聴と視
2
「和くん」
鼻血を出して気絶した次の日、リビングにいた和虎に六姉妹の次女、林音が声をかける。
「はい!」
和虎は勢いよく立ち上がる。林音がやや面食らう。
「げ、元気良いね~大丈夫? 昨日気を失ったみたいだけど……」
「め、面目ありません……でも、大丈夫です!」
「まあ、あんまり無理しないでいいよ、ほら、ソファに座って座って」
「あ、ありがとうございます」
林音に促され、和虎はソファに腰を下ろす。
「……実はさ」
「はい……」
「曲を聴いて欲しいんだよね」
「曲?」
「そう、新曲」
「はあ……」
「……駄目かな?」
「い、いえ! ただ、良いんですか? レコード会社の方とかじゃなくて……」
「一般リスナーの忌憚なき意見を聞きたいんだよ~」
「そうですか……あまり参考になるようなことは言えないと思うのですが……」
「まあ、そんなに構えなくても良いよ、素直な感想を言ってくれれば良いからさ」
「わ、分かりました……」
和虎が頷くのを見て、林音が笑みを浮かべる。
「よし、それじゃあ、聴いてね……」
林音がアコースティックギターを構えて、和虎の隣に座る。
「あ、あの……」
「そんなに構えないで良いって」
「ち、近くないでしょうか?」
和虎は困惑する。ほとんど林音の吐息が耳にかかるような位置なのである。
「よく聴いて欲しいからさ……」
「は、はあ……」
「行くよ……~~♪」
「……」
(僕が自信あるのはやっぱり声! この至近距離で色々と囁かれたら、なかなか大変じゃない? 和くん、君の『聴覚』に訴えていくよ! 僕を忘れなくさせてあげるよ!)
「む、むう……」
和虎が端正な顔をだらしなく崩す。
「和ちゃん!」
「はっ!」
声をかけられ、和虎がはっと我に返る。六姉妹の四女、山河が声をかけてきた。
「あのさ……」
山河がバスローブ姿で和虎に近づく。
「え?」
「それっ!」
「‼」
山河が和虎の目の前でバスローブを取る。バスローブの下は、豊満な肉体を包んだ黒ビキニ姿であった。山河が笑いながら告げる。
「これ、今度の同人イベントで販売する写真集で着ようと思っている水着なんだけど、どうかな? ちょっと大人っぽ過ぎる?」
「い、いえ、よく似合っているかと思います……」
和虎は視線を逸らしながら、感想を述べる。
「本当~?」
「ほ、本当です!」
「それじゃあさ、このスマホで良いから、アタシを撮ってくれない?」
「ええっ⁉」
山河は驚く和虎に自らのスマホを渡す。林音が声を上げる。
「ちょっと、山河ちゃん! 僕の曲を披露しているところだったんだけど?」
「ああ、そのままで良いよ、良いBGM代わりになるから」
「なっ……」
「ポーズの指定とかあるなら応じるよ? こういうの?」
「! え、ええっと……」
林音の抗議を無視して話を進める山河が胸の谷間を強調したポーズを取ってみせる。それを目にした和虎は狼狽する。
「それとも……こういうの?」
「⁉」
山河が思いっきりお尻を突き出したポーズを取る。
(やっぱり、姉妹一番のプロポーションを活かさない手はないよね~。和ちゃん、キミの『視覚』に訴えていくよ~。夢中にさせてあげるんだから♪)
「どわあっ⁉」
「あ、あれ?」
「混乱して頭がショートしてしまったみたい……今日はドローかしらね」
ソファに倒れ込んだ和虎を見て、山河は戸惑い、林音は苦笑する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます