業火(11)
トオヤが乗ったペルトーレがボルザットを抱えて別の港に停泊しているブラーゴ軍の
「ドルギ王子はいるかい」
トオヤが無線で呼び掛けた。
「私だ。アンカムのトオヤか。何の用だ」
「僕を殺さずメイセアに帰してくれたお礼をしたくてね。カリューダの居場所を調べたい」
「律儀な奴だ。ついでにあの色ボケ司令官を援護している礼も言って欲しいもんだな」
ドルギは笑って答えた。
「それは本人に言ってくれよ。時間がないから説明する」
ペルトーレがボルザットを経由して基地のシステムに侵入して内部のカメラと認証機能から探し当てる。その為にボルザットのアクセスレベルを上げてペルトーレを繋いだメログデンのシステムで探すという段取りだ。
「カリューダもルーシ姫もどこかに隠れている。しかしカリューダの側近は近くを見回っている筈さ。カリューダに親しい者を片っ端から探せばいい。但し撹乱する為に映像が細工されている可能性がある。そこは自分の目を信じるしかないけどね。基地から受信できるのはボルザットとペルトーレと船の処理能力を考えると今回だけだ」
「単純ではあるが有効な作戦だ。しかしいいのか。うちの技師がメログデンから探せばメイセアの軍事情報を見られるぞ」
「それはお互い様だよ。ペルトーレで基地の中を見られるから。僕は全然興味ないけど」
「ふん。噂に聞いていたが生意気な子供だ。いいだろう。その辺は後でダンル王子と話をつける。始めてくれ。こちらも手配する」
ペルトーレはボルザットをゼンゼルグの格納庫に入れて一旦港を出るとメログデンに来るように指示した。各所でドレング部隊が交戦している中、メログデンが高速で港に到着した。
「死ぬかと思ったぞ」
ブリッジで艦長のカムダがぼやいた。
「ここまで来たら大丈夫だよ。カリューダ派はゼンゼルグを破壊できる程、戦力はないからね。ペルトーレが止まっている間、ジェイスが周りを援護してくれ。ここはブラーゴ軍の中枢だからね」
「ますます人使いが荒くなったな。お前」
ジェイスがぼやきながらスパーシュをゆっくりと発進させた。
メログデンがゼンゼルグの横に止まった。ゼンゼルグではボルザットのコックピットでアクセスレベルの設定を整備士が行った。
メログデンの甲板に降りたペルトーレに整備士がケーブルを繋いで船のシステムとの接続テストを始めた。
「トオヤ。どういうつもりです」
無線からシャルンの不機嫌そうな声がした。
「そんなに怖い声を出さないでくれ。最適な判断をしたまでだよ。メイセアの為に」
トオヤが明るく答えた。
「そうでしょうか。あなたはこの状況を楽しんでいるようだ。どちらの為でもなく見下して」
「まるで神のようだと? あっ、神というのは地球で広まっている人類を超えた絶対的存在が命を創り世を治めているという信仰でね。僕はそんな存在になっているつもりはないよ。ただメイセアの者として動いているだけさ。安心したまえ」
「そうですか。よくわかりませんが信じていますよ。神になりたいトオヤさん」
シャルンは無線を切った。
「僕のせいでシャルンの口が悪くなったのかな。ヴァンジュはどう思うかい?」
『トオヤとシャルンの信頼関係は標準以下。軍務の関係は良好』
ヴァンジュが答えるとトオヤは思わず笑った。
「仕事だけの関係か。悪くないな」
しばらくして接続テストが終わった。
ドルギらブラーゴ軍の技師がメログデンの制御室に入った。
「ブラーゴの王子が直々に本艦に来るとはな」
ブリッジでカムダがため息をついてぼやいた。
「いいじゃないですか。異常事態続きの船ですから何があっても驚きませんよ」
オペレーターの男が言った。
「そうやって適応できるのはいい事だ。頭が痛くなってきたぞ」
カムダは帽子を深く被って艦長席にもたれた。
「始めて下さい」
制御室でシャルンがトオヤに呼び掛けた。
ゼンゼルグの中にいたボルザットが外に出た。
「誰も乗っていないのに動くのか」
技師の一人がモニターを見て驚いた。
「元々メイセアのゴレットですし知能の部分は手を加えられていないのでペルトーレの指示に従うのですよ」
シャルンが淡々と説明した。
ボルザットが甲板に出ると両手を広げて宙に浮いた。
「今からそちらに内部の映像と認証情報を送る」
トオヤの声と共に大型のモニターに基地の中の映像が次々とウインドウ状に重なって表示された。あまりの映像データの多さに技師達が驚いた。
「こんなに大量に映った中からどうやって探せばいいんだ」
技師達がざわついている中でドルギは腕を組んだまま考えた。
「なるほどな。兵のみが映っている分を削除しろ。認証番号で識別」
ドルギが指示すると技師達が端末を操作した。画面が次々と消えた。
「次は基地に常勤している業者を削除」
ドルギの指示で更に画面が消えた。
「誰が残った」
「避難民と政府関係者です」
「よし、政府関係者の認証番号で抜き出せ」
ドルギの指示でウインドウが殆ど消えた。モニターで重なっていた映像が一覧式で表示された。ドルギはモニターを見て考えた。
「そういう事か」
ドルギは耳に着けた通信機を操作した。
「ゲゼイ、私だ。カリューダの側近がザルグの塔に集まっている。恐らくそこだ。艦長、巡洋艦をザルグの塔の港に向かわせろ。そこから逃げるつもりだ」
通信を切ったドルギは、
「協力に感謝する。引き上げるぞ」
と一礼して技師達と共に退室した。
「トオヤ、終わりました」
シャルンが言うと、
「ああ。疲れたから休むよ。あとよろしく」
と気だるく答えた。
ボルザットがゆっくりゼンゼルグの甲板に降りた。
「何を考えているのやら」
スパーシュのコックピットでジェイスはペルトーレを見て呟いた。
補給基地ではザルグの塔と呼ばれる建物に兵が集まった。
「ここも危ないな。船に移るか」
部屋でカリューダが言っていると外で悲鳴が聞こえた。
ドアが光弾で撃ち抜かれてゲゼイ達が乗り込んだ。
「カリューダを見つけた。塔を封鎖」
ザッズが通信機で言うと「わかった」と管制室にいるシャイザが答えた。
「カリューダ!」
ゲゼイ達が兵を取り押さえている隙にミッドレがカリューダを殴って胸ぐらを掴んだ。
「ロゼムはどこだ! 言わないと殴り殺すぞ!」
怒鳴るミッドレにカリューダは驚いた。
「お前はメイセアの……そうか。昔の恋人を探しに来たか」
「無駄口叩かず居場所を言え!」
嘲笑うカリューダにミッドレが怒鳴った。
「カリューダ、事情は後で聞く。そこの司令官に殺されたくなかったら早く言うんだ」
ゲゼイが言った。外で銃撃戦がまた始まった。
「簡単に言うと思うか。ブレッツォ王とゼイア王妃を殺した私が」
カリューダがミッドレに掴まれたままニヤリとした。
光弾がカリューダの右耳を貫いた。カリューダが「うわっ」と叫んだ。
「いい気になってんじゃねえよ」
ザッズが光線銃を構えたまま怒鳴った。
「よさんか! とにかく居場所を言うんだ」
ゲゼイが急かすように言った。
「殺すなら殺せ。ロゼムが帰ってこないぞ」
カリューダが言うとミッドレは手を放した。
「それならお前を殺して俺も死ぬ」
ミッドレがカリューダを殴って腹に蹴りを入れた。
カリューダが「ぐおっ」と呻いた。
「ここまでくると怖いな。どれだけロゼムを好きなんだよ」
無言で馬乗りになってカリューダを殴り続けるミッドレを見てザッズが呆れた。
周囲の兵達も引いて様子を見ていた。
「言う気になったか。次で死ぬぞ」
息が荒くなったミッドレが立ち上がり再びカリューダの胸ぐらを掴んだ。カリューダの顔が腫れていた。
「お父様!」
隣の部屋からルーシが銃を構えて出てきた。
「ルーシ。巻き込んですまなかったな。私の事は構うな」
カリューダが優しい口調で言った。
「お父様……」
ルーシが銃を下ろした途端、光弾がルーシの腹を貫いた。部屋に居た者達が驚いた。
「お父様……」
ドレスが紫の血で染まった。
「何度も言うな。お前はブラーゴの姫だ」
カリューダが小型の光線銃をルーシに向けていた。
「貴様!」
ミッドレがカリューダを投げ飛ばした。
カリューダが立ち上がった時、光弾が二発、カリューダの腹を貫いた。
カリューダは「うっ」と呻いてその場にうずくまった。
紫の血まみれになったルーシが前かがみで銃を構えていた。
「ドルギ王子の妻として命じます。ロゼム姫の居場所を言いなさい」
ルーシのすごみのある声に部屋が静まった。
「やはり気が強いところは母親似だな。お前を最初に殺しておくべきだった」
「そんなに王族が憎いですか」
ルーシの息が荒くなった。
「姫の手当てを」
ゲゼイが言ったがルーシが手を伸ばした。
「私が死んで嬉しいのなら死にます。でもロゼム姫は助けて下さい。それで満足でしょう」
ルーシが言うと、
「すっかり王族に染まったか。わかった。パキラの町の跡…」
カリューダは虫の息で答えて目を閉じた。
「この者の手当てを。ゲゼイ殿、王子に連絡を……」
ルーシはそう言うとうつ伏せに倒れた。
「姫をお連れしろ。シャイザ、私だ。カリューダを拘束した事を全部隊へ連絡しろ」
ゲゼイが指示している間、カリューダとルーシが兵に担がれて連れ出された。
「我々も撤退する。ザッズは管制室でシャイザと合流。ミッドレ殿はお帰り下さい」
ゲゼイ達は部屋を出て格納庫に戻りそれぞれ帰った。
「わかった」
ゼンゼルグのブリッジでドルギが耳に着けた通信機に答えた。
ドルギは基地の兵にカリューダの側近と挙兵したカリューダ派を拘束する様に命令した。
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