第五章 : 桜の別れ、そして赤い軌跡
春風に舞う桜が校庭を薄紅色に染める中、卒業式が終わりを迎えた。
壇上に立つみゆきが、ゆっくりと息を吸い込み、体育館を見渡す。
「みんな、今日までありがとう。うちがここに立てるんは、みんなが支えてくれたからや。」
堂々とした声が体育館に響き渡る。
みゆきは微笑みながら、続けた。
「これから先、どんな壁があっても、うちは前に進む。せやから、みんなもそれぞれの道で頑張ってや。大事なんは……今日も生きてる、ちゅうことやから!」
最後の言葉に場内が一瞬しんと静まり、次の瞬間、大きな拍手と笑い声が巻き起こった。
その中でナオユキは、みゆきの後ろ姿に目を奪われていた。
1桜の下での誓い
卒業式後、みんなは校庭の大きな桜の木の下に集まった。
ピンクの花びらが風に揺れる中、みゆきが亡き兄の形見である赤いバイクの傍に立っていた。
「みゆき姉、そのバイクで東京まで行くんか?」
ナオユキが声をかけると、みゆきは振り返り、笑顔を見せた。
「せや。兄貴がいつも乗っとったバイクや。この赤いバイクと一緒に、うちも新しい人生始めるんや。」
赤いスカジャンを羽織り、バイクをポンと叩くみゆきの姿はどこか誇らしげだった。
ナオユキは目の前にいる彼女の強さに、何も言えなくなった。ただ、その背中がどれだけ遠く感じても、手を伸ばしたい衝動に駆られる。
「ところでなな、剃り込み増えてへん?」
みゆきがニヤリと笑って突っ込むと、カケルがすかさず茶々を入れる。
「おいナナ、もう生えてこんのちゃうか?」
「アホか! ちゃんと生えてくるわ!」
必死に否定するナオユキに、みんなが声を上げて笑った。
2みゆきの感謝
笑い声が落ち着いた頃、みゆきは改めて全員を見渡し、静かに口を開いた。
「りこ、あんず、カケル兄、まつ、たけ、うめ……ほんまにありがとうな。」
みんなの名前をひとりずつ呼ぶ彼女の声には、どこか寂しさと感謝が入り混じっていた。
そして、最後にナオユキの名前が呼ばれた。
「なな、あんたはほんまにアホやけど……頼りになる。これからもみんなのこと、よろしく頼むで。」
彼女の目が一瞬潤んだ気がして、ナオユキの胸が苦しくなった。
何か言おうと口を開いたが、結局言葉にならなかった。
3赤い軌跡
3月のある朝。みゆきがついに東京へ出発する日が来た。
全員が駅ではなく、彼女の家に集まり、最後の見送りをする。
みゆきは赤いスカジャンを羽織り、バイクにまたがると、ヘルメットを手に持ちながら笑顔を見せた。
「ほな、行くで! あんたらもちゃんと前に進むんやで!」
エンジン音が響く中、ナオユキが突然声を張り上げた。
「みゆき姉!」
振り返った彼女に、ナオユキは真剣な表情で言う。
「俺は……みゆき姉みたいにカッコええ人間になりたい。だから、待っとけよ。次会うときは、絶対カッコええ男になったる!」
その言葉に、みゆきは少し驚いたような顔をしたが、すぐに優しい笑顔を浮かべた。
「ほな、楽しみにしとるわ。」
バイクのエンジンが唸り、みゆきは赤いスカジャンをなびかせながら走り出した。
背中が小さくなるまで見送ったナオユキは、静かに涙を流す。
「あほか、お前まで泣いてどないすんねん。」
カケルが肩を叩き、りこやあんずも笑顔で励ます。
「これからや、ナナ。あんたも前に進まなあかんねんで。」
桜吹雪が舞う中、ナオユキは拳を握りしめた。
「みゆき姉みたいに……いや、それ以上にカッコええ人間になったる。」
赤い軌跡を追いかけるように、彼の新たな春が始まった。
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