそうで何よりだ」




そう言って去っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふう、ふう」




いつも通りの朝のランニングを終え、グラウンドにつく二人。




「うし!ランニング終わり!今日もついてこれたな。すげえなお前」




朱莉がそう褒めているとき、カイリが自分の手のひらを見ていた。




「おーい?カイリ?大丈夫かー?、、、おーい!」




カイリの肩を大きく叩く。それに驚き、肩を上げ振り向く。




「あ!あー、えーとなんだっけ?」




それを見て朱莉は不審がり、首を傾け言った。




「お前ほんとに大丈夫か?最近ずっと上の空だぞ?」




「え?あぁ、、、」




カイリは朱莉の言葉に少し驚かされ、もう一度手のひらを見て、少し悩み決断したように言った。




「ごめん、少し休むね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


国セン内にある生徒の部屋とは別棟の指導者部屋。少し小さめだが、一人で暮らすには何不自由ない部屋のベットに横たわるカイリ。




(なんか、、、体の中に違和感あるな~)




大会前ということもあり、早く体調を元に戻さないと、という焦燥感に駆られ、なかなか寝付けなかった。




(ここに来てまだ三週間、、、いろんなことが起きたなー。いろんな人と会って、いろんなことがあって、なんか変に順調で、、、)




そう考えては一人、ベットの上でにやけた。




(今まで起きたこと全部が奇想天外で、、、この体調不良も驚きすぎて疲れがたまっちゃてたのかもなー。 遊里君に会って、朱莉にも会って、まさかの二人とも参加で、、、夢にも見てなくて。幸せで。そこからは、練習もたくさんや、、て、、、、つかれ、、、て)






色々思い出しているうちに眠りに入り、数時間がたった夜。秒針が響く。








カチッ


カチッ


カチッ


「、、、」


「、、、、、」


「、、、、、、はあ、」


「、、、、、、、はあ、はあぁ、はあ。はあぁ」


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」




ガタン!!




体を地面に落とし、服を引きちぎるように掴む。




(死ぬ!体が熱い!なんで?なんで!?全身が痛い!体が焼ける!痛い痛い痛い!!やばい!このままじゃ、、、ほんとに死ぬ!、、、、、とにかく保健室に!)




「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、」




呼吸をとんでもなく荒くし、壁に手をつきながら少しずつ歩く。




(やばい!頭が痛い!体が痛い!全部が熱い!今にも吐きそう!いやだ!死にたくない!)




とてつもなく長く感じる時間、今まで経験したことのないような苦痛に耐え、何とか寮を出て保健室へ最短の裏道を通る。




(もうちょっと!もうちょっとだ!もうちょっと。もうちょっと!)




入口が見えたころ、横にあった木に手をついた。その瞬間。




バリンッ!! ボキッ!!










とうとう意識を失った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


桜が舞う季節、月夜が照らす大きな樹の下、二人でただ黄昏る。




「青春も、、、まあ、悪くないね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る