迷う
茶村 鈴香
迷う
そもそも
一丁目劇場7階を
七丁目劇場1階と間違えて
マップを開いてしまい
あのデパートの隣だろうと
だがそこは建て替え中
その隣でもない
探しても探しても
キュービックビルなるものはない
三度ひとに道を尋ね
全身が痛いのは冷えたようだ
30分は歩いたか
地下鉄出口から徒歩7分の筈
渡っても
曲がっても
真っ直ぐ行ってもだめ
一丁目劇場なるところで
喜劇の上演など本当にあるのか
日付は今日で
時間は六時で
間違いないのか
チケットは紙ではなく
スマートフォンのバーコード
マップを閉じて
バーコードのページ
ちょっと待って
バッテリー残量あと僅か
記憶が
ぐるぐるする
スマートフォンを開けないと
何も覚えてない
近眼だから眼鏡をかけて
老眼だから眼鏡を外して
高いビルから降り注ぐ
豪華な明かりに照らされて
私は2時間も歩いている
喜劇とはこのことか
私が笑われる役だったのか
酔ってもいないし
お腹も空いていない
上演後は軽く呑んで食べて
高架下歩いて帰るつもりが
「どうしたらこの役から
降りられるのか?」
交番にも巡査はいない
人々は尋ねると親切に
皆それぞれ違う道案内をする
「緞帳を下ろしてください
次の台詞も段取りも何も知りません」
棒立ちになって上を見上げる
夜通し煌めく人工の灯り
待っても待っても幕は降りない
他人様が見たら笑ってくれるだろうか
キュービックビルの公演は
もう終わるころだろう
電車に乗って帰らねば
この舞台装置に電車があるのならば
迷う 茶村 鈴香 @perumi
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