第3話
いきなり村の中へ住むのはちょっとハードルが高いので、村の外れの小屋を使わせてもらうことにした。だってほら、今まで1人だったのだ。人の目のあるところだとそわそわしてしまう。
1人で住むには十分な広さの室内に、簡易的なベッド。テーブルにイス、それから棚。住むために必要な家具類は全て揃っていた。
手荷物を片付け、部屋を見渡す。社よりは狭いが屋根があるだけ十分だ。村人たちにも礼を言わなくては。恩人と言われてしまっては、助けない訳にはいかない。
だってほら。俺は神なのだから。神になったのだから、人を救わない訳にはいかない。神は信仰があるからこそ生きていられるのだから。困っているのならば手を貸してやりたくなる。神でなくとも良心を持ったものならそう思うだろう。
彼らの直近の困りごとといえば、洪水と食糧不足だろう。食料の方は俺ひとりでは限界がある。村人たちの手も借りなくては。対して洪水の方はどうにかできるかもしれない。数日かかるだろうができなくは無いはずだ。
村の方へ足を進める。外れの方といってもそこまで遠い訳ではない。数分歩けば村の中心部へ着く距離だ。
村へ行く道のりの最中にも洪水の爪痕がありありと残っていた。なぎ倒された大木、流れ着いたであろう土砂。家の残骸、木材や石材。色々なものが転がっていた。想像していたよりも被害が大きいようだ。
村の中心部には、俺を恩人だと言った青年が居た。まだ体も辛いだろうに、洪水被害の後片付けをしている。健気なものだ。
「よぅ、精が出るねぃ」
「! 昨日の! 小屋はどうだ?あまり使っていなかったからな、壊れていたものとかあれば言ってくれ、直ぐに直そう」
「いやいや、十分だ。それより良いのかぃ?まだ体が辛いだろ」
「まぁ、多少な……。だがやらないとな。老人連中はほとんど死んじまったし、若いやつだってあまり残っちゃいない。」
「ふぅむ、なら俺に任せちゃくれないかい?これでも神の端くれでね」
「あんた神さんだったのか?あいや、敬語の方がいいですね」
「いやぁ、構わんさ! 敬われたって俺にゃ大したことはできんからねぃ」
指先に力を集中させ、瓦礫を退けていく。家の残骸、農具、イスにテーブル、
「ふぅ……。これでだいぶ片付いたかねぇ。こんなもんでどうだい?まだやりたいなら明日以降になるなぁ」
「十分だ……! まさか1日で片付いちまうとは……」
驚きだな!と嬉しそうに笑う。あぁ、そうだ。俺はこの顔が好きだったなぁ。
「明日もまた来るよ。何かしら手伝えるだろうからねぃ」
「良いのか? 助かるよ」
それを数日繰り返した。朝日が昇ると村へ来て、瓦礫を退かしたり、子供たちの遊び相手になったり。料理や洗濯も手伝った。この村の住人たちは皆働き者だ。他人を思える心を持っている。健気で愛おしい人間たちだ。
1度そう思ってしまえば後は早い。彼らのために食糧を取ってきた。また今回のような洪水が起きぬように、川底を下げたり、もう一本川を作ったり。様々なことをした。
彼らは家を失った。職を失った。家族を、友人を、隣人を失った。俺と同じ。家を失い、信仰を失い、隣人を失った。ならば俺が救うしかないだろう。助けるしかないだろう。彼らが俺を信仰してくれれば御の字。例えしてくれなくても良い。これは俺の自己満足なのだから。
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