味と六
3
「……和虎さん」
倒れ込んでしまった翌日、座っていた和虎に、六姉妹の六女である雷々が声をかける。
「は、はい!」
和虎がすぐに立ち上がる。雷々が苦笑する。
「そんな鬼教官への対応みたいなリアクションしなくても良いですよ……」
「は、はあ……」
「ウチは年下なんだから、もっとリラックスして接してください」
「そう言われましても……執事ですから」
「二日続けて倒れ込む人が執事? なんだか頼りないなあ……」
「うっ……」
和虎が自らの胸を抑える。雷々が笑う。
「ははっ、嫌だな、冗談ですよ、冗談」
「えっ……」
「ちょっとからかっただけです」
「はあ……」
「それよりもですね……お昼、まだですよね?」
雷々が小首を傾げる。
「あ、ああ、そうですね?」
「今日はウチが作ってあげますよ」
「そ、そんな、悪いですよ!」
「いや、料理は好きですから。それに和虎さん、まだこっちに来たばかりでしょう。色々疲れが溜まっていると思うので、今日は休んでください」
「で、でも……」
「でももへちまもないです!」
「は、はい……」
「何か食べたいものとかあります?」
「えっと……カ、カレーライスですかね……」
「カレーですね、オッケー、ちょっと待っていてください……」
「……」
「……出来ました」
雷々がカレーライスをテーブルの上に置く。
「お、美味しそうですね」
「そうじゃなくて美味しいですよ」
「す、すみません……」
「冗談ですって。いちいち謝らないでくださいよ。さあ、どうぞ」
「い、いただきます……うん、美味しいです……!」
和虎がカレーを食べて頷く。それを見て、雷々が笑顔になる。
(こういうのはシンプルイズベスト! やっぱり胃袋を掴んだもん勝ち! 和虎さん、あなたの『味覚』に訴えていきます。さあ、さっさとウチになびきなさい……)
「か、和虎殿!」
「!」
和虎が顔を上げると、そこには六姉妹の五女、陰陽が立っていた。
「う、う~ん……」
「え、ええ?」
和虎が視線を向けると、持っていた端末で顔を覆ってしまう。その行動に和虎が戸惑う。
「……陰陽姉、シャイなんだから、そもそも無理ゲーなんじゃない?」
雷々が冷ややかな視線を送る。陰陽が言い返す。
「シャ、シャイじゃないでござるよ!」
「根っからの陰キャなんだから……」
「ぐはっ⁉ も、もうちょっとオブラートに包んで……」
「包んだんだけど、否定してくるから」
「くっ……確かに拙者は陰キャ……しかし、この姿ならば……!」
陰陽が端末を開く。そこには美少女キャラが映っている。和虎が困惑する。
「え、ええっと……」
「大人気Ⅴチューバー、『山梨伊那りんご』! このキャラは陽キャ!」
「は、はあ……」
「よう、ごきげんどうだい⁉ オイラは元気だぜ!」
「は、はい、元気です……」
「……」
「………」
「も、もしかしてドン引きしてる⁉」
「もしかしなくても初見の人はもれなくドン引きしてるわよ」
「はうっ⁉」
雷々に追い打ちをかけられ、陰陽は胸を抑えてうずくまる。
「だ、大丈夫ですか?」
(聞こえますか……そなたの脳内に直接話しかけているでござる……拙者はそなたの『第六感』に訴えます……さあ、なにか食べたいものはないでござるか?)
(え? えっと……『ファミチキ』食べたい……)
(拙者の行動範囲内にファミマはないでござる……)
(あ、そうですか……)
テレパシーでのやりとりはあっけなく終わった。
激烈六姉妹の過激かつ刺激的な日常!? 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji
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