嗅と触
1
「和虎くん」
リビングにいた和虎に長女の風香が声をかける。
「はい」
「ちょっと付き合いなさい」
「はい……」
風香に連れられて、和虎は外に出る。風香はぴっちりとしたライダーズスーツ姿だ。
「ツーリングよ、ついてきなさい……」
風香は大型バイクに跨る。和虎が戸惑う。
「えっと……」
「趣味でもう何年も乗っているの、執筆の良い息抜きになるのよ」
「い、意外です……」
「よく言われるわ」
風香がヘルメットを被りながら笑う。和虎にもう一個のヘルメットを渡す。
「……ふ、二人乗りってことですか?」
「安全運転だから安心してちょうだい」
「はあ……」
「さあ、乗って……」
「し、失礼します……」
和虎が風香の後ろに座り、遠慮気味にお腹の辺りに両手を回す。
「しっかり掴まっていてね……それじゃあ、行くわよ!」
風香が出発する。法定速度はしっかり守っていたが、運転技術の高さ故であろうか、和虎は心地よい風を感じることが出来た。
「うわあ……」
「ふふっ、なかなかない経験かしら?」
「シベリア横断の時とはまた違った心地よさです」
「シ、シベリア⁉ アメリカ大陸とかならともかく……後でちょっと話を聞きたいわね」
風香と和虎はツーリングを一通り楽しみ、帰宅した。リビングに戻った和虎が礼を言う。
「ありがとうございました」
「和虎くん、ちょっと……このライダーズスーツ、背中のチャック下ろしてくれる……?」
「ええ? わ、分かりました……うおっ⁉」
遠慮がちにスーツのチャックを下ろす和虎の鼻に独特の匂いが突き刺さる。
(直接的なのはアレだからね……私、汗の匂いには結構な自信があるの! 和虎くん、貴方の『嗅覚』に訴えていくわよ! 私の虜にしてあげる……!)
「うおおっ……」
和虎が恍惚とした表情を浮かべる。
「和虎!」
後ろから声がかかる。和虎が正気に戻る。
「はっ!」
「ちっ……」
風香が舌打ちする。和虎が振り返ると、そこにはタンクトップとハーフパンツ姿の六姉妹三女、火織が立っていた。比較的露出度が高い服からよく引き締まった肉体が覗く。
「な、なんでしょうか?」
「ふむ……」
火織は近づいてきて、和虎の体を上から下までマジマジと見つめる。
「あ、あの……?」
「なかなか鍛えているみてえだな。スポーツかなにかやっていたのか?」
「特にこれというのは……トレーニングはわりと欠かさずやっていましたが……」
「ほう……」
「えっと……」
「よし、今からオレとスパーリングをやるぞ」
「ええっ⁉ さ、さすがにちょっと無理では……」
「本気ではいかねえよ、軽くだ、安心しろ」
「は、はあ……」
「よっしゃ、行くぞ!」
「あ……!」
火織が和虎からあっという間にマウントを取る。
「へへっ……」
「くっ……!」
和虎がなんとか抜け出そうとする。火織は口笛を鳴らす。
「~~♪ ここから抵抗するとは……その根性、気に入ったぜ!」
「!」
火織が自らの体を絡みつかせて、和虎の自由を奪う。
「へっ、これならどうだ?」
「ぐっ……」
(筋肉だけじゃなく、オレも結構あるもんはあるんだよ――なにかとは言わねえが――和虎、てめえの『触覚』に訴えていくぜ! オレのもんになりな!)
「む、むおお……」
和虎は鼻血を出して意識を失う。火織は絞め技を解いて立ち上がる。
「ちっ、ちょっとばかり刺激が強すぎたか……」
「今日はノーゲームね……」
火織と風香がそれぞれ両手を広げる。
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