第一章2話 『チョップは突然に』


「と言われましても、こちらもお仕事なんで……」


「無一文って惨めな自己紹介したよねぇ!」


つい5分前に状況を説明したばかりだ。

無一文であるということを知ったうえで料金を取り立ててくる。実におっかない。


「まぁそう言うと思ってました。そんなあなたに!出世払いシステムをご紹介します!」


「う、うぉぉぉ!出世払いあるんだ!」


仕事で稼いでから料金を後払いできるというシステムだ。

だがこういうものは少し後払い料金がかかるものだ。


「それでその出世払いの場合はどれくらい料金が増えるんだ?」


「はい!1日プラス10%です!」


「ヤクザかぁ!」


仕事の案内料金がいくらなのかはまだ聞いてないが、1日10%も増えられるのはたまったもんじゃない。


「嘘ですよぉ、出世払いシステムなら、料金は上乗せされませんよ」


「なにそれ!神システムじゃん!」


出世払いは言ってしまえば後払いだ、なのに後払い料金がかからないなんて善良すぎるよ


いや待てよ、そんな優しいことなんてあるか?これは裏があるな……さては料金自体が馬鹿みたいに高いんだろ!


「君ぃ!仕事を見つけてくれてありがとう!それでいくらなんだい、案内料金は!」


「銀貨2枚頂きますね」


「銀貨?」


異世界の定番の一つ、貨幣が金貨やら銀貨やらというものだ。

にしても銀貨……いくらなんだ、高そうだ


「そこのリンゴ、何個で銀貨1枚だ?」


「リンゴでしたら10個で銀貨1枚ですよ」


「つーことは銀貨はだいたい1000円くらいか……」


銀貨2枚だからとりあえず耐えたか……え?これだけで2000円?元の世界なら誰も来ねえぞ


「あ、ありがとうな、そしたらこの至高の晩餐ってとこに行ってみるよ」


「はーい頑張ってくださいねー、料金は必ずですよー」


「おう!」


職場の内容が書かれた紙をもらって建物を出る。


よし、とりあえず紙に書かれた地図をもとに至高の晩餐とやらに行ってみよう。こんなにあっさり仕事をゲットできそうなんて


それにしてもどんな所なんだろう、にぎやかな雰囲気だったらいいな


仕事案内所を出て、丘の上の巨大な城の方向に歩く。いかにもこの国の中央といった方向に向かっている。


そういえばこの国は円形の城壁に囲まれているようだ。おそらくかなり広い国だ。


────そうして歩くこと30分————


「やっと着いたー、ここが至高の晩餐か……思ってたのと違って結構普通だな」


木造の建物で正面には腰から首元までのスイングドア、建物のおでこには至高の晩餐と書かれている。


「にしてもまだ開店していないのか?店の中から音一つしないが……」


スイングドアなので店の中の音は聞こえるはずであり、中の様子もうかがえる。


だが物音ひとつせず、店内は電気すらついていない。


「太陽の位置的に午後3時あたりか、ランチが終わってディナーの準備中ってことか」


こっちの世界でも中途半端な時間に飯を食いに来る奴なんていないということか。

共通点が見つかるたびに異世界に対する緊張は解れていく。


だったら面接にはちょうどいい時間だろう。おそらく店長くらいはいるだろうしとりあえず中に入ってみよう。


「お邪魔しまー」


「くせ者ぉぉぉお」


「どぉうふっ」


身を守る動作、その前段階である危機察知を脳が起こすのと同時に強烈な痛みが頭頂部を襲う。


何が起きたのか分からない。


ススムは頭頂部を抱えながら涙目で正面に立っている何者かを視認する。


「だ、誰だおめぇ、急に頭を、俺の頭をぉ」


「俺はマルコ、ここの店長だ」


目の前のおっさんは店長だった。身に覚えのある服装だなと思ったら紺色の着物を着ている。


しっかし初対面で、いや対面すらしていないのに天井から降って来るや否や、勢いのままチョップするとかいかれてやがる。


「なぁにしに来たんだ俺の店にぃ!」


「あのっ、あのっ、ここで働かせてくださいィっ!」


「いいよっ!」


「ふぇ?」


展開が早すぎて頭が追い付かない。

つまり、俺のことを不審者だと思ってチョップしたが、働きたいということなら面接なしで即決。


用心深いのか不用心なのかよくわからん人だ、このおっさん。


「あと1時間後には開店だ、さっさと準備せぇーい」


マルコは大きく右手を上に振り上げ、手を手刀の形にする。


「ラァジャァァ!」


手が本物の刀のように見えた。てか今からもう一回仕事案内所で違うとこ紹介してもらった方がいいのでは?


ブラック企業があるならここはレッド企業だ。血が出るほど働かされる、というより一方的にチョップされて血だらけになる職場だ。


「お、お客さんで、キャァッ」


おっさんのチョップの間合いから離れようと店の奥にダッシュした瞬間、奥の部屋から一人の少女が出てきて衝突した。


「いってぇ、大丈夫ですか!」


倒れて驚いた顔をしている少女と目が合う。


まるで白雪姫、戸惑っている顔ですら絵画の名作のように整った顔立ち


「は、はい、大丈夫です……お客様?」


「そいつは今日から、いや今から働くことになった……そういや名前なんだ?」


こっちに来てから一度も名乗っていなかった名前。

ガキ見たいなおっさんと美しすぎる少女の前で初公開。


「涼風進!東の島国出身!この至高の晩餐に心臓を捧げまグッ」


「逆だススムぅ!」


心臓を捧げることを意味するポーズ。

やや左にある心臓辺りに右こぶしを当てる敬礼みたいなものだ。アニメを見てる君なら見覚えがあるはずだ。


だが俺はその敬礼を誤った。左の拳を右胸に当てたのだ。


「ぉ俺とッ、した、ことがッ……」


「ススムさんっ!」


おっさんのジャンプキックを食らってのたばっているススムに駆けよって、必死に名前を呼んでくれる。


この子好きだわ……そうして意識は羽を生やして天高く羽ばたいていったのだった


おしまい


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