第4話
この村に居着いて数ヶ月が経った。瓦礫を退かすところから始まり、子供たちの遊び相手や料理、洗濯、掃除などの家事、薪割りや食料採集まで。なんでもやった。
長年人と関わってこなかったからだろう。頼られるのが嬉しかった。嬉しそうに顔を綻ばせ、礼を言ってくれる。それがむず痒い程温かくなるのだ。あぁ、やはり人と共に暮らすのはいいものだ。
ここへ来た初日、この村の現状を話してくれた青年はタツキ と言うそうだ。助けた女の子は マツリ 。他の村人は、アキラにサカキ、タマキ、アツト、ライヤ、チタロウ、ハルト、オタミ、ハレタ、ウツギ、ミユキ、カロ、マルネ、ミズキ、サチ、ミナ、ユカリ、サナエ。
合わせて20名。これだけ生き残っていたのは運がいいほうだろう。もう少し早く来れていればもう何人か生きていたかもしれないが。まぁ、仕方のない事だ。タイミングが悪かった。それに尽きるだろう。
村へ行くと、タツキが駆け寄ってくる。
「
「おう、どうしたね?」
「実はな、あんたを祀る社を造ろうと思ってるんだ。本人の希望も含めた社の方がいいだろう?何かあるかい?」
驚いた。まさか自分を祀る社を建てたいと打診してくるとは。だが、あぁ、とても嬉しいなぁ……。
「いいのかぃ?まだ食料問題は解決しちゃいないだろ?」
「大丈夫だ。そこは女衆が手伝ってくれるそうだ。だから俺たちはあんたの社を造ることに専念できるって訳だ」
「そぅか……。希望は特にないねぇ。造って貰えるならなんだって嬉しいさ。俺も手伝うよ」
「そうか?なら手を貸してもらおうかな。あんたの意見を取り入れつつ造ろう」
「あぁ、ありがとうなぁ」
「あんたはこの村の恩人だからな」
礼を言うとこめかみ辺りをポリポリとかきながら、ぶっきらぼうに言う。
こういった所もまた愛いものだと思う。健気で愛おしい、俺が守るべき人間たち。今度は社を造ってくれるそうだ。
うんうん、それならば相応の礼をしなくてはなぁ。何がいいだろうか。五穀豊穣、家内安全、万病平癒……。その辺がいいだろうか。うん、村の周囲に結界を貼っておこう。他の妖にちょっかいを出されないように、俺の加護を十分に発揮できるように。
話終えると、タツキは他の男衆を集め、社造りに着手し始めた。基本的には俺たちがやるから! と追い返されてしまったので、子供たちと遊ぶことにした。
鬼ごっこに始まり、かくれんぼ、花いちもんめ、などなど……。子供はすばしっこいねぃ……。全然追いつけなくて困ったもんだ。だがまぁ、子供たちのきゃらきゃらとした声は微笑ましいものだ。つい日が沈みかけるまで遊んでしまった。
また明日と声をかけ、帰路につく。今日も濃い1日だった。あぁ、それにしても、社を建ててくれるという事には驚いたな。あれだけ弱っていたのに、もうここまで回復するとは。月日が経つのは早いものだ。
ざっと風呂に入り、今日あったことを簡単にまとめておく。この村に来てから習慣になったことだ。ここへ来る前までは書き留めるほどのことは何も起こらなかったから。1行でも書くことがあるというのは、嬉しいことだと気づいた。
さて、そろそろ寝よう。ふかふかの布団を被りくるりと丸まって就寝する。あぁ、温かいなぁ。
―――――――――――――――――――――――
真夜中。バチン!!!! と音が聞こえた。結界を壊そうとしているやつがいる。直ぐに身支度を整え、攻撃されたであろう場所へ急ぐ。
そこには、人型の浮遊霊と呼ぶのがふさわしいであろう それ がいた。真っ白なワンピースに血色のない肌、足は透け浮遊しているように見える。
ドンドンと結界に体当たりをしている。ここで祓ったほうが村人のためだろう。少し力が蓄えられてきたため、この程度ならひとりで十分だ。
指先に意識を集中させる。じわじわと温かくなり熱を帯び始める。その熱を人差し指に集め、銃を打つように発砲する。
「ああああああぁぁぁぁ……」
断末魔のような悲鳴を上げ、姿を消した。
もう一度、結界を貼り直し自宅の方へ足を向ける。
「さっきのあれは、どこから湧いてでてきたのだろう。周辺の森も調査した方がいいな」
村人たちが気づいていないことが幸いだ。睡眠時間は削るものじゃない。いっぱい寝て、いっぱい食べて、いっぱい遊ぶ。それが一番楽しいだろう。この村を守らなければ。俺は神なのだから。居着いた先の村を守るのは神の本懐だろう。
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