第3話

 金城祥子はクジラ雲の背中に乗り、悠々空を飛んでいた。ゆったりとした速度で進んでいく。見ると右側を自動車が通り過ぎて行く。

 空に自動車? そう思ったが車が空を飛んでいるのではなく自分達が低空を飛行していることに気付く。

「ねえ、他の人には私達見えてないの?」

 祥子は隣にいた鯨波に訊く。

「ええ、残念なことです。皆、あの頃の純粋さを失ってしまった」

「かつては見えていた?」

「はい。あなたも少し前までは見えない人でしたよ。空をずっと眺めていたけどクジラ雲に気付かなかった。皆、見ているようで見ていないんですよ」

 何か言おうとしたのだが、クジラ雲に乗っているせいだろうか、うとうとしたような浮遊感のためか何も言葉が出てこない。

 ふとクジラ雲の前方を見ると誰かの後頭部が覗いていた。

「ねえ、あの人は誰?」

 祥子は鯨波に訊く。

鯨谷くじらたにさんですよ。僕達の仲間でクジラの国の住人です」

「へー」

 聞こえたのか鯨谷と呼ばれた男性は振り返りちょこんとお辞儀した。祥子もお辞儀で返す。

「さてそろそろクジラの国に着きます」

 鯨波は言った。

 見慣れない風景が広がっているが、どうやらまだここは日本のようだ。

「あそこですよ、あれがクジラの国へのゲートです」

 祥子の疑問を察したのか、鯨波は前方を指差す。その先には雲で出来たアーチが見えている。奥には水色の家のようなものが見える。パステルカラーの可愛らしい印象だ。

 まどろむような気分の中で祥子はそう思った。

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