嗅と触

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「和虎くん」

 リビングにいた和虎に長女の風香が声をかける。

「はい」

「ちょっと付き合いなさい」

「はい……」

 風香に連れられて、和虎は外に出る。風香はぴっちりとしたライダーズスーツ姿だ。

「ツーリングよ、ついてきなさい……」

 風香は大型バイクに跨る。和虎が戸惑う。

「えっと……」

「趣味でもう何年も乗っているの、執筆の良い息抜きになるのよ」

「い、意外です……」

「よく言われるわ」

 風香がヘルメットを被りながら笑う。和虎にもう一個のヘルメットを渡す。

「……ふ、二人乗りってことですか?」

「安全運転だから安心してちょうだい」

「はあ……」

「さあ、乗って……」

「し、失礼します……」

 和虎が風香の後ろに座り、遠慮気味にお腹の辺りに両手を回す。

「しっかり掴まっていてね……それじゃあ、行くわよ!」

 風香が出発する。法定速度はしっかり守っていたが、運転技術の高さ故であろうか、和虎は心地よい風を感じることが出来た。

「うわあ……」

「ふふっ、なかなかない経験かしら?」

「シベリア横断の時とはまた違った心地よさです」

「シ、シベリア⁉ アメリカ大陸とかならともかく……後でちょっと話を聞きたいわね」

 風香と和虎はツーリングを一通り楽しみ、帰宅した。リビングに戻った和虎が礼を言う。

「ありがとうございました」

「和虎くん、ちょっと……このライダーズスーツ、背中のチャック下ろしてくれる……?」

「ええ? わ、分かりました……うおっ⁉」

 遠慮がちにスーツのチャックを下ろす和虎の鼻に独特の匂いが突き刺さる。

(直接的なのはアレだからね……私、汗の匂いには結構な自信があるの! 和虎くん、貴方の『嗅覚』に訴えていくわよ! 私の虜にしてあげる……!)

「うおおっ……」

 和虎が恍惚とした表情を浮かべる。

「和虎!」

 後ろから声がかかる。和虎が正気に戻る。

「はっ!」

「ちっ……」

 風香が舌打ちする。和虎が振り返ると、そこにはタンクトップとハーフパンツ姿の六姉妹三女、火織が立っていた。比較的露出度が高い服からよく引き締まった肉体が覗く。

「な、なんでしょうか?」

「ふむ……」

 火織は近づいてきて、和虎の体を上から下までマジマジと見つめる。

「あ、あの……?」

「なかなか鍛えているみてえだな。スポーツかなにかやっていたのか?」

「特にこれというのは……トレーニングはわりと欠かさずやっていましたが……」

「ほう……」

「えっと……」

「よし、今からオレとスパーリングをやるぞ」

「ええっ⁉ さ、さすがにちょっと無理では……」

「本気ではいかねえよ、軽くだ、安心しろ」

「は、はあ……」

「よっしゃ、行くぞ!」

「あ……!」

 火織が和虎からあっという間にマウントを取る。

「へへっ……」

「くっ……!」

 和虎がなんとか抜け出そうとする。火織は口笛を鳴らす。

「~~♪ ここから抵抗するとは……その根性、気に入ったぜ!」

「!」

 火織が自らの体を絡みつかせて、和虎の自由を奪う。

「へっ、これならどうだ?」

「ぐっ……」

(筋肉だけじゃなく、オレも結構あるもんはあるんだよ――なにかとは言わねえが――和虎、てめえの『触覚』に訴えていくぜ! オレのもんになりな!)

「む、むおお……」

 和虎は鼻血を出して意識を失う。火織は絞め技を解いて立ち上がる。

「ちっ、ちょっとばかり刺激が強すぎたか……」

「今日はノーゲームね……」

 火織と風香がそれぞれ両手を広げる。

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