第6話


 自宅へ帰ってから敵の骨を砕く。細かく折りすり鉢でゴリゴリとする。サラサラとしたら完成。それを何度か繰り返す。人一人分の人骨でこれだけの骨粉が出来るのか。これだけあれば十分だな。


 明日これを持って村へ行こう。肥料だと偽れば警戒もされないだろう。


「久々に血を浴びたなぁ。悪くない。が、彼らの手前そんなことを何度もするものでは無いかなぁ」


 人間は血に対して恐怖を感じやすい。ならば血濡れの姿なぞ見せぬほうが彼らのためだ。


「アズマ」


 ぽんっと音を立てアズマが現れる。カップに水を入れ、目の前へ置く。

 

「喉、乾いてないかい?お飲み」


 こやん、と鳴いてぺろぺろと水を飲み始める。やはり使い魔にして良かった。小さきものが頑張っているところはほっこりとする。愛らしく、応援したくなる。


 こやん、とまたひと鳴きし、ベット脇へコロリと丸くなる。今日はここで眠るらしい。うん、俺もそろそろ寝るとしよう。布団へはいると、モゾモゾとこちらへ擦り寄るアズマ。頬が温かい。よく眠れそうだ。


 翌朝、村へ行くとタツキが駆け寄ってきた。社が完成したそうだ。目隠ししてそこまで行くと言うので、それに従う。


 随分歩いた気分だ。目が見えないと不便なものだとよく分かる。森の匂いと木の匂いがふんわりと香る。あぁ、新しいものの匂いだ。


 ぱっと目隠しを取られ、強い光で目が眩む。

 しぱしぱする目をどうにか抑え、目の前にあるものを見る。

 あぁ、社だ。俺がずっと守ってきた社がそこにはあった。形は違うが、村人たちが丹精込めて造ってくれた俺の、俺だけの社。

 嬉しい、嬉しい。とても嬉しい。


「どうだ? 結構上手くできたと思うんだが……」

 

「いやぁ、あそこの部分はもうちょっと手を加えた方が良かったんじゃないかぁ?」


「まぁまぁ、いいじゃないっすか! せっかく完成したんですし! 」


「どうです? 葛菲かつひ様! 」


「あぁ、とても嬉しいよ……! こんなに立派な社を建ててくれるなんて……」


 言葉が出ないほど感激しているよ、そう目を見開き驚いたような表情で告げる。


「大成功だな! よし! 今日は宴にしようぜ! 」


葛菲かつひ様がこの村に居着いてくれた礼だ!」


 それからはどんちゃん騒ぎだった。どこから持ってきたのか、酒を開け、料理を山ほど作って、子供たちはきゃらきゃらと楽しげな声を上げながら遊んでいる。


 あぁ、俺が見たかったのはこんな景色だった。村人が幸せに楽しげに日々を送る。何気ない日常をこの手で守ってやりたいと思ったのだったなぁ。


葛菲かつひ様楽しんでるか〜! あ、全然進んでねぇじゃねぇか、もっと飲め〜! 」


 とくとくと器に酒が溢れるほどついで、またふらふらと別の人の元へ歩いていく。恐らく宴など久しぶりなのだろう。村人たちの楽しそうな顔を見るだけで、幸福になってくる。


 もしも、まだわがままをいってもいいのなら。

 俺はこの村で生きていきたいなぁ……。

 

 

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