透明な棺⑦

 今年のクリスマスは最悪だった。お店に行かず、お菓子作りもしなかったせいでパパにもママにも怪しまれるし、弟にはサボりかよって馬鹿にされるし、オーナーからはパパを通して連絡が来るし。

 それでもパパもママもあたしを怒らないし、遠慮がちにうかがうだけで理由を聞きもしない。二人とも穏やかで優しいけれど、腫れ物にでも触るかのような扱いはもうずっとうんざりだった。

 仕方がないじゃん。泣き喚くあたしの後ろで華凛が言う。

 だって、仕方がないじゃん。海凛は選ばれたから、別にどっちだってよかったのにパパに引き取られたから、あたしみたいに死なないですんで。

 それくらいのことで悲劇のヒロインぶらないでよ、と、くるくる踊りながら部屋の壁をすり抜けて深夜の街へと溶け込んでしまう。

 華凛があたしを許さないことくらいはよく分かっていた。あたしは選ばれてしまったし、その上、華凛を知っていただろうあの人にさえ踏み込もうとしたのだから。

 直前でそれを止めた奥さんは、華凛に何かをそそのかされたのかもしれなかった。

 透明な、それでいて先を見通すことなんてできない夜の棺の中に沈み、小さな骨壺に収まっていたのはあたしだったかもしれないのに。


 実母と華凛の死を事故によるものとパパは言ったけど、心中だったんじゃないかとあたしは思っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る