ガリバーたち

このへんの若いもん、ま、ねえちゃんくらいの歳の子やったらみんな知っとると思うで。タイムパトロールや、とか云うてな、ようちょっかい出すガキを怒鳴り散らしとったわ。でもちっとも怖くあらへん、がりがりのホームレスがえらい妙な格好と喋りで声ェ荒げてもおもろいだけやろ、ガキどももタイムパトロールやてーとか笑っとったわ。タイムパトロールてあれやろ、うちの孫もよう観とったんや、ほれ、あの、えー……、そう、戦隊モンっちゅーんか、トクサツゆうやつ。爺さんもあれ、観てたんやろなあ。ホームレスやったのにな。そう云えばねえちゃん、これなんのテレビやったっけ。


すんませんねえ、どこに住んでたかは、思い出せません。河川敷のどっかなんやけど、……場所までは。段ボールみたいななんやよーわからん板で家つくってたんは憶えてんねやけど。もしかして、タイム爺さん、あ、ぼくらが子供のときはそう呼んでたんですけどね、あの爺さん、住んでるとこいちいち変えてたんとちゃうかなあ。うん、たぶんそうです、隣町でもタイム爺さんおったゆうて、一回騒ぎになったんも、住処がいくつもあったからやと思います。それにしても役所のひとも大変ですねえ、あんな昔のホームレスの行方、調べはるなんて。


めちゃくちゃ騒ぎになりましたよ。あんまりガラのええ町ちゃいますけど、死体が三つも四つも出てくるなんてこと、いままでありませんでした。中州にかろうじて引っかかったでろでろの土左衛門が四つ。見ようと思っても見られへん光景ですけど、見れたとしても、もっかい見るのはカンベンです。もしかしたらもっとたくさんあって、四つ以外は流されたんかと思うと、ぞっとしません。ええ、当然捜査はされましたけど、衣服も所持品もないし損傷もひどくて身許の特定は依然、できてません。一応解剖に回されたんですけど……、はい、詳しい結果はそちらに。でも、解剖のセンセーも信じられヘん云うてました。骨格が丸っきり同じ死体が四つ。ああ、本庁の捜査官の方なら、そう云う変な事例もご存知ですか。


懐かしいなあ、一回、あの爺さんのあとをつけたことがあるんですよ。なんやったんやろな、友だちはみんな馬鹿にしてたけど、ぼくは爺さんの必死さが嫌いになられへんかった。やから、一日中爺さんを見張ってたんです。いつもと変わらず、川辺をふらふらして鉄くず集めたり、河原を掘り返したりしてて、とくに収穫はなかったけど、夜、爺さんの寝床に忍び込んだのは唯一の発見ですかね。どうも爺さん、あのお手製の小屋に、もうひとりの爺さんを匿ってたみたいなんです。小声の会話を聞きました。でも、ああ、たいして遅くもないのになんやいつの間にかうとうとしたみたいで、気付いたら交番で寝かされてました。河原で寝てるのを見つかったらしいです。翌日、爺さんの小屋まで行ったら、綺麗さっぱり、小屋ごとなくなってましたわ。どうです、怪談っちゅーには、弱いですかね。


内緒やで。うん、おれ、見た。あの橋の下のところに、でっかいまん丸のロケットが埋まってるの。誰にも話してへん。なんで、ねえちゃんおれが知ってるってわかってん。まあええわ、うん、そう、ロケット。ロケットちゃうかも知れんけど、なんか、丸い。自転車で河床まで落ちたとき見つけてん。窓もついてて、中の方は、前にテレビで観たスペースシャトルの中身そっくりやったもん。誰か使ってる感じちゃうかったけど。ずっと埋まってたんやと思うで。大発見やろ。な、ホンマにあの光る板、くれるんやんな。そうそれ。なんや、光るとここっち向けて……。


「はい、残りは九八三体です。さしあたり、報告まで」


(初出:『蒼鴉城 第四十六号』京都大学推理小説研究会、2020年)

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