第5話


 翌朝、いつも通り村へ行き日々の手伝いをした。社を建てるのも手伝うと申し出たが、自分たちの手で作りたいと熱望され、その圧に負けてしまった。昼からは周辺の調査へ向かおう。


 鬱蒼とした木々、緩やかなせせらぎ、囀る小鳥たち。特別異変がある訳ではなかった。村を囲うように森があり、小川が流れている。何ら不思議ではない。


 ただ1点気になることといえば、小型より大きい動物が居ないことだろうか。うさぎやリス、鳥などの小型動物は見かけるが、狐やたぬき、鹿などを見かけない。そういう森だ、と言われれば納得するしかないが、妙に気にかかる。


 考え込みながら歩いていると、けもの道を見つけた。森にならばよくあるであろうけもの道は、僅かな呪力の痕跡があった。動物や普通の人間はこれほど強くはない。呪力を持つ何者かがこの村の近くにいるのは明白だ。


 今の力ならば、ある程度は倒せるだろう。そう踏んでけもの道を進む。動物しか通らないような道だからか、木の枝に引っかかる。大型動物が行き来しているのなら、もう少し歩きやすかっただろうな。


 道なりにそって歩いていくと、薄暗い洞窟のようなものが見えてきた。ふむ、1度明かりを取りに帰った方がいいか。そう考え踵を返した。


「おやおや、神が背を向けるのか?」


 知らない声だと咄嗟に振り向く。目深にかぶったフードで顔は見えないが、背格好からして男だろう。


「誰だ。あの村に何か用なのか?」


「用?あぁ、まぁ用はあるな。あの洪水で全滅して欲しかったんだがなぁ」


 なるほど、敵か。


「あの洪水はお前さんが起こしたのか?」


「うん?あぁ、そうとも! あの村のヤツらが邪魔でねぇ。いやー、滑稽だったよ! 四方八方に逃げていくやつ、助けを乞うやつ、果敢に水を止めようとするやつ。最後のやつはただの蛮勇だろうがなぁ」


 握りしめた拳がブルブルと震える。爪がくい込み、血が滴っているのがわかる。人が死んでいるのに、滑稽だと言えるのか。他の命を守ろうとする姿を蛮勇と罵るのか。


「……あの村を壊滅させる気なのか?」


「あぁそのつもりだ。村人は邪魔だからな。皆殺しにするとしよう」


 ならば、やることはひとつ。


「そうか〜。残念だなぁ、ここであんたを殺さなきゃならないなんてな」


 睨みつけながら指先に力を集中させる。


「あんた、あの村が大切なのか?あ、もしかして守護神だったり?だったら済まないなぁ! 俺が欲しいのはあの土地なんだ。あの土地さえ貰えれば村人に危害はくわえないさ。どうする?」


 どうする、か。きまっている。土地を渡せば、どうせ村人も殺すんだろう。口封じだとか言ってな。ならば、ここでこいつを殺すしかないだろう?


 手近にあったナイフを手に取り、あいつへ振り下ろす。ちっ、避けられたか。相手の攻撃をいなし、腹へ一刺し。ついでに心臓と首へ一刺しずつ。


 呆気なく男は倒れた。息は無い。さて、どう処理したものか。あぁそういえば、使い魔のひとりに悪食がいたな。


「アズマ、おいで」


 ポンっ! と音を立てて狐が現れた。この子はアズマ。悪食でなんでも口に入れてしまう。例え人であったとしても。


「アズマ、この人間食べてくれるかい?」


 こやんと鳴いて、がっつき始める。ものの数分で骨だけを残し、全て平らげてしまった。


 残った骨は砕いて畑にでもまこう。骨粉は植物の成長にいいからね。ひとまず持ち帰り、自宅で骨を砕くとしよう。


 先程のやつのアジトの奥を覗くと、大型動物の骨が積み重なっていた。ここら周辺の動物は、この男に狩られてしまったのだろう。この骨たちは丁寧に弔いをしよう。


 だがもう日が暮れてきたので、明日作業することにしよう。村へ顔を出して、今日は変わったことは無かったかと聞く。いつも通りだと聞くと、少し安心する。少し話、帰路へ着く。今日も濃い1日だった。


 

 


 

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