新たな王

 それから歳月が経ち──

 ロゼムはレシスの基地でブラーゴ行きの最後の避難民を乗せた戦艦を見送り、カイキスにある記念碑に花を添えて祈った。

 レナン女王は亡くなりエルト王との思い出の地であるカイキスに記念碑が建てられた。 

 そこはトオヤが初めてヴァンジュで降りた地だった。

 ロゼムはカイキスの町に行きゾロハと会った。

「お妃になられて忙しいでしょう」

「各地の町へ出かける機会が増えました。今は多くの事を学びたいです」

「そうですか。お顔の色も良さそうで何よりです。レンラス王子はお元気で?」

「元気過ぎて大変ですが出来るだけ連れて行くようにしています。色々な景色を見て欲しいので」

 少し日焼けしたロゼムは微笑んだ。

 王となったダンルは軍の統括をナスラに任せて将軍職を退いた。

 ミッドレは軍を辞めてプリアスタから遥か西部にある農業施設で働いて過ごした。

「元気かい。ベルック兄さん」

 基地の施設の中で立つペルトーレにシャルンは声をかけて奥の部屋に入った。

 ゾレスレーテの次世代機開発計画のリーダーをシャルンは務めていた。

 ガネロッサ軍との小競り合いが未だに続いている現在、ゾレスレートは残存のゴレットと有人機に改造したコルーロが数機稼働している状態だった。

 一方、ブラーゴではドルギ王とルーシ王妃の間にベルダ王子が生まれた。

 王都レーデをはじめ各地の復興はまだまだの状態でブラーゴ軍が各地の都市を回って作業に当たっていた。

 ザッズは軍を辞めてバヤナで復興作業をしながら暮らした。

 メイセアとブラーゴは休戦状態が続いているが、相変わらず過去の歴史でいがみ合う者がいた。

 又、ブラーゴの住民が避難した時にメイセアの住民から受けた非難や差別的な言動から若い世代に新たな憎悪と対立が生まれた。

 星の間の対立だけでなくメイセアでは住民の王族に対する不満が募りブラーゴではジルマストの火災で先住民とメイセアからの移民との間で軋轢が生まれて多くの問題を抱えながら時間が過ぎていた。

「いつかまた戦いが起きたとしても我々はその時代を生きるしかない。己の無力さを悔やんでな。その繰り返しだ」

 ロゼムを見送ってゾロハは歩きながら呟いた。

 ブラーゴの王都レーデにある基地にメイセアから貨物船が到着した。

 船から物資が出されている横でジェイスがレジーアと書類の確認をした。

「荷物はいつも通りね」

「ああ。いつも通りあんたも綺麗だな。ドルギ王の事がなければ口説いているよ」

「あら、私は構わないわよ。ドルギも気にしていないから」

「ハハハ、あんたの危険な香りに負けたら命がけでお願いするぜ」

 ジェイスが笑うとレジーアは「いつでもいいわよ」と微笑んだ。

「さてと。じゃあ行ってくるか」

 端末を抱えてジェイスは手を振った。

「そう。気をつけてね」

 レジーアは笑顔で小さく手を振って答えた。

「相変わらず軽いアンカムだね」

 シャイザが言うとそばに立っていたドータスが「ああいうのが長生きするんだな」と呆れた。

「いいじゃない。私は嫌いじゃないわよ」

 レジーアは端末を操作しながら笑って言った。

 貨物船の上から小型機が発進した。

 大規模な消火作戦の影響で厚い雲は散り散りになり恒星グロンの光が差す不思議な色の空が広がっていた。

 小型機が氷山の前に着陸した。

 氷山の周りには地球で見かける様な野草が浅く茂っていた。

「よお。元気か」

 ジェイスは小型機から降りて氷山に声をかけた。返事はなかった。

 持っていた端末でメッセージを送った。

 送信先はヴァンジュにいるトオヤ。氷山の中で眠っている少年である。

「また来るからな」

 ジェイスは小型機に乗って基地へ戻った。

                                   (了)

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白銀のヴァンジュ 久徒をん @kutowon

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