夜行普通列車で迎える朝
第2話 18きっぷの出どころ 1
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まだ夜明けにはしばしの時間が必要な、朝6時前。ハイケンスのセレナーデが車站部のスピーカーから流れ出る。これは、この手の客車に装備されているオルゴールであり、車内放送の前後に必ずとまでは言えないが流されるもの。
列車はあと少しで、倉吉に停車すると案内される。車内が再び明るくなる。これが朝の合図。倉吉で降りる客はそういない模様だが、8分間の停車。その間入場券やスタンプを求めて走る若者もいるが、それとは別に何か売店で買い物をという客もいくらかいる。車内は少しばかりざわつき始める。
同じボックスで仮眠をむさぼっていた3人とも、ここで目を覚ます。夫婦一組に女性一人。この3人で夜を過ごすことも年に何度かある。ただし、ここは公共の場であるから好き放題できるわけではない。
誰となく目を覚まし、同時に外を見る。大して雪は降っていない。しかし、彼らの住む瀬戸内側とは大違いの寒冷な日本海側の気候。今日も寒い。
陽子女史が、財布から切符を取出した。赤い切符が2枚あり、日付の書いていないものと、ついこの夜に日付を書かれたものと2枚ある。
「その一枚は、誰が陽子ちゃんに?」
内山夫人が尋ねる。彼女は、夫から同じ赤い切符を2枚、水曜日の夜に受取っている。これで大阪回りで出雲大社に行くようにとのこと。その日程は、2回生でこの6月頃に入会してきた京都の大学生から夫経由でもらっている。陽子女史がどこかで合流することは聞かされていたが、まさか福知山でとは知らされてなかったとのこと。
「この1枚、水曜日の夕方にマニア君から受取ったよ。あの少年、うちに来たら大抵スパゲティのナポリタンかミートソースのどちらかを大盛にして食べるからね。あの日もスパゲティを食べて帰ったわ。その折に、内山さんからこの切符1枚渡してくれと言われて、その時、福知山までは急行だいせんに乗って、それから山陰号に乗換えたらこっちの切符に切り替えて、そうしたら出雲市まで安く行けるからそれで行ってくださいって言われたって」
「で、私やサダ君が山陰号に来ていることは、知らなかったの?」
「まさか、そうなるとは思わなかった。早めにだいせん号に乗って来るのか、あるいは出雲大社で会うようになるのか、そこは謎だった。ま、それも楽しみかと思って岡山から出てきたンだけど」
列車は減速し始めた。そろそろ、倉吉駅に到着する。彼女らはここで特に何かを買い出しに出るつもりはなかったが、少しホームに出てみようということに。
「ひょっとして、マニア君が持ってきた赤の18きっぷって?」
「それ実は、マニア君と河東君の話を聞いて、じゃあ1枚だけ陽子ちゃんに早めに渡しておこうと思ってね、ぼくが仕掛けた」
「ということは、マニア君と河東君と、サダくんはグルだったってこと?」
「グルと言われてもねぇ。ま、そういうことになるか」
「でも、なぜわざわざ?」
陽子嬢の疑問が呈されるとほぼ同時に、列車は停車。定刻に倉吉着。程なくホームへと何人かの若者が元気よく飛び出していく。
3人そろってホームに出て自動販売機の前に行き、温められた缶コーヒーを1本ずつ買ってすぐに車内に戻った。そうこうしているうちに、駅舎まで遠征した若者や買い物客らも車内に戻っている。あまりに朝早いことと日曜の朝ということもあり、通勤客や通学客はまったくと言っていいほどいない。
倉吉発車は、5時55分。この日も定刻発車。文鎮型の赤いディーゼル機関車が汽笛を鳴らして青い客車たちをさらに西へと連れていく。
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