第三章 : 赤いバイクと夏の軌跡
1. 夏休みの始まり
夏休み初日、僕――ナオユキと親友のまつ・たけ・うめは、テストの成績に散々文句を言い合いながら学校帰りの商店街にいた。そこへ、りこ、もも、あんずの女子3人組が「赤点回避した!」と叫びながら走り寄ってくる。
「お前ら何叫んでんねん、目立つやろ!」
とツッコむうめを無視して、ももが胸を張る。
「夏休み補習なし!これは遊べという天の采配やで!」
そして、話はなぜか「夏休み初日にみんなで海に行こう!」という結論に。
「けど、車どうするん?」
僕がそう言うと、あんずが小さく手を挙げた。
「うちのお兄ちゃんに頼んである。」
「え!兄貴に頼んでんのかよ…」
うめがあんずをじとーとした目で見ているが実はあんずとうめは姉弟である。
「どうしたん?なんかあかんの?」
僕はどうしてそんな嫌そうな顔するのか気にしてるとまつがこそっと耳打ちしてきて
「実はうめの兄貴はバリバリの元ヤンでめーーーーーちゃイカついんや、俺も初めて会った時殺されるおもたからななもぜってぇービビるぜ!」とニヤついた顔で語りかけてきたのでどんな人なんだろうと内心ドキドキとワクワクだった。
2. 保護者は”元ヤン”保育士
当日朝、集合場所に現れたのは、見た目も中身もギャップだらけのあんずのお兄さん・カケルだった。
「カケル兄ちゃん、よろしくな!」
僕が軽く挨拶をすると、彼はサングラス越しにちらっと僕たちを見て、
「まぁ、子どもらの面倒見るのも保育士の仕事やからな。」
と低い声で言った。
――正直、怖い。
サングラスを外せば爽やかな顔立ちなのに、首元の薄い刺青や、腕に残る古い傷跡が不良時代を物語っている。でも、助手席にあんずが座り、兄妹でじゃれ合う姿は微笑ましく、なんだか安心する。
3. 赤いバイクとみゆき姉
海辺に着くと、砂浜の向こうから赤いバイクが近づいてきた。颯爽と現れたのは、みゆき姉だった。
「……すごい。」
僕の目に映るみゆき姉の姿は、キラキラ輝いていた。風を切る彼女は、まるで自由そのものだった。
みんなが拍手し、歓声をあげる中、みゆき姉はバイクを降りて僕たちのほうへ歩いてきた。
「相変わらずかっこいいな、みゆき姉!」
まつが手を振ると、みゆき姉はヘルメットを外し、髪をなびかせて笑った。
そのバイクには、何か特別な雰囲気があった。大切に磨かれた車体には小さな傷がいくつもあって、みゆき姉の想いが込められているようだった。
「あのバイク、どんだけ手入れしてんの?」
僕が聞くと、みゆき姉は少し寂しそうな顔で言った。
「これ、私の兄貴の形見なんよ。」
みゆき姉の兄は、数年前に事故で亡くなったという。彼が生前最後に乗っていたのが、その赤いバイクだった。
「兄貴はいつも言ってた。『人生は一回きりやから、とことん生きろ』って。それ以来、私の口癖になったんや。」
「生きてるなぁ、ってやつ?」
りこが小声で言うと、みゆき姉は微笑んだ。
「そう。それを思い出すためにも、このバイクを手放さないでいるんよ。」
ナオユキは何も言えずにただただみゆきを見つめることしかできなかった。
「ところで…ナナ、お前、海初めてなんか?」
「うん、実は。」
「ほな、一緒に走ってみるか?」
僕が驚いた顔をすると、みゆき姉は少し微笑んで言った。
「夏の海は、ただ見てるだけやともったいないで。」
みゆき姉は僕の手を引き、バイクの後部座席に乗せた。バイクに触れるたび、まるでみゆき姉の過去を知るような気がした。
4. 笑いと涙と、青春の時間
その日の海では、みんなで波に飛び込んだり、ビーチボールで遊んだりして、笑い声が絶えなかった。
まつ・たけ・うめの漫才みたいなやりとりに、りこ・もも・あんずも腹を抱えて笑っていた。
「おい、たけ!浮き輪使いすぎて足ついてるやん!」
「うるさい、俺は安全第一や!」
「うめ、あいつ浮き輪のプロ目指してるらしいで!」
そのやりとりを見て、カケル兄がぽつりと言った。
「青春やなぁ。」
その言葉に、一瞬場が静まり返る。
「なんや、お兄ちゃんも混ざる?」
あんずがからかうと、彼は苦笑いしながら砂浜に座り込んだ。
「俺も昔、こんなんやったわ。楽しい時間が、ずっと続くと思ってた。」
その言葉にはどこか切なさがあり、みゆき姉の赤いバイクに込められた想いと重なった気がした。
5. 夜の焚き火とみゆき姉の言葉
日が沈むと、みんなで焚き火を囲んだ。炎がはぜる音だけが響く中、みゆき姉がふと語り始めた。
「私、ずっと兄貴の死を引きずってたんよ。でも、バイクを磨くたび、兄貴が言った言葉を思い出すんよね。『生きてるってことは、それだけですごいことなんや』って。」
彼女の瞳には、炎の揺らめきが映っていた。
「だから、みんなも今日を大切に生きてや。何気ない瞬間が、一番の宝物になるから。」
その言葉に、誰も何も言えなくなった。みゆき姉の言葉が胸に深く響き、僕たちはその時間を忘れられないものとして刻んだ。
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